表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
俺と私の公爵令嬢生活  作者: 桜木弥生
32/61

29話 俺と私の人助けを致しましょう⑤

「今後の方針?…」


 訝しげに眉を寄せてサラを見ると、手に持ったフォークを左右に振りながらにこやかな笑顔で頷いた。


「そう。剣を手に入れたから満足なわけではないでしょ?それを使いこなす為には誰かに教えて貰わないといけないだろうし、日本とこの世界では戦い方とかも違うわけでしょう?」

「…まぁ、確かに…。でも、剣を習いたいってうちの家族に言っても誰も教えてはくれないし、許可すらされないと思うんだ…」


 うちの家族は俺にはかなり甘い。

 蜂蜜の中に砂糖ぶっこんで、その上からまた蜂蜜かける位に甘い。

 だから剣を欲しがっても却下されたわけだし。

 絶対に習い事とか無理だろう。


「だよね。で、実は周期的に騎士団の人がとある場所で無料で剣を教えてるんだけど、それは知ってる?」

「マジか!?」


「大マジよ」と口の端を吊り上げて笑うサラの表情はやっぱり令嬢っぽくない。

 けど、姉貴の頃には良くしていた表情だからか、すんなり受け止められる。

 懐かしさを感じる。

 但し。大体その表情の時には、何かしらの思惑があるんだけど。


「もし参加してみるなら場所と日程教えておくけど。ただ、女の格好で行くのはマズいと思うからまたロイに服貸してもらうしかないだろうけどね」

「あ。服ならもう買ってある。三日後にトム爺さん…うちのお抱え主治医なんだけど、うちの敷地内に診療所があってさ。そこに届くようにしてもらった」


 ちょっと腹が減ってきたし、喋りながら目の前のストロベリータルトをフォークで崩しながら口に運ぶ。

 甘酸っぱくて美味い。前世の頃の好きなケーキがタルトで、その中でも苺のが一番好きだったから思わず頼んだけど、これはかなり美味しい部類だ。

 タルトに舌鼓を打ちながらジャスミンティーで口の中をさっぱりさせる。そしてまたタルトを口に運ぶを繰り返していると、それまですぐに反応があったサラが止まっている事に気付いた。


「どうかしたか?」


 驚愕した顔で俺の顔をじっと見詰めるサラ。さっきまで動かしていた手のフォークは止まっている。食べるのも止まっている。

 若干心配になりかけた時に、ゆっくりと口が開いた。


「…あ…あんたがそんな頭使う事するなんて…」

「オイ!?」


 なんつー失礼な事を言い出すんだこの女は!!


「だって…剣買っても持って帰る方法考えてなかったあんたが……一緒にゲームしてて同じ体勢でずっとやってて足が痺れたって唸ってたあんたが……小学校から帰る途中にトイレ行きたくなって、途中に公園のトイレがある事知ってるのに忘れて家まで帰って、そのせいで途中で漏らしたあんたが…」

「よしわかった!もう黙れ!!」


 人の恥かしい、埋めたい過去引っ張り出すんじゃねぇ!!

 しかもほとんどそれ前世の記憶だろ!!


――お漏らし…――


 普段出て来ないアンリエッタまでこんな時に…てかこんな話題で出てくんな!!


「とりあえず、俺だって考えるし、ってか、サラが剣の箱持って来てくれたから服まで入れれないって思って邸に届けてもらう方法取ったわけだし。俺だってちゃんと考えれるから!」


 恥かしい過去を引っ張り出されて、多分真っ赤になっているだろう俺の顔が熱い。

 てか、マジで神様…なんでサラに姉貴の魂入れましたか…ちょっと呪っていいですか…


「まぁ、それはさておいて。じゃあ服はOKね。で、剣もあるし…あとはその日程に家を抜け出せるかだけど…親睦を深めるために毎週私とお茶会って事にでもすればいいか」


 ニカっと歯を出して笑って親指を立てるサラ。


「それはいいけど、流石に毎回ココは、いくらうちが裕福でも流石に使いすぎるから困る」


 サラ食べ過ぎるしとは言いたいけど言わない。

 絶対鉄拳が飛んでくるだろうし。


「そしたらリーバス家でって事にすれば?」


 そこから抜け出したらバレバレだろう。という心配が顔に出ていたようでサラが首を傾げた。


「だって、ロイには剣を買った事はバレてるんでしょう?

