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俺と私の公爵令嬢生活  作者: 桜木弥生
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5話 俺と私のオトモダチってナンデスカ①

 バタバタと支度を整えた後ダイニングルームに行くと、兄、アラン・グレイスが書類を片手に紅茶を飲んでいた。


 王宮騎士団の副団長をしているだけあってその体躯は程よい筋肉を付けて引き締まっている兄は、アンリエッタよりも若干薄い青銀髪に青い瞳と麗しい見目をしている。

 アンリエッタは母譲りの緑の瞳だったのに対して、兄は父譲りの深い海の底の青色だ。


 髪と瞳の色が色だけに一見冷たい印象に見られるその容貌は、俺に気付くや、ふにゃりと間の抜けたような笑顔になった。

 が、俺に向けられた視線は一瞬固まったように止まり、俺のつま先から頭までを数回行き来すると顔を段々と青く染め……あー…おにーさまがプルプルし始めた…


「…アンリ……アンリ…髪が…髪が無い…」

「髪はありましてよ。お兄様。」


 まるでハゲみたいな言い方はやめてくれないか。にーちゃん。


「髪型を変えてみましたの。

この長さならストレートでも良いですし、今のように毛先だけふんわりとさせる事もできますし、パーティー等ではアップにする事もできますのよ」


 切った後にユーリンがしてくれた髪型は、毛先にだけ緩くカールを当て、耳の上の部分の髪を少し取って後頭部に向けて編みこみ、編みこんだ分の髪だけ大きめの白いレースのリボンで纏めてある髪型だった。

 この髪型は少し動くだけで髪がふわふわと踊るように揺れ、可愛らしさを醸し出す。


 そしてそれを知っている俺はわざと『似合います?』と、その場でくるりと回って兄様の方に再度向き、若葉色のドレスの両側をちょこんと指先で摘み上げて首を傾げてみせた。


「アンリはどんな髪型でも似合うよ。

でも、良かったのか?あんなに大事にしていた髪をこんなに短くしてしまって…」

「短くと仰いますけれど、普通の長さですわ。今までが異常な長さだったと気付きましたの」


 俺の言葉に『ふむ』と小さく考えるように頷いた兄様は、良い事を思いついたとばかりに微笑んだ。


「今日はこれから街に行くから一緒にどうだ?と誘おうと思っていたんだが…どうだい?

もし一緒に行けるなら、ついでにその髪に似合う髪飾りを買ってあげよう」


 あぁ、この誘いの為に一緒に朝食をと言うことでしたか。


 今日の街へのお出かけは、正直怖い。

 ヒロイン(サラ)との出会いのフラグが立つ日だから…

 サラにさえ会わなければ、死亡も没落もないと思うんだ。

 だから一番のフラグ回避は、『サラに会わない事』だ。


 でも、兄様からの誘いは捨て難い。


 今まで縦ロールだったから付けられる髪飾りはほとんど無かった。

 縦ロール至上主義だったアンリエッタは、縦ロールを結ぶ事もなかったからリボンも付ける事はなかったし、時々帽子を被る程度しかできなかった。

 だから新しい髪飾りは欲しい。

 そして自分で買うと俺のお財布の中身が減るので嫌だ。


 …

 ……

 ………

 よし。行くか。

 だって、すでにいくつかのフラグが立っていないし、大丈夫じゃね?

 レッスンを抜け出すというフラグは折れてるし、兄様と一緒だから人攫いにも遭う事もないだろう!


問題は『今日は遊びに行っちゃ駄目!』とセイラに言われていた事か…

チラリと壁際で待機しているユーリンとセイラを見やると、ユーリンは心配そうに眉を寄せ、セイラは『許可します』とばかりに無言で頷いた。

ちょっとセイラさん。貴女、お兄様には甘くないですかね?

まぁいいけど。


「行きますわ。いっぱい買って下さいましね」


お目付け役の許可も貰ったし、兄様に向き直ってにっこりと兄様の好きな可愛らしい笑顔を見せた。


 使えるモノは兄でも使う!

 その為には笑顔は0円でも振り撒くぜ!

 たんまりと買って貰うぜ!おにーさま!!



