27話 俺と私の人助けを致しましょう③
オカマが一頻り泣いて化粧がどろどろになった頃に市警備兵三人と、その市警備兵達を呼びに行っていたムツキ様の護衛の一人が戻ってきた。
あとは市警備兵の仕事だからと、到着したばかりの市警備兵三人に詳しく状況を説明して、まだ仲間がいるという事を伝える。
その時にオカマが呪い師の婆ちゃんの孫だった事。
二人を合わせてあげて欲しい事も伝え、俺とロイは早々にその場を後にした。
◆◆◆◆◆
ロイと無言で二人で菓子屋リルドに向う。
普段早く歩くらしい騎士のロイは、今日は俺が後ろにいるせいかゆっくりと歩いてくれている。
そのせいか、近いと思っていた菓子屋リルドまでの道程が遠く感じる。
「で?何故剣を?」
沈黙を破ったのはロイだった。
「だから、自分で買ったのよ」
「それはさっき聞きました。俺が聞いているのは何で買ったか、です。お嬢様には必要のない物でしょう?」
「…どこから見てた…」
まるで初めから見ていたかのようなロイの言葉にじわりと背中に冷や汗が出た。
思わず出た独り言の小さな声にロイは不快気に眉を寄せる。
「お嬢様がリルドから出た所からです」
「初めから!?」
上手く撒けたと思ったのに初めからバレてたと言われ、少なからずショックを受ける。気付いてたなら声掛けろよ…いや、声掛けられてたら剣を買う事ができなかったから、そこらへんは結果オーライなのか?
「何かあるのかと思って追ってみれば、武器屋のハシゴは始めるし、剣を買ったかと思えば今度は中古の服屋…公爵家のご令嬢がする事じゃないでしょう。それにその言葉遣い。何なんですか」
そう言えば途中から思わず素で喋ってたな…
「…外でお嬢様言葉で喋っていたら目立つでしょう?しかも今は男装中ですし、男性の言葉遣いをしておけば少しは誤魔化せるかと思いましたの」
慌てて取り繕ったような俺の言葉に、ロイは訝しげな顔をしながらも小さく息を吐き出した。
「はぁ…勝手に歩かれたら、俺達護衛の意味がないって理解してください。あと剣についての返答がまだですが?」
チッ…誤魔化されなかったか…
「しかも、どこの流派ですか?明らかに素人じゃない動きをしていましたよね?」
ずっと見ていたと言うロイ。武器屋での事も見ていたらしく、あの時剣を振るった時の事を言っているようだ。
「昔…かなり昔に教えて貰った剣技ですわ」
ロイの鉄色の瞳が俺を見る。嘘を見抜こうとしているんだろうけど、嘘ではないからすぐに鉄色の疑惑に満ちた瞳は閉じられた。
「で。何がしたいんですか?」
溜息交じりに問われた。
それは俺の返答を知っているかのような諦めたような声だった。
「剣を。剣を学びたいの。またあの時みたいに攫われるだけなんて嫌ですもの。それに誰かを助けられる人になりたいのよ」
覚悟は、ある。
人を切る覚悟なんて物はないけれど、公爵令嬢が剣の道に進むという難しい事をしようとする覚悟はある。
後ろ指を刺されるだろうという事も判ってる。
けれど、守られるだけなんて嫌だし、自分を守る為に。そして大切な人達を守る為に少しでも力が欲しいんだ。
「…はぁ……俺は知りません。何も見なかったし聞きませんでした。だから旦那様や奥様に何か聞かれても知りませんと答えます。面倒な事はごめんなんで」
空いている右手を上に向けてヒラヒラと振るロイ。
「出来ればバレないようにやってくださいね。バレて俺もお咎め食らったら嫌なんで」
巻き込むなと言うロイに若干の苛立ちを感じる。
いや、別にいいんだよ?いいんだけどさ?
何か…コイツ俺を主人と認識してないんじゃないか?とさえ思えてくる言い方にムカつく。大体こいつ、年下だったはずなんだけど、もうちょっと敬ってもいいんじゃないですかね?
「さて。お嬢様は先に店に戻って、服も戻しておいてくださいね。俺はまだ買い物あるんで、もう少し店にいてください」
「買い物?」
「えぇ。今回王都に出るって事で、色々と買い物を頼まれているんですよ。とりあえずあと二件で買い物が終わるって所で、お嬢様が店から出てくるのが見えたので、まだ買い物が済んでいないんです」
俺のせいとか言い出した俺の護衛。ちょっとコレ叱ってもいいよな?
「あ。ついでにこれも持って行ってください」
持っていた紙袋を有無を言わさず持たされた。
叱りたい…めっちゃ叱りたい!
…けど、ここでロイの機嫌を損ねたら、父様と兄様に一人で街に出た事がバラされて今後一切王都に出る事を許されなくなるかもしれない…
「…私を使うなんて…高くつきますわよ…」
「じゃあその服の代金で相殺ですね」
ジト目で言ってみるけど無駄でした。
「とりあえず剣の事は知らない事にしますけど、今日の事件の一件だけは旦那様には報告しておきます。但し俺も一緒だったって事で伝えますから口裏は合わせて下さい」
「言わなければバレないんじゃないかしら?…」
「ムツキ殿下や、殿下の護衛の人達からバレる事もあるんです。先に伝えた方が後々問題がないんです」
アア。ソウデスネ。
本当に公爵家の使用人達には頭が上がりません…




