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俺と私の公爵令嬢生活  作者: 桜木弥生
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44話 俺と私の秘密の花園⑧

 用を足してすっきりした。

 なんとか、令嬢として…ってか、人としての一線を越えるのは免れた。

 …かなりギリギリだったけど。


「まず、このドレスが悪いんだよなー…ごてごてして、スカートの中にも色々と穿かなきゃいけねーし…おかげでトイレ行くにも一人じゃ難しいし…」


 そう。普通の令嬢ならドレスの中にパニエを何枚も重ねてるからメイド一人か二人に手伝って貰ってのトイレだ。

 でも、元日本人の俺にしてみたら他人…しかも女の子にトイレの介助されるとか、絶対嫌だ。

 だから一人でできるように訓練したから、なんとかできるようにはなったけど…それでも、正装だと一人じゃ無理だ。

 今日は王妃様方との茶会だからコルセットも緩めにして貰ったから、そのお陰でなんとか一人でもトイレできる。




「さて。戻らねぇとな…」


 離れを出て、来た方向を確認。確かあっちから来たはず。

 って…来た方向から左の方向の大きな木の足元に何かある?


 ちょこんと草むらから出たそれが気になって近付く。

 そこにあったのは、普段は縛っている燃えるような赤毛を解いて肩に散し、同色の赤い瞳は閉じられて男にしては長い睫が影を落とした、ランディス王子だった。


「ランディス様?…」


 腕を胸の前で組み、足を投げ出して木に寄りかかるようにして眠っている。

 って、何で王子がこんなとこで寝てるんだよ。


 思わず隣にしゃがんでランディス王子の寝顔を覗き込むと、閉ざされた睫が強く震え、ゆっくりと瞳が開かれた。


「…ん…?…」


 焦点合ってないな。これ、寝ぼけてるやつだ。


「…ゆめ…かな…」


 普段女性に見せている微笑とは違って、蕩ける様に微笑むランディス王子に胸が高鳴り、頬が熱くなる。うん。これは卑怯だ。

 令嬢達が惚れるのが判ってしまうかもしれない。


 とろんとした表情で俺の赤い頬に手を伸ばすと、頬、頭と順番に撫でられて引き寄せられた。


「ラっ…ランディス様!?」


 ぎゅうぎゅうと強く抱きしめてくる力強い腕に成す統べなく取り込まれる。

 ってか痛い!力入れすぎだボケ!!


 兄様曰く『ランディスは寝起きが性質が悪いからなぁ』と以前苦笑しながら言ってた事があるけど、コレか!


 ジタバタともがくけど二十歳過ぎた男の力には敵わない。

 でもこのままも色々とマズいと思うんだ。一応俺、キース王子の婚約者だし。


 ランディス王子は兄様と子供の頃からの付き合いだから、俺もそこそこ知っている。アンリも子供の頃は時々遊んで貰ってた。

 前世で言うならば『幼馴染』という立場に当たるんじゃないだろうか。王子を幼馴染扱いするのは恐れ多いけど。


 まぁ、だからと言ってこの状況を甘んじてちゃいけないよなー。


「ランディス様、起きてくださいませ」


 ペシペシと抱き締めてくる二の腕を叩いて起こそうとするけど、全然離れてくれない。さっき高鳴った胸はもう落ち着いたし頬の熱さも無くなった。

 つか、本当に寝起きの性質悪ぃなぁ…


 せめてもの救いは、この場所がドレスが汚れ難い芝っぽい草を使ってる事か。

 この草は前世ではないと思うから、多分ゲーム使用なんだろうな。

 擦れても草の匂いも色も付かないし、その草の下にある土も付かないから普通に座っても大丈夫なやつだ。そしてふかふかで結構気持ちが良い。


 まぁ、俺が今座ってるのはランディス王子の膝の上だけど。




さて。どうするかな…コレ…


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