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俺と私の公爵令嬢生活  作者: 桜木弥生
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49.5話 一輪の花 <side.ランディス>

タイトルは49.5話となっていますが、実際は48と49話の間になります。



「来られるなら仰って下さい。ランディス殿下」

「たまたま今日のデートがお流れになったものでね。確か今日は大会の日だったと思って来てみたんだ」

「…今度はどこの令嬢に手ぇ出してるんだか…」

「聞こえているよ。アラン」

「失礼致しました。つい本音が出てしまいました」


 騎士団主催の剣術大会、第二試合が終了と同時に運営本部に現れたランディスはお忍びデートの予定が潰れた為、服装が濃い紺地のシックな服装で友人のアランの所に顔を出していた。

 いくら学友とは言え王子と公爵子息。

 普段ならば軽口を言い合う二人だけれど、流石に公の場ではそれ相応の立場での会話にしなくてはならない。ランディスは普段通りでいいと言うけれど、堅物の友人は頑としてそれを良しとはせず、敬語で話す。時々イラっとした時にだけは今のように素が出てくるのがランディスは少し面白く感じている。


「ここは砂埃が結構来るんだな」


 二人のいる運営本部は二階建てになっており、一階がアラン達騎士団員のいる本部。二階が貴賓席になっている。

 本来は王宮騎士であるアランだが、この大会は他国にも知れ渡っているせいかこの大会を見るためだけに他国の王侯貴族がお忍びで来る事もある為、大会の間その方々を警護するのがアラン達、王宮騎士の仕事になる。


 二階の貴賓席は七部屋あり、各部屋は会場が見渡せるように三方向がガラス張りになり、背面に一人づつしか出れない扉が付いている為、砂埃等が風で吹き込まないようになっているのに対して、一階は倒れた参加者をすぐに救助できるように、また、何か有事があった際にすぐに退路を確保できるように全面が開けている為、戦う参加者の動きに合わせるように砂埃が舞い込んで来る。

 今もまだ第二試合が終わったばかりで砂埃が巻き上げられている。


「それでしたら殿下、貴賓席へご案内致します」


 アランはあからさまに『面倒臭い』といった表情を貼り付けて軽く礼をすると、ランディスを二階への階段へ案内した。

 苦笑しながらもそれに続き、案内されたのはブロムリア王族専用の貴賓席。

 貴賓席とだけあり、内装は質素すぎず。けれど調度品は落ち着いた色合いで整えられている。


 ランディスは正面の大会が見下ろせる窓際まで行くと、ガラスに右手を付き会場全体を見渡した。

 いつもは誰かしらとお忍びデートで来ている為に一般の観客席から見ていたから、この部屋から観覧するのは初めてだ。


「へぇ。結構見晴らしがいいんだな」

「貴賓席に来るのは初めてでしたか?」

「あぁ。いつもは一般席からだからな。今日は父上達は来ていないんだな」

「えぇ。いつも来られるヒース殿下もいらっしゃっていないですね」


 ふむ。と小さく呟きながら会場を見下ろす。

 二回戦を戦った者達が一箇所に集まっているようで、全員が何かをしきりに見ているのがわかった。

 そしてその何かを見や、落ち込む者。小さくガッツポーズをする者がいる。多分あれが合格発表の何かなのだろうとわかる。


 そしてあまり間を置かず、第三試合が始まる放送が入った。


「えー。では第三試合を開始する。Aブロック。ユーマ・キリター、前へ!」

「……え?…」


 名前を呼ばれた先を見ると、一人の少年が目に入った。

 この国では比較的多い焦げ茶色の髪に日に焼けたような茶色い肌の華奢な身体つきの少年は、手に付いた何かを落とすように手を叩き合わせている。


 温暖で穏やかなブロムリア王国に移住してくる他国民は数世代前の王から後を絶たず、その少年と同じ肌の色の人間は何人か見ている。

 だから肌の色で驚いたわけではない。

 けれど、ランディスは自分の目を疑うかのように、自分の目元を擦った。


「どうかなさいましたか?」


 まだ階下へ戻っていなかったアランが訝しげに問うと、視線はその少年のままで「お前も見ろ!」と慌てたようにアランを窓際に呼んだ。


「アンリ嬢がいる!!」

「あぁ。観覧に来ているようですね。先程、アンリの侍女が昼を持ってきてくれましたし」


 あまりにも慌てた様子のランディスに首を傾げながらアランは答えるも「違う!」と「良く見てみろ!」とゆっくり窓際に移動してきたアランの手首を掴んで窓際に寄せた。


「ほら、あそこのAブロック!小さい方、アンリ嬢だ!!」

「Aって…一番遠い位置じゃないですか。良く見えますね…って、違いますよ。アンリじゃありません。アンリはもっと雪のように真っ白で決め細やかな肌ですし、髪だって違うでしょう」

「いや!あれはアンリ嬢だ!今すぐ大会を中止しろ!!彼女が怪我でもしたら大変だ!!」


 アランは、まるで半狂乱になったかのように慌てる友人の後頭部をべチンと軽く叩いた。


「とりあえず落ち着け。まず、大会は今開始の合図が入ったから止めらないし、アンリが大会に出ているわけがないだろう?」

「…あぁ。でも、あそこにいるのは確かにアンリ嬢だ。間違いはない」

「だから、アンリが大会に出るわけがないだろう。顔だって違……………アンリ?…」


 丁度試合が終わり、相手の少年と笑顔で握手をするその少年の顔を見たアランは一瞬固まり、小さく自分の最愛の妹の名前を呼んだ。


「だから言ってるだろうが!」

「棄権させる!!俺のアンリに傷一つ付けてみろ!末代まで追いかけていって殺してやる!!」

「って、おい!?」


 叫びながら扉をバンッと大きな音を立てて開けると一目散に一階に走っていくアランの姿に、残されたランディスは小さく溜息を付きながら髪をかき上げた。


「ったく…アンリ嬢の事になると暴走しやがって…って、俺もか…」


 先程までの自分を顧みて苦笑を漏らしながら開け放たれた扉を一瞥し、もう一度下にいるアンリを見下ろした。


「…困ったお嬢様だね。こんなに俺達を心配させて。その姿も凛々しくて素敵だけど、心配させた分のお叱りはお兄さんからきちんと受けて貰わないとね」


 アンリを見詰めながら愛おしそうにガラスを擦ると、暴走した友人を落ち着かせるべく階下に続く扉に向った。




(きみは俺の一輪の花だから、どんな花に紛れていても見つけ出せる自信があるよ)

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