 それなら秘密の仲間に引き込んでしまって、抜け出す手伝いをして貰えばいいのよ」


 言い終わるとまるで悪戯を思いついたかのように小さく「ふふっ」と笑った。


「それならあんたの家でもいいかもね。ロイにあんたのドレス着せて、私と二人きりでお茶会しとけばなんとかなるんじゃない?」


 女装は無理じゃないかな。あれだけ嫌がってたし。

 想像して楽しそうに笑うサラの声に合わせるかのように、コンコンと控えめなノックの音がした。


「はい?」


 普通は中でお茶をしている客が呼ばない限りはノックしたりとかの邪魔はしてこない店員だけど、何か緊急の時だけ取り次ぐようになっている。

 何かあったかと返事をすると、扉の外から外の部屋番の低い声が聞こえた。


「お連れ様が御用があるという事で、アンリエッタ様にお話があると仰っているのですが、如何なさいますか?」


 俺の連れは二人いる。どっちだ?


「ロイです。先程の件でお伝えしたい事がございます」


 部屋番の後に続いてロイの声が聞こえた。

 さっきの件…色々あるからわからないけど、部屋番に聞かれて困る事を言われる可能性も考えて「通していいわ」と許可を出した。


「ご歓談中失礼致します」


 扉が開くと真っ直ぐに腰を折り、俺とサラに礼をする。

 顔を上げ、サラの顔を見るとほんのりと顔が赤くなった気がするのは俺の気のせいだけじゃないだろう。

 サラも気付いたようで、深窓の令嬢に相応しい優しげな微笑みでロイを見上げた。

 周りの皿がなければ完璧だと思うけど、ロイはそれには気付いていないようだ。


 ロイが部屋に入るとゆっくりと扉は閉まった。


「何かありましたの?」


 主のお茶会中に、中断すべく入って来たロイ。

 使用人たるもの、緊急事態や何かあった場合以外はそんな事をしたら叱責されるから、きっと何かあったんだろう。


「先程の二人の件ですが、人攫いの仲間はあと三人で間違いはありませんか?」

「えぇ。さっきの二人と、残りの人は一人がこう…大柄なクマさんみたいな方と、もう一人はお髭のある場所が青々としている方、それと小さくてふくよかな方の三人でしたわ」


 俺の言葉にサラも隣で頷く。

 俺とサラの言葉と行動に眉を寄せるロイ。


「何かありましたのね」

「私も有る意味被害者です。できれば教えて頂きたいわ。ロイ様」


 不安気に眉を寄せて両手を組み合わせ、祈りのポーズをしたサラに見詰められたロイは言葉を詰まらせた。


「お嬢様はいいとして…リーバス様のお耳に入れるには心配事を増やす結果になってしまうかもしれないのですが…」


 おい!俺は良いってどういう事だ!?


「構いません。知らないで何か起こってしまうより、聞いておいた方が対処できることもありますでしょう?」


 真剣な眼差しで熱くロイを見詰めるサラの瞳には薄っすらと涙が浮かんでいる。

 …女の演技って怖ぇ…


「…っ…あの二人組みの仲間の三人も、あの後すにぐ捕らえる事ができたと、さっきの市警備兵の一人に聞きました。で、その三人の容姿はお嬢様とリーバス様が仰る容貌に酷似していましたので間違いはないかと。ただ…」


 そこまで言って言いよどむロイ。

 とりあえず落ち着かせるようにと、空いているグラスに水を注いで渡してやると、一気にそれを飲み干した。


「…どうやらあの五人を雇った人間がいるようなのですが…他の人攫いやならず者の集団にも声を掛けているようでして…あの五人が言うには『アンリエッタ嬢を攫えば一攫千金』と他のやつに言われて参加した…と」


 …俺、そんなに狙われるような事、したっけ?…


いつも読んで頂きありがとうございます。

ブックマークや感想、評価等、ありがとうございます!

嬉しくて嬉しくて、小説を書く励みになっています。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