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俺と私の公爵令嬢生活  作者: 桜木弥生
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50話 俺と私のライバル宣言⑥

 サラの用意してくれた部屋に着くと、アラン兄様はすでに部屋で待機していた部屋付きのメイドを下げさせた。

 室内には俺、アラン兄様、ランディス王子。それとサラとユーリン。途中から合流したロイが入ると、最後に入室したロイに内鍵を掛けるようにアラン兄様が手振りで指示する。


 口元は笑顔で、目は笑っていないアラン兄様…ハイ。完全に怒ってらっしゃいますね。

 そしてその隣で苦笑しながら事の成行きを見守るランディス王子。

 扉の近くで心配そうに眉を寄せるユーリンと、顔面蒼白のロイ。

 その中でサラだけは俺の隣でにこにこと笑顔を保っている。本当に神経が図太い…って何故睨む!?心が読めるのか!?


「はぁ……さて、どう言う事か、詳しく説明して貰おうか。

 ユーリンはお茶の用意を頼む」


 アラン兄様は大きく溜息を吐き出すと、部屋の中央に備え付けてある革張りのソファの一つに腰を下ろした。それに続くようにランディス王子がその隣に。

俺はアラン兄様の正面のソファに、そして俺の左隣にサラが座る。

 ユーリンは俺の斜め後ろにある茶器で茶を淹れ、ロイは扉の横で腕を後ろで組んで待機の姿勢だ。


 さて。なんて言えば正解か…どう言っても怒られそうな気はする…

 でも言わなくても怒られるだろうしな…ってか、何で俺ってバレたんだろ…


「…何故私だとわかりましたの?…」


 そう。正直、誰にもバレないと思ったくらい良く出来た変装だった。それなのに、何故かアラン兄様にはバレた。


「愛の力だ。俺が可愛いアンリを見間違えるわけがないだろう?」


 え。やだ。怖い。

 兄様の発言に引きながらもふとランディス王子に視線を移すと、驚いた表情でアラン兄様を凝視していた。うん。いくら友達でもそれは引くよなぁ。


「で、何故アンリエッタが大会に出ていたのかな?」

「えっと…それは…」


 バレるなんて思ってなかったから言い訳も考えてなかった。さて、どうしようか…

 何て言おうか視線を漂わせていると、そっと左手に温もりを感じた。

 暖かいそれを見下ろすと、俺の土と滑り止めで汚れた褐色に染めた左手の甲を、サラの白い手で包むように置かれていた。そのまま視線を上げ、サラの顔を見ると安心するような笑顔で頷かれた。


「差し出がましいようですが、私から説明をしても宜しいでしょうか?」


 全員の視線がサラに集まる。

 静かで柔らかい声で遠慮がちな台詞を言うけど、その声音には否を言わせない何かが含まれていた。


 兄様は小さく頷くと話を促すようにサラを見詰めた。


「申し訳ございません。アンリエッタ様に剣をお勧めしたのは私なのです」

「……何故か聞いても?…」

「先日、アンリエッタ様から王太子殿下の婚約願いをお受けしたと伺いました。けれどまだ婚約式までの期間もあると」

「あぁ。日取りやら決めなくてはいけませんし、まずキース殿下がお忙しい身であらせられますからね」


 アラン兄様はチラリとランディス王子に視線をやるも、すぐにサラに向き直って話しをしている。何かあるのか?と思ってランディス王子を見たけど、当のランディス王子は自分の襟首に手を回しているだけで、特に何の変化も無かった。


「王太子殿下の妃候補というだけでも他の令嬢から妬まれる事もあるでしょう。そして、その中には『アンリエッタ様がいなければ』と思う者だって少なくはないと思いましたの。

 それでなくとも、以前、アンリエッタ様は賊に襲われていらっしゃいますし、その賊も誰かに依頼されての行動でしたのでしょう?今後も…多分、婚約式をするまではアンリエッタ様を害そうとする者は現れると思うのです。場合によっては婚約式を終えてもそれは続くかと…」

「えぇ。その為に今はアンリには十分に護衛も付けています」


 その言葉にニヤリとサラは唇の端を上げた。


「たった一人や二人の、ですか?

 あの一件があったにも拘らず護衛が二人というのは少ないのでは?」


 前屈みになって、まるで秘密の話をするようにアラン兄様に顔を近付けるサラの横顔は、姉貴の悪巧みを相談する時の表情だった。


「これは私の推論でしかございませんが、まだ、あの賊の残党、もしくは依頼主が見付かっていないのではないでしょうか?

 だから、アンリエッタ様に護衛はつけても少数精鋭で、相手に警戒をさせない人数にしているのでは?

 そして、アンリエッタ様が外出する際には、離れた所にも護衛を増やしておいでですわね?」

「……何故それを?…」


 サラの言葉に目を丸くさせるアラン兄様。

 え?何今の話?え?マジで?

 それって、囮とか言うやつじゃねぇの?


「アンリエッタ様とお会いする際に、遠くで隠れて付いてくる方が見えていましたので」


「私、目は良い方なんです」と口元を手で隠してコロコロと笑うと、その手を頬に当てて首を傾げるサラ。


「で、思いましたの。

 あんなに遠くにいたら、もしアンリエッタ様が攫われるのならまだしも、その場で刺されたり斬られたりしたら、意味ないんじゃないかしら?って。

 そして、それを防止する為にはアンリエッタ様に最低限…いえ。それ以上の防衛技術を身に付けた方がいいのではないかしら?って。

 けれど、防衛だけというのは憶えることは難しいですわ。

 女性ですもの。体力で男性には勝てませんし。

 そこで思いつきましたの。

『なら、防衛ではなく、普通に剣術もしくは体術を覚えて頂いたらいいのでは?』と。

 それに、結婚の後に命を狙われる事があったとしても、自らの身を守れますし、王太子殿下を守る事も出来ますでしょう?」


 スラスラと、まるで台本でもあるかのように言うサラ。

 兄様、目、点になってますがな。


「私が防衛術をお教えする事も考えたのですが、私ができるのは体術です。相手が武器を持っていた場合にはどうしようもできません。

 ですので、アンリエッタ様にも可能だとしたら剣術かと思い、提案させて頂きました」

「………なるほど。ですが、いくら剣術とは言え女性と男性の力では差が出ますし、公爵令嬢のアンリに剣なんて重い物が扱えないとは思わなかったのですか?それに、ひ弱な令嬢が剣技を体得できるとは思わないのですが」

「あら。今は女性騎士もいますから、女性用の軽めの剣も売っていましてよ?それに、剣の腕はご覧になられたかと思いますが、アンリエッタ様の剣技は男性にも遜色ないと思いませんでした?」


 お互いに優しげな口調で微笑みながら言ってはいるものの、チリチリした緊張感というか圧迫感があるというか…空気が重くなってきている。


 うん。俺、口、はさめない…


 静かに話しているはずの空間なのに、まるで喧々囂々と意見を言っているような空気に、まだ湯気の昇る紅茶のカップに唇を付けた。


更新が遅くなり、大変申し訳ございませんでした。

なんとか少しづつではありますが小説を書く事ができるようになりましたので再開させて頂きます。

今後ともよろしくお願いいたします。

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