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俺と私の公爵令嬢生活  作者: 桜木弥生
33/61

30話 俺と私の人助けを致しましょう⑥

 サラは聞いた話を反芻するかのように、握った手をその唇に当てて少し考えるような表情をし、すぐにロイを見上げる。ロイに向けたその表情は中身を知っていなければどんな男でも惚れるくらいの聖女のような優し気な微笑みだった。


「とりあえず、今後のお話をしましょう?ロイ様もどうぞお掛けになって」


 その微笑みのまま空いている椅子を手で指し示すように座るように促す。

 人数より大目に置いてある椅子は空いているものは二脚。


「いえ。俺は護衛ですのでお嬢様方と同席するわけには…」

「お座りになってくださいな」


 微笑はそのままで、座れと促すサラの迫力に気圧されたようにロイは静かに俺とサラの間の椅子に座った。

 居心地悪そうにそわそわしているのは、仕方が無いだろうな。

 片方は自分の警護対象。もう片方は聖女のような微笑の美人令嬢。

 男のロイにしてみれば居辛いなんてもんじゃないだろう。


「では確認の為に、お話を聞かせてくださいましね。間違えている事がありましたらその都度訂正をお願いいたします」


 そう言い置いてから、話を整理するようにサラはロイに聞いた。


「では、まず人攫いの五人についてはもう全員捕縛済み。その五人からの話によれば他にもアンリエッタ様を狙っている輩が何人かいる…という事ですわね?」

「はい。人数までは把握できないようです。人伝手で話が出ているようで、中には外部からも人を集めていたようです」

「外部?…そんな怪しい人物は門兵に止められるでしょう?」


 あ。そうか。サラはあの鍵の事は知らないんだっけ。

 情報としては知っているかもしれないけど、あの鍵が『どこの鍵か』は教えてなかった事を思い出した。

 ロイも、鍵の件を言って良いのかわからないようで俺を伺うようにちらちらと見てくる。


「サラ様。『有事の際は近傍の公爵家へ』と教えられたりはしませんでした?」


 各貴族に伝えられているはずの事だけど、サラはずっと自分の領地にいたから知らないかもしれないと思って聞くと、「父から聞かされてはおりますが…?」と首を傾げた。


「この国に公爵家が四つあるのはご存知ですわね?その四公爵の当主は王家からある鍵を預かっておりますの。その鍵は東北・南東・西南・北西の四箇所にある非常出口…先日人攫いに合い、サラ様に助けて頂いた場所のそばにあった扉なのですが、そこの鍵なのです」


 そこまででサラは言いたい事がわかったようだ。

 神妙な顔つきになり納得したように小さく頷いた。


「この前の赤銅色の鍵があの扉の鍵だったのね…だから私が持ってきた際にアラン様はあんなにお喜びになられたのね…

 では、あの赤銅色の鍵は元々どちらの公爵様がお持ちになっていらっしゃいましたの?」


 問いかけのような台詞だけど唇の端には笑みが浮かんでいる。

 見たことのあるその表情は、前世の姉貴の表情と照らし合わせるとしたら『答えがわかっているのに聞いている時の顔』だ。

 多分、前世でのゲームの情報で何か知っているんだろう。それを俺に言わせるようにリードしろと無言で伝えてきている。

 ロイはどこまで話していいか判断がつかないらしく、俺とサラの話を聞く事だけに徹している。

 まぁ、ロイが知っている事をバラすのと俺がバラすのでは、後々に問題になった時に俺のほうがお咎めが少ないから仕方ない。


「ボルジリア公爵家の物ですわ」

「という事は、以前はサボストロイ公爵家の物だったのですね」


 ボルジリア公爵家は一番新しく公爵になったばかりの貴族だ。

 元々赤銅色の鍵を持っていたのはサボストロイ公爵だった。その公爵の一人娘が十数年前にある事件を起した為に一家全員公爵位返上になり、当時侯爵家の中でも執務でも領地開拓でも秀でていたボルジリア侯爵が、ボルジリア公爵に陞爵しょうしゃくしたと歴史の先生に聞いた。

