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俺と私の公爵令嬢生活  作者: 桜木弥生
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46話 俺と私のライバル宣言②

 城下町の中央噴水から北に行き、王城手前を西へ行くと開けた場所があり、そこにはコロシアムのような建物がある。

 と言っても、中世ヨーロッパとかにあった物々しい感じではなく、ぱっと見、前世にあった野球場のような形で、中心を向うように椅子が段々に並べられている程度の場所だ。

 この場所はいつも公開訓練で使っている場所だったりもする。

 中央が土で、周りが芝になっている為、芝の場所にも座れたりするから、そこで休憩しながら剣を教えて貰ってるわけで。


 そして今日はこの場所で大会がある。


 そう。騎士団主催の剣術大会だ。


 開始の合図はまだなく、観客席に座った観客達の声がざわざわと響いている。

 芝の場所には出場を控えた選手達。

 そこに俺も並んでいる。


 緊張で真っ青になっている人もいれば、余程の自身があるのか、ニヤニヤと周りを見回しているヤツもいる中で、俺は静かに瞳を閉じて壁に寄りかかり、周りのざわめきを聞いていた。


 緊張は…してる。

 まるで、前世で初めての剣道の試合に出た時のようだ。

 でも、嫌な気分ではない。むしろ心地が良い。


 ふと、ざわめきが止まった。

 それとほぼ同時に、一人の男の声が聞こえた。


「今回も沢山の騎士を目指す者達が集まってくれた事に、まず礼を言う。この大会に置いて、騎士を目指す者として、剣の道を行く者として恥じる行為を禁じる。また、そのような行いをした者は、その場で失格、及び今後の大会への出場を禁じられる事を胸に置き戦いたまえ。では、第五十八回、剣術大会を始める!」


 瞳を開いて中央を見ると、堂々とした風格でそう告げたのは、王宮騎士団団長のベルナール様だった。

 その斜め後ろには俺の兄様であるアラン兄様も控えている。


 ベルナール様が開始を伝えると、一斉に客席から歓声が上がった。

 男の声は大会開始の声援とかだけど、女の声は、こんな時でもないと見る事もできない貴族であるアラン兄様達へのラブコールだ。

 うん。ベルナール様へのコールも多いけど、アラン兄様のが多い。

 妹としてちょっと鼻が高い気分だ。


 そんな中で、数箇所で戦う騎士志望の男達が剣技を披露している。

 人数が多い為、決勝までは三分の間で一対一で戦い、その技術や動きを見て点数を付けていくシステムらしい。

 もちろん、両方の腕が良いと見なされれば両者とも準決勝に上がれるし、逆に両者が下手であれば両者とも落ちる。

 そうして準決勝に上がれるのは10人前後になるらしい。

 そこからまた一対一で戦って点数を付けられ、その上位二名で決勝戦だそうだ。



「…では、次の試合を始める!ユーマ・キリター前へ!」


あ。呼ばれた。


 掌の汗を腰で拭い、木刀を持って呼ばれた場所に移動する。

 判定をする騎士団員に木刀を渡して異常がないか、細工がないか確認して貰ってから試合開始になる。


「……大丈夫か?…」


 木刀を返される時に心配そうに言われた。

 そりゃそうか、相手は自信満々気にニヤニヤした男。多分二十くらいか。

 筋骨隆々で、強そうだし。

 そんな相手の俺は、見た目華奢な少女にも見える程の少年だ。


 いや、実際少女なんだけども、現在は変装中だから少年の姿だ。


 目の端に映るのは、見慣れた青銀髪じゃなくてどこにでもいるような茶髪。

 サラが準備してくれたらしいコレはカツラになっていて、隠した地毛に止めている形だから、ちょっとやそっとの動きじゃ外れないようになっている。

 実際このカツラをかぶったまま走ったり泳いだりしてみたけど、全然外れる様子もなかった。


 で、肌色も隠すように色粉で茶色く染めている。

 色粉って言っても化粧品のそれだから、化粧落としで消せるという優れもの!


 ってか、こんな中世世界で前世のモノがあるとは思わないからな…

 流石ゲームの世界だと関心する。

 カレンダーとか、ちょこちょこと前世であった不都合のないようなものがこの世界にもあったりするから色々と便利だ。


 まぁ、そんな感じで肌の色も、髪の色も長さも全部違うようにして、胸も布で巻いて締め付けているから、パッと見は少年にしか見えないようになっている。


 アラン兄様がいるのに元の姿で大会に出たら、予選の段階で職権乱用で失格にされるのがわかってるからこうするしかなかったんだけど。


「大丈夫です」


 心配そうな判定員に軽く微笑みながら木刀を受け取り、感覚を確かめるように片手で素振りする。

 ヒュンという風を切る音が心地が良い。


 俺の相手の木刀も確認が終わったようで返されている。


「ではお互い悔いのないように。始め!」


 お互いが見合った状態で開始の合図が成された。



◆◆◆◆◆


「チートでしょ」


 一試合目が終わり、他の人の一試合目が終わって合格者が発表されるまでは自由時間になる。

 人数が多いからこの時間が長い為に、その間は各自応援の人や家族と一緒に過ごしたり、昼食を取ったりしている。

 合格発表と準決勝は午後になるから。


 俺の横でニヤニヤしながらチート扱いするサラは、公爵家の料理人が作ってくれたサンドイッチを頬張っている。


「まさか俺もあんなに早く終わるとは思ってなかったんだって」


 男の姿で令嬢言葉を話すわけにもいかないから男言葉でそう言うと、俺もバスケットの中からサントイッチを一つ取り出して噛り付いた。


 一応家人には『サラとピクニック』と言って出てきたから、今この場にいるのは俺とサラとその護衛のロイだけだ。

 一応ユーリンもいたけど、「ついでなのでアラン様にもお弁当を届けて参ります」と騎士団の方へ差し入れに行っている。


「でも流石に開始数秒で沈めるのは、点数付かないんじゃない?」


 二個目のサンドイッチに手を出しながらサラは心配そうに言った。



 試合開始の合図があった直後、相手が油断していたのか挑発してきた。

『そんな細腕の軟弱カマ野郎が俺様を倒せるとでも思ってんのか』と。

『ハンデで、先に攻撃してきていいぜ』とも。

 正々堂々と行わなくてはいけない勝負で、そんな事を言う事に驚いたのは俺だけではなくて、判定員も『口が過ぎると失格とみなします』と言っていたけど、それを無視して『さぁどこにでも打ち込んで来いよ』と馬鹿にした態度をしている相手に、『じゃあ遠慮なく』と脳天に木刀を打ち込んだのは、開始の合図から一分に満たない時間で。


 その一撃で相手はあっけなく気絶した。


 多分、俺の剣なんて簡単に避けれるとでも思ったんだろうな。

 けどそれよりも早かったからまともに食らったんだろう。


 一応三分の時間を持たされている試合だけど、相手が失神したりすれば継続不可として試合終了になる。

 ただし、これは勝者にもマイナスで、きちんとした剣技を見せる時間も少なくなるって事で…。

 失敗したと後悔したのは「試合終了!それまで!」の判定員の声を聞いた時だった。


 ちなみに、倒れた相手を運び出す騎士団員達を見ていた俺に


「あの人は態度も悪かったので今後一切の出場を禁止とします」


 と、判定員の騎士団員さんは微笑みながらも笑っていない瞳で言っていた。


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