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俺と私の公爵令嬢生活  作者: 桜木弥生
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28話 俺と私の人助けを致しましょう④

 菓子屋リルドに戻りローズの部屋に着くと、出て行った時と同じように部屋番に声を掛ける。


「何か問題はありました?」

「いえ…特には……」


 何かを言い淀むような部屋番に眉を寄せると、それに気付いた部屋番の男は困ったような表情をした。


「…部屋に戻られれば…判るかと…」


 サラが何かしたのか?と不思議に思いながら扉を開けてもらう。


「おかえりなさいませ。アンリ様」


 紅茶の入ったカップを持ったままにこやかに微笑むサラ。

 流石深窓のご令嬢と言ったところか。外からの柔らかい光に照らされて、一枚の絵画のように美しい。

 周りのモノが無ければ。


 サラの周辺には、追加で頼んだらしい運ぶ為のカートと、菓子が乗っていただろう空いた皿がおびただしい量が積んであった。

 まるで前世で行った回転寿司のように。


 …えっと…いくら公爵家に直に請求が行くとは言え…食べすぎだ!


 唖然とする俺の背後で静かにドアの閉まる音がすると、サラは空いている目の前の椅子に座れと顎で促した。


「で。買えたの?問題なかった?」


 荷物を置いている壁際にロイから渡された紙袋を置いて、まずは着替える為にサラの促しを無視して衝立の奥に行く。


「ちょっと色々あったから、全部順を追って話すから待って。とりあえず着替える」


 脱いでいったままで置きっぱなしにしていたドレスを拾い上げ、手早く着替えを済ませる。

 今日は沢山食べるからと、メイド達にコルセットはしないよう伝えたから、着替えるのは楽だ。


 簡単に着替えを終えてロイの服を適当に畳み、それを持って椅子に戻る。

 ほんの少しの時間だったはずなのに、やたらと疲れたのは色々あったせいかもしれない。


 椅子に座るのとほぼ同時にサラが頼んでくれていたらしい紅茶を店員が持ってきてくれた。

 自分でカップに紅茶を注ぐと、漂う紅茶の香りと湯気にほっとする。


「はいはーい。そこで呆けてないで、質問に答えてね?」


 完全に力の抜け切った俺を笑顔で見詰めるサラ。でもその瞳は笑っていない。

 カップに唇を付けて一口だけ口に含んでからカップを下ろす。

 ゆっくりと飲み込んでからロイの服と一緒に持っていた剣をサラに渡した。


「へぇ…シンプルだけど上品な剣ね。あんたらしくないモノ選んだわねぇ」


「もっとゴツゴツした男っぽいの選ぶかと思った」と呟くサラは、手にした剣の柄や柄に刻まれた模様をまじまじと見た。


「しかも軽い…これ、女性用ね。あ。刃は潰してるやつじゃないんだ?てっきり刃潰したやつ買ってくるかと思ってた。でも刃こぼれもないし綺麗ね」


 まるで武器の鑑定士よろしくゆっくりと柄から外した剣を観察している。

 ってか、何で刃こぼれとかわかるんだよ。普通、一般の人間は刃こぼれとかわかんねぇよ。


「あとは…木刀も買ったのね。で、何か問題とかはなかった?」


 サラは一緒にある木刀をちらりと一瞥だけして、サラが剣を見ている間に空になった俺のカップにその細い腕を伸ばして紅茶を注ぐ。


「あー……人攫いのオカマとハゲに会った。あとムツキ王子にも会った。あとロイには早々にバレてた」

「はぁ!?」


 矢継ぎ早に言う俺に心底驚いた表情で口を開ける。

 マヌケ面だなぁとか思っていたら「ちょっと詳しく話しなさい!」と怒られた。

 面倒だけど、とりあえず剣と服を買った後からの話を事細かにサラに伝えると、頭を抱えてテーブルに肘を着いて下を向くサラ。

「えー…ちょっと待って…時期的に早すぎ…いや、いいんだけど…まさかそこかぁ…」なんて小声で呟いているのが聞こえる。

 姉貴が一人の世界に入るのはいつもの事だし。戻ってくるまでケーキでも頼むかとメニューを見る。

 あ。今期限定のメニューでイチゴの乗ったやつもあるじゃん。これにするかな。


「ストロベリータルト頼むなら私の分も」

「!?」


 下を向いて自分の世界に入っていたはずのサラは、こっちを見てもいないのに俺が見ていたモノを言い当てた。

 ちょっと色々怖いんだけどこの人…


 とりあえずストロベリータルトを2つと、ジャスミンティーの注文書を注文書入れに投入して待つ。

 流石、元々がゲームの世界って感じで、食べ物や飲み物は現代日本とほぼ同じだったりする。

 違うのは米文化が薄いくらいか。一応有る事にはあるけど『東の国でしか取れない貴重な食物で入手困難』とか言われてるけど。

 まぁ、そのおかげで変な横文字の菓子名とか料理名言われなくて助かる。

 その辺りは全然わからないから、変に名前言おうとして噛んだりとか恥かしすぎるしな。


 注文して間もなく扉がノックされ、ケーキとお茶が運ばれる。

 店員も慣れたもので会話は「失礼致します」「失礼致しました」だけですぐに下がる。

 そして店員が下がると同時にサラが勢い良く頭を上げた。


「よし。じゃあ今後について話し合おうか」


 唇の端を吊り上げたように笑うのはヒロインとしてどうかと思う。完全に悪役の顔じゃねぇか。

 そして手にはフォークを握り締めてる辺り、食べる事が優先らしい。

 もう、ヒロイン返上していいんじゃないかな!!


いつも読んで下さりありがとうございます。

今回は短めになってしまい申し訳ありません。

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