 通常は貴族令嬢は勉強はしないものだけど、公爵家だけは鍵の事やら他にも色々と国から任されている事があったりもする為、公爵家に生まれた令嬢、公爵家に嫁ぐ令嬢にだけは歴史の教師が付いて教えてくれる。

 なので、多分サラが知っているのは前世の攻略本とか公式から出た小説とかから得た知識だろうなぁと思ってみる。


「ですが、サボストロイ公爵が爵位返上の際に鍵は陛下に一度戻され、その後にボルジリア公爵家へと渡ったようですわ。なので今はボルジリア公爵家が一番怪しいとの事で取調べを受けているようです」


 これは父様と兄様の会話をこっそり盗み聞きした成果だ。

 グレイス公爵家では父様と兄様の帰りは別々だし、母様も仕事が滞ると部屋に篭りっきりになってしまうから夕飯は各自で都合の良い時間に摂る事になっている。

 その代わりに朝は、特に問題がなければ全員一緒に摂る様にしている。

 なので、大事な話は朝にする事になっているから、この話も朝食時に二人がしていた会話を横で盗み聞きしていた。

 同じ卓に着いていても、会話に入っていないなら盗み聞きだ。


「ただ、おかしな事にボルジリア公爵家にも鍵があったとかで…」


 そう。あの時に入手した鍵以外に、もう一個同じ鍵がボルジリア家にもあったそうだ。

 かなり複雑に作られている為に複製は不可能と言われている鍵なのに…


「という事は、片方が偽者ですわね」


 サラが判っている事を口にする。口角はまだ上がったままだ。

 ロイがいる為、知っている事を白状しろとは言えずサラの誘導に従う事しかできない。


「どちらが偽者かは、後日確かめるとの事ですわ。

 それよりも今は、この王都に入り込んだ悪漢達を取り押さえる事が優先との判断のようで…なのでボルジリア家の取調べもとりあえず中断との事です。念のために監視は付けるそうですけれど」

「そうなのね。まぁ、どのくらい悪漢達が入り込んでいるかも判らないし、このままではアンリエッタ様のお命が狙われる事は変わりないでしょうし」


 そこまで言うとサラはロイに視線をやる。


「そこでロイ様にご提案がありますの」


 にっこりと極上の笑みを浮かべるサラ。

 後ろに悪魔の尻尾が見えてる気がしないでもない。

 ロイは「なんでしょう?」と、若干頬を赤らめながらサラに向き直った。


「この王都にどのくらいの人数がアンリエッタ様を狙う者がいるかわかりません。

 そして、それに対して護衛は二人。しかも男性のみ…。正直私は心配なのです」

「と、言いますと?」

「例えば、既に五十人近い人数がアンリエッタ様を狙っていたとしましょう。貴方方護衛二人でどうにかなるのでしょうか?

 まず街中では無理ですわね。五十人対二人なんて、結果が見えているも同然ですわ。では安全の為に街中へ出掛ける事を暫く禁止にしましょう。

 けれど、その人数がお邸の方へ現れる可能性はないと言えるのでしょうか?

 また、アンリエッタ様とて出なくてはいけない晩餐会や茶会などもございましょう。その際にも狙われるかわからない常態で大量の護衛を連れて行く事は可能でしょうか?難しいですわよね?」


 矢継ぎ早に畳み掛けるように言うサラに、口を挟めず聞くだけに徹するロイ。

 うん、わかる。その女にゃ口じゃ勝てんよ。まず口を挟む事自体無理だ。

 慣れてるはずの俺ですら無理なんだから、ロイなんてもっと無理だろう。


「そこで提案です。

 アンリエッタ様に護身術を習得させては如何でしょう?

 例えば、五十人に囲まれた際にアンリエッタ様もご自分でご自身を守れるとしたら…護衛としては敵を倒す確立がぐんと上がるのではないかしら?」

「それは…思ってもみませんでした…

 確かに、アンリエッタ様が少なからずの自衛ができるようでしたらこちらも安心ですが…でも当主様とアラン様に却下されると思うんですが」


「ふふっ」とサラは小さく笑って人差し指を一本立てて天を指差す。

 そのまま首を傾げると「黙って習得すればいいのです」と可愛らしく言い放った。


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