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俺と私の公爵令嬢生活  作者: 桜木弥生
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37話 俺と私の秘密の花園①

 キース王子が邸に来て俺の剣技を見た日から、ずっと俺は部屋に缶詰にされていた。唯一外に出られたのは騎士団の公開訓練の日だけ。

 それ以外は屋敷内でもトイレとか食事とかしか部屋から出して貰えなかった。


 そしてあれから一月ちょっとが経過した今日。

 やっと外出が許されるようになった。


 あの日、夜に両親と兄様が帰宅後にユーリンから両親と兄様とメイド長のセイラと執事長のクロムに、日中の事をバラされた。

 勿論俺が剣を振り回していた事は秘密でそれ以外の、主にキース王子が来た事と、返事を急かす様な事を言われた事を不在だった全員に伝えていた。


 それを聞いた母様は真っ青になって倒れ、普段表情を出さないクロムも青くなっていた。

 逆にセイラは真っ赤になり怒り出し、それを兄様が宥めていた。

 父様は呆れたように俺を見ていたけど、キース王子に粗相をしていないどころか気に入られたようだとユーリンが伝えたせいか特にお咎めはなかった。


 けれどその後、復活した母様に手紙の件を黙っていたとして罰として一週間の外出禁止を言い渡された。

 そう。謹慎は一週間だったはずだった。

 謹慎四日目にヤツが来るまでは。


 四日目の昼。太陽が頂点から傾き始めた頃にヤツはやってきた。

 訪問者は花束とリルドの菓子を両手に携え、にこやかな笑顔で言った。


「お返事がまだ届いていませんでしたので、進行状況を伺いに参りました」


 その日、早朝に先触れが届いた邸に居た母様が俺と一緒に対応したもんだから、キース王子が帰ってから母様に「婚約願いのお返事が終わるまでは部屋から出る事を禁じます」と半分軟禁に近い状態で外出禁止にされてしまった。

 そしてキース王子はと言えば、三日から五日に一回はグレイス家の邸に顔を出すようになって、俺は一ヶ月間延々とお断りの返事を書く作業をする事になった。


 おかげで白魚のような右手にはペンダコみたく硬いのができるし、インクで若干汚くなっている。

 そして返事を書く後から後から、また新しい婚約願いの手紙は来るから終わらないし…途中で見かねたユーリンとロイが公開練習に行けるように色々画策してくれなかったら、今頃ノイローゼになっていたかもしれない。


 で、昨日。やっと最後の返事を書き終えた。


 …キース王子への「YES」の返事…


 ぶっちゃけ、返事を出したくなくて放置していた所もあった。でも、流石に頻繁に返事を催促しに来られたら、書くしかないだろ?…書き終わるまで家から出して貰えないし…



 そして昨日一番遅い時間に出した返事は、即日の内に王城へ届けられたようで、朝も早くから満面の笑顔で大輪のバラの花束を抱えて立っているキース王子と対面している。後ろに控えている護衛騎士の一人はなにやら大きな箱を抱えているから、また何かプレゼントでも持ってきてくれたようだ。

 毎回来る度に、花やらお菓子やら、アクセサリーやらを持ってきてくれたから、また今回も贈り物だろうな…


「この度は、婚約願いの了承のお返事を頂きありがとうございます」


 いつにも増して満面の微笑みに、俺の後ろの方で見ていたメイドが何か物を落としたらしい音がした。うちのメイドに被害与えないで下さい。


「お返事が大変遅くなってしまい申し訳ございませんでした」


 深々と頭を下げると伏せた視線の先に近付いてくる足元が見えた。

「顔を上げてください」と俺の肩を掴んで優しく立たせようとするキース王子。だけど、俺が頭を下げていた間にかなり近寄って来ていたようで、その顔は触れ合いそうなくらい間近にあった。

 って、近いよ!!イケメンが顔近付けんな!!


「やっと貴女に触れても許される間柄になりましたね」


 サラっとエロい事言ってんじゃねぇ!!

