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俺と私の公爵令嬢生活  作者: 桜木弥生
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34話 俺と私の貴族の婚約事情について④

 まぁ、そんなわけで現在、ロイと向かい合って木刀を構えているわけなんだが…ロイの方の木刀にはこれでもかというほどの布が巻かれている。


「当たったらお嬢様が怪我するではないですか!」


 とはユーリンの台詞。

 流石にそれは巻きすぎでは?と俺とロイが言うも、頑として聞き入れて貰えず、倍の太さになり重さもそれなりになってしまった木刀をロイが持つことになった。

 これ、かなりなハンデですよね。と思ったけどロイ曰く「普段使っている剣の方が重いので大丈夫です」と。男の筋力が羨ましくなった。

 というか男に戻りたい。

 この世界には魔法なんて都合の良いものはないし性転換なんて医術もないから戻る事はできないんだけどさ。


「では、準備は宜しいでしょうか?」


 サラが取り仕切るように中央に進むと、俺とロイの間に立って交互に見る。

 準備なんて宜しいわけはない。

 服はドレスで、髪は結ってあって、しかも靴はヒールだ。

 せめてもの救いは、家の中だからとヒールが太く短い物を履いていた事と、ドレスの裾が床を引きずる物じゃなかった事だけだ。


 そして動けないからと着替えようとしたら、これまたユーリンに反対された。

 そりゃそうか。男の服で動き回る姿はいくらなんでも王子様の前で見せられる姿じゃない。

 なのでこの姿で剣を振り回してみせないといけないのだ。


「宜しくてよ」

「俺も大丈夫です」


 まぁ、正直ロイとは剣を合わせてみたかったから、丁度良い機会だと思う事にしよう。

 騎士団の公開訓練に参加はしているけど『10歳以下の実力』の俺は、剣の持ち方や剣の構え方の基礎から教えられている為、まだ騎士団員とは手合わせしていない。

 ちなみに初日に俺の手首に痣を作った少年はすでに騎士団の一番若手のやつと剣を合わせている。まだ勝ててはいないみたいだけど。


「では、お互い手抜きのないように。用意、始め!」


 サラの開始の合図が響く。

 ハラハラとした表情のユーリンが手を胸の前で握り締めて見守っているのが視界の端に映る。その隣に合図を終えたサラが移動したのを確認し、ロイを見やる。


 木刀を片手で前に構え、動かないロイ。

 多分「お嬢様からどうぞ」という事なんだろう。

 今回必要なのは『アンリエッタの剣を見せること』だから、ロイは受け流すだけで良い。

 だからだろう、片手で受けようとしているのは。


 剣を使うには片手の方が都合が良い場合はある。

 片手で持てば相手の攻撃が軽い場合は受け流す事が容易にできるし、行動が縛られ難くなって動きやすくなる。

 けれど重い剣戟には耐えられないという難点もある。

 多分ロイの事だから、俺の剣なんて軽くて片手で受け流せると思っているんだろうな。実際そうかもしれないけど。

 一応ロイは騎士団の中でも結構腕の立つ方だと兄様から聞いた事があるし。


 俺は小さく息を吐き出して、前後に足を広げて膝を曲げて腰を少し落とした。


 足首までのドレスは土に付くけれど気にはしない。

 後ろで小さくユーリンの息を飲むような声が聞こえたけど気にしない。

 メイドさん達、洗濯ごめんなさい。と一応心の中で謝っておくけど。


 これは騎士団の公開訓練では倣っていない構え。

 そして前世の剣道でも習わない構えだ。

 多分、というか絶対サラなら判る構え。


 木刀を左腰に携えるように構え、身体を捻って剣自体を隠すようにする。

 そして一気に駆け寄り剣を左下から右上に向って両手で振り上げた。

 ロイは見たこともない構えに若干うろたえたようだけど、すぐに後ろに跳び退る。それに追い討ちを掛けるように右上に行った剣先を反して真っ直ぐ振り下ろす。

 全体重を掛けるようにして振り下ろしたその木刀を受けるようにロイも木刀を上に翳すけど、片手では受けきれないと判断してか両手で受け流した。


 思わずニヤリと唇の端が上がってしまう。


 一旦後ろに下がり、ロイを見ると今度は両手で構えている。


「どこでそんな動きを覚えたんですか?」


 俺の剣技に訝しげに見てくるロイ。そりゃそうか。騎士団ではこんな剣の使い方は教えていないから。


「自己流よ!」


 ドヤ顔で言う俺の後ろでサラが小さい声で『漫画オタクめ』とか言ってるけど聞こえない!

 まずこの世界には漫画なんてないしね!

 漫画で見たのを実践してみたなんて言っても、誰も意味がわからないだろうしね!

 だから俺の自己流って事で!


「ったく、そんな動きをして…怪我しても知りませんよ?」


 そう嗜める様に言いながらも両手で木刀を持ち直すロイに、俺は笑みを深くした。


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