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プロローグ

お久しぶりです。

餡蜜です。

今回は第5回ネット小説大賞用に書き下ろした作品です。

少しでも楽しんでいただけたら幸いです。

「では、HRを終わります。皆さん、気をつけて帰るんですよー」


 先生の声が終わった後に丁度チャイムが鳴り、教室は生徒たちの声で溢れかえる。


「今日どこ行くー?」

「久々にカラオケ行かね?」

「いいね!」


 男子や女子の声が入り乱れ、放課後何処に行くなどの他愛の無い会話が広がっている。


「サクはどっか行くか?」


 髪を金に染め、制服を着崩した男子が快活な笑顔を浮かべながら教室の隅、一番後ろの席で荷物を片付けていた男子?に話しかける。その男子は思わず疑問符を付けてしまうほど中性的で一目では男とは分からないほど女性っぽい顔つきをしていた。彼の名前は此花朔夜このはなさくやという。


「総司、ごめん。僕今日はバイトがあるんだ」

「そっか、また今度誘うな!」

「あ、明日なら暇だよ」

「じゃあ、明日どっか行こうな!」


 総司と呼ばれた男子は少し残念そうにしながらも朔夜の席を離れ別の男子グループに突撃していく。

 朔夜はそれを見て苦笑を浮かべた後、残りの荷物を全て鞄にしまうと、席を立ち教室から出て帰路に着いた。


〜〜〜


「んー、疲れたなぁ」


 夜8時。

 辺りもすっかり暗くなってしまった夜道を朔夜は一人で歩いていた。


「それにしても天音姉さんよく僕に女装させたがるなぁ…いや、女顔だとは自覚してるけどさ、男の子としてはやっぱりなぁ…」


 朔夜はぼやきながら歩く。

 ふと、顔を上げてみると空には満月とそれを彩るように星々が散りばめられていた。


「綺麗だなぁ…最近じゃ全然見れないのに、今日は運がいいや」


 上機嫌に歩いていると曲がり角から怪しげな男が出てきた。

 黒のパーカーとジーパンを履いている。すっかり日が落ち辺りが暗いのと、男がフードを深くかぶっていて顔がうかがえない。

 朔夜は男と距離を取るため道路の反対側により横目で男を見ながら通り過ぎようとする。

 1歩、2歩と進んでいくごとに男との距離が縮まる。

 そのまま男とすれ違い離れていく。


「ふぅ、緊張したぁ…最近は物騒だけど気にし過ぎかなぁ…」


 ちらり、と振り返り後ろを見るがフードを被った男は何事もなかったかのように歩いていた。


「やっぱり、気にし過ぎだよね」


 一言呟いて、前を向くと自分の正面に誰か立っていた。


「あ、すいま…」


ドスッ!


 咄嗟に謝ろうとした声は続かなかった。

 朔夜は崩れるように地面に倒れる。


(痛…い!?な、なに…されたの!!?)


 朔夜は首だけで痛みがひどい腹部を見る。

 そこには包丁の柄が見えた。

 ――刺された、と反射的に理解した瞬間朔夜の体を激痛が襲った。


「〜〜〜!!!!?」


 声にならない絶叫が辺りに響く。

 朔夜が激痛で身体を引きつらせているところに男は手を伸ばし腹部の包丁を抜く。

 包丁を抜く際の痛みで朔夜が痙攣する。

 包丁が栓の代わりをしていたのか抜かれた傷口から大量の血が溢れ出す。

 地面に広がった血は朔夜の身体を赤く染め上げる。


「ひひ、こ、殺した。お、俺が、殺ったんだ…ひひ、ひひひひひ!」


 男は狂ったような笑い声を上げながら狂気に染まった瞳で朔夜を見下ろす。


「コヒュー…コヒュー…」


 男が一人ブツブツと声を漏らしている間に朔夜の喉が枯れ、身体は感覚が無くなっていき既に痛みを認識できなくなっていた。


(あぁ、僕死ぬのかなぁ…)


 朔夜は霞がかかったようにぼんやりとした頭でそんなことを考えていた。


(母さん、父さん…親不孝な息子でごめんなさい……総司、約束守れそうにないや…)


 普通なら刺した相手のことを恨みでもするのだろうが、死ぬとわかった時に朔夜の頭に浮かんだのは両親の顔と幼馴染の総司のことだった。


「コヒュー……」


 朔夜の息も弱々しくなり、だんだんと消えていく。


「あ?こいつまだ死んでないの?」


 男は目の前で倒れて今にも死にそうな、しかしまだかろうじて生きている朔夜にドスの効いた低い声で呟く。


「なんで!死んでないんだよ!?早く死ねよ!!!」


 男は狂乱したように頭をかきむしり、左手に持っていた包丁を握り直すと朔夜に対して振り下ろす。

 既に痛みを感じず手足を動かせなくなった朔夜はぼんやりと見上げることしかできない。

 男が腕を振り下ろし朔夜に向かって包丁が刺さりそうになった瞬間、突然男が横に吹っ飛ぶ。


「ぐべぇ」

「テメェ!サクに何してんだ!!」


 朔夜の耳によく聞き慣れた声が聞こえた。

 男は塀に頭をぶつけ起き上がらなかった。

 打ち所が悪く気絶したのだろう。

 朔夜を助けた人物は朔夜の体勢を変えると傷口を抑える。


「サク!…クソ、血が止まらねぇ!おい、サク大丈夫か!?今救急車呼んでやるからな!!」


 総司は傷口を抑えながらスマホを取り出し救急車を呼ぶ。

 今の場所と状況を電話で伝えると乱暴に切る。


「そ…う、じ?」

「そうだ!大丈夫だからな、あと少しの辛抱だ!救急車は呼んだからそれまで頑張れ!!」


 総司の必死そうな声が聞こえる、と朦朧としもうほとんど働いていない頭でそれだけを考えた。


(あぁ、そういえば総司に謝らなくちゃ…)


「そ…う、じ……ご、めん…やく、そく…ま…もれ、そう…にな、いや…」

「おい!?サク何諦めてんだよ!!明日遊ぶって言ったじゃねぇか!!!」

「ごめ……ね」


 朔夜の瞼が落ちる。


「…おい?サク?…サク!目を覚ませよ!覚ましてくれよ!!」


 総司の瞳から涙が溢れてくる。


「あぁぁあああああああああああ!!!」


 総司の慟哭が夜の道路に響き渡る。

 遠くからサイレンの音が虚しく聞こえてきた。




 この日、一人の少年の人生が幕を閉じた。

 そして、一つの物語が生まれ落ちた。

いかがだったでしょうか…

三人称は難しいですね…

頑張りますんで応援よろしくお願いします!

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