 って、怒鳴りつけたいけど相手は王太子…できるわけがない…


「婚約者でも、婚姻はまだですので節度ある関係が良いですわ」


 一歩下がって微笑む俺に、キース王子は不満気に眉を寄せながら微笑んだ。


 そう。イロイロ関係が進んでしまうと、今後婚約破棄があるから問題になってしまう。

 ゲーム上ではやっぱり乙女ゲームのせいか、婚約者とのそういう…例えばキスとかそれ以上とかの表現は出て来なかったけど、ここ一ヶ月ちょいのキース王子の行動を見ていたら、行動派だって事はわかるし、それ以上にこの王子かなりエロいようだから絶対アンリに手ぇ出してるはずだ!

 じゃなければ、婚約もまだの相手の手をあんな風にエロく触らないし甲斐甲斐しく手土産持って週一以上に来るとかしないだろ。


「……わかりました。貴女がそれを望むなら…善処はしましょう」


 あぁはい。善処はするけど約束はしないよーってやつですね。

 まぁ、善処してくれるならいいけど。


「ありがとうございます」

「でも…夜会のエスコートとダンスは触れる事を許してくださいね」


 俺のお礼に対して間髪要れずに言ってきたキース王子は、離れた分の一歩を詰めるように近付いてきた。思わずもう一歩後ずさるとその分をまた詰めてくる。

 笑顔で近寄ってくるから怖ぇ…


「あと、せめて一日に一回触れる事は許して頂きたいのですが。もちろん無体な真似はしませんよ。手を繋ぐとか、そう言う所から始めませんか?」


 一歩づつ距離を詰められ、気が付いたら背中に壁が当たった。

 そして逃げようにも首の両横に手を付かれて逃げられなくなって…って、これって所謂『壁ドン』ってやつじゃ…


「逃げないで下さい」


 スカイブルーの瞳は楽しむかのように細められ、至近距離で俺を見下ろしてくる。

 愛しい者でも見るようなその表情に、胸が鳴り、顔に血が集まってくるのが判る。


 俺はホモじゃない。ホモじゃないけど…男でも女でも美形に顔近付けられたら赤くなるだろ!だから俺はホモなんかじゃないんだ!離れろー!


 王子の胸を押して離そうとするも、力の差は歴然としていて全然離れない…


「殿下。他の者も居ます故…」


 キース王子の背後から、日に焼けたような肌の騎士団服に身を包んだ男が咳払いして止めてくれた。

 渋々ながら離れるキース王子に困ったように眉を寄せる、精悍なその顔は王子とは違う意味での美形だ。ワイルドな感じの。

 赤銅色の髪を後ろに撫で付け、黒い瞳は釣り上がっている。

 咳払いした唇は薄くて…どちらかと言えば漢って感じの男性だ。

 そして俺はその男を知っていた。


「お久しゅうございます。ベルナール・グラッツェ様。いつも兄がお世話になっております」


 ベルナール・グラッツェ。グラッツェ伯爵の嫡子。伯爵という下位貴族だけど、その腕を見込まれて王宮騎士団の団長をしている。アラン兄様の上官だ。

 前に兄様に紹介された事がある。


「お久しぶりです。グレイス嬢は益々お美しくなられて…この度はキース殿下とのご婚約、まことにおめでとうございます」


 騎士の礼を取り祝いの言葉を述べるベルナール様。

 結構なイケメンだと思うけど、ゲーム上ではモブだったはずだ。

 名前はチラっと出たけど恋愛対象ではなかった。


「お祝いの言葉ありがとうございます。ですが、まだ婚約式もしておりませんので…」


 そう。婚約願いの返事は出したけど『婚約式』をしていないからまだ正式な婚約者ではないんだ!

 この国の貴族は婚約願いの了承が行われると、その了承の手紙と婚約願いの手紙を一緒に持って、王家の了承を得る儀式をする。

 大体は夜会とかで王の前での婚約宣言をして終了なんだけど、最近では結婚式と同じように教会で行うカップルも増えているとか噂で聞いた。


 まぁ。そんなわけで『ぎりぎりまだ』婚約者ではない。


 …相手が王太子だから、すぐに婚約式の日取りを決められそうだとは思うけど…


いつも読んで頂きありがとうございます。

誠に勝手ながら、来週の更新は作者都合の為お休みさせて頂きます。

申し訳ございません。

 一部誤字修正致しました。

  誤)皇太子 正)王太子

  誤)スチレ 正)スチル

また、誤字や誤った遣い方をしている部分がありましたら教えて頂けますと幸いです。

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