 なぁんて意気込んでたのは、数時間前の事だった…


◆◆◆◆◆


 俺達の住んでいる場所は、ブロムリア王国の王都になる。

 王都内には王城・城下町・貴族の屋敷等があり、王都の中心に位置するのは城下町の噴水で、そこから東西南北に向かう大通りがある。

 

 大通りを噴水から北へ真っ直ぐ行くと王城。


 噴水から東西に伸びる道路の東側に行くと、大通りの北側に公爵家・侯爵家のタウンハウスが。

 その向いの大通りの南側は伯爵家のタウンハウスがある。


 噴水から東西に伸びる道路の西側に行くと、大通りの北側に子爵家・男爵家のタウンハウス。

 そして向いの大通りの南側には、一般市民の中でも商業組合の組合長や、大きな商店主等の大金持ちの屋敷になっている。


 そして噴水から大通りを南に行くと、城下町で働く一般市民の住宅街があり、そこから更に南に行くと各領地への連絡路に出る為の門がある。そしてその門からぐるりと円を描くように高い壁が王都全体を囲っている。


 三百年前の世界大戦の際、当時のブロムリア国王が民を守る為と篭城できるように高い壁を作り、王都に入る為には南の門からしか入れないようにしたという。


 前世の日本を知っている俺からしてみれば、この作りじゃ戦になった時に袋の鼠だと思うんだけど、この世界ではこれが一番防衛に適しているらしい。


 まぁ、爆弾とか大砲はなかったから、確かに防衛には適しているのかもしれない。

 アンリエッタの記憶でなかったと記憶しているだけから、もしかしたら本当はあるのかもしれないけど。


 そしてこの南門には常に兵士がいる為、不審者なんかはここで捕まえる事ができて王都には入ってこれないようになっている。


 そしてもう一つ。

 南門内側には、馬車置き場がある。

 所謂『駐車場』だ。

 馬車置き場には、馬を世話する馬番と、馬車が持ち主以外が持っていかないように見張る見張りがいて、その横の小さな小屋は主人を待つ御者の待合室になっている。


 俺と兄様は御者に馬車を南門前の馬車置き場で止めて貰うと、開けられたドアから先に兄様が降り、差し出された手を借りながらゆっくりと馬車から降りた。


 今日は天気も良くて心地良い。

 この世界の季節は温暖差があまりなく、夏は暑すぎないし冬は寒すぎないので、寒がりで暑がりな俺には丁度良い。


「今日は天気で良かったな」


 俺の手を引きながら兄様がキラキラした笑顔でこっちに話しを振ってくる。


 うん。ふつーの令嬢なら一発で落ちるだろう笑顔は、妹の俺には通じない。

 通じても困る。

 近親相姦で中身だけならホモとか、マジで嫌だ。


 そんな俺の胸中を知らない兄様はそのままの笑顔で空いている手で髪を撫でてきた。


「どんな飾りにしようか?青いシルクのリボン…いや、濃い緑のリボンがいいかな。宝石の付いた髪留めもきっと似合うだろうし…アンリは可愛いからどれも似合いそうだ」


 そんなうっとりとした眼で言われても、ドン引きするだけですよー。おにーたまー。

 明らかに恋人にするような事を妹にしないでくださーい。


 ホホホと手を口に当ててドン引きなのを笑って誤魔化していると、街の中心から警備兵の制服を来た男達が3名走って来た。


「グレイス副隊長!!」

「どうした?何かあったのか?」


 走って来た隊服の腕章は緑…ってことは街を守る王都警備兵か。


「丁度良い所に…実はちょっとお耳に入れたいことが…」


 王宮警備兵の一人が俺をチラリと見た。

 あぁ。これ、俺は聞いちゃいけないやつか。

 そしてそれに兄様も気付いたようで小さく頷く。


「わかった。

アンリ、何かあると危ないから、ちょっと馬車まで戻って待っていてくれるか?」

「お兄様、私ももう17です。お子様ではないので、一人でも大丈夫ですわ。

お兄様がお戻りになるまで一人でお店を見ていますので、行ってらっしゃってくださいな」


 王都警備兵が、いくら副隊長とはいえ王宮騎士の兄様へ話しというのは、かなり込み入った、場合によっては厄介な事でもあったんだろう。

 って事は時間もかかるかもしれない。

 なら、一人で安全な場所の店を見て回って、欲しいものに目星付けて置くのがいいと思うんだ。時間的にも有効に!


「…本当に大丈夫?…お菓子くれるって言っても付いていったりしない?…変なのが出たら大声で助けを呼ぶんだよ?…迷子にならないようにできる?…」


 無言でジロリと睨み付ける。


「…せめて、大通りから外れないように…裏道は危険だから、絶対に裏には行っちゃダメだからね?…」


 心配すると小さな子供に諭すような口調になる兄様を安心させるように、睨んでいた目を閉じ、小さく溜息を吐き出す。


「…わかりました。裏通りには行きません。大通りだけ見て回りますわ。

見るお店も、中央噴水広場に向かう大通りの右側だけを見て回ります。

そうしましたらお兄様がお戻りになった時に、私を探しやすいでしょう?」

「…すぐに終わらせてくるから。そしたら好きなものを買ってあげるから…」


 もういい加減行けよお前!

 ほら!!後ろにいる王都警備兵めっちゃ困ってるじゃん!

 一人はドン引きしてるし、もう一人なんて手で口押さえて笑うの堪えてるじゃん!


「お仕事、頑張ってくださいましね」


 いつまでも動かない兄様に対し、にこやかに笑って送り出してやった。


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