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俺と私の公爵令嬢生活  作者: 桜木弥生
29/61

26話 俺と私の人助けを致しましょう②

 ほとんどがアンリエッタの記憶だから俺の走馬灯はあまりない。

 けれど思い浮かべるように瞼を閉じた。

 だってほら。自分が切られるトコなんて見たくないし。

 傷とか見えたらトラウマレベル…ってか死ぬからいいのか。見ても。

 そんな事を考えてる途中でゴッという鈍い音がした。


 あれ?痛くない?

 音はしたものの暫く待ってみるが痛みが来ない。

 痛みも感じないまま死ねたのか?即死??


「…怪我はありませんね?」


 正面辺りから呆れたような声が聞こえる。

 聞き覚えのある少年の声だ。


 ゆっくりと瞼を開くと足元にオカマが倒れていた。

 そのオカマがいた場所の後ろ側には、左手に紙袋、右手に剣を持ったロイが立っていた。


「ロ…っ大丈夫です!」

「…慌てて顔隠しても無駄ですよ。お嬢様。というか、失礼を承知で一言言わせて下さい。………何やってんだあんた」


 ちょっとー!?ロイの言葉遣い悪いんだけどー!?


「おまっ…ご主人様に向ってあんたって何っ!」

「あんたで結構。それ、俺の服じゃないですか。しかも何で剣持ってるんですか」

「服はごめんなさい!盗みました!剣は自分で買ったの!ってか不敬罪じゃないか!?」

「その言葉遣いも何ですか。男の服着てるからって男言葉ですか。何なんですかあんた」


 ちょっとー!?ロイの口が悪いんだけどー!?

 言い返せず口をパクパクと開閉を繰り返す。

 ロイに勝てる気がしない。まずコイツ、いつから後ろにいたんだ?


「…あのぅ?…」

 二人の言い争いに恐る恐る声を掛けるのは第一の被害者のムツキ様だった。


「お知り合い…ですか?…」

「え…えっと…そのぉ…」


 思わず口篭る。

 だってほら、どこの誰とか言ったら俺の正体がバレちゃうし…


「失礼致しました。私はロイと申します。こちらで男装していらっしゃるアンリエッタ=グレイス様に仕えております」


 深々とお辞儀をするロイ。って、何勝手にバラしてるんだお前!?


「アンリエッタ…グレイス公爵家の!…でも何故男装を?…」

「先日、城下町に住む占い師のお婆さんのお孫さんが誘拐にあいまして、唯一その犯人達の顔を知るお嬢様がどうしてもその犯人を捕まえてお孫さんをお婆さんに会わせたいと…服はいつもの姿ですと逆にお嬢様が攫われ兼ねませんし、おしのびで来ていますので、騎士団に在籍しています私の服をお貸ししたんです」


 サラっと嘘をつくロイ。

 うん。さっきの会話聞かれてるからそんな嘘、信じてくれないと思うよ?


「そうですか!グレイス嬢はとてもお優しいんですね!」


 …キラキラとした瞳で微笑まれた…胸…胸が罪悪感で痛い…

 嘘付いたの俺じゃないけど痛い…

 ってか、さっきの会話聞いていただろうに何で信じるんだ…


「…ぅ…」


 足元から声がした。

 そういえばロイ、オカマ切ってなかったか?…

 恐る恐る足元のオカマに視線を移す。血溜まりの地面を想像しながら見るも血は一滴も流れてなかった。


「峰打ちです。とりあえず縛ってしまいましょう」


 ロイは腰から紐を取り出すとオカマが本格的に意識を取り戻す前に簡単に縛ってしまった。

 騎士団員にはそんなスキルあるんですか?それともロイの趣味ですか?


「趣味じゃありません。街中で暴漢が居た際に捕まえる為に、騎士団員は全員所持を義務付けられてるんです」


 だからなんで俺の考えを読みますか。


「顔に出てます。出やすいんですよ。お嬢様は」


 俺とロイの言い合いを聞いていたムツキ様がくすくすと笑い出した。


「すみません。お二人は仲が良いんですね」

「そんな事はありませんわ」


 即座に否定した。


「ちょっと傷付きました」


 全然傷付いたようには見えない、しれっとした顔で言うロイは無視しておこう。

 と、バタバタと複数人が走る音がする。

 音は雑貨屋街の方からだ。


 人攫い達の仲間の可能性がある。

 俺は木刀を握り直すと、ロイも不思議な表情をしつつ剣を握り直し、二人でムツキ様を守るように背中に隠す。


「!!居ました!こっちです!!」


 雑貨屋街から来た足音の一人がそう他の足音の人物達に声を掛けた。

 着ている外套は青み掛かったグレー。騎士団の人間だ。

 背後に守っているムツキ様が小さく「あ…」と呟いたから、ムツキ様の護衛だろう。

 俺とロイは警戒を解いて剣を仕舞った。


「殿下!あれ程、離れないでくださいと申しましたでしょう!」


 ムツキ様の前にいる俺は無視で叱りつけるムツキ様の護衛。

 かなり必死で探したんだろう。その顔にはめちゃくちゃ汗が浮いている。

 暗い茶色の髪を額の汗ごとかき上げると、やっと俺とロイに気付いたようにこちらを見た。


「あれ?…ロイか?」

「お久しぶりです。先輩」


 騎士団でのロイの先輩だったようで、軽く挨拶しあう二人。

 その二人を置いて、俺は三人いる護衛のうちの一人に市警備兵を呼んできて貰った。


「その二人がどうかしたんですか?」


 ロイが不思議そうに聞いてきた。


「流石にこの人達をこのまま放置はできないし、このままにして他の人攫いの仲間達に見付かって残りの奴等に逃げられる前に一網打尽にしたいのよ。それにおばあちゃんのお孫さんの件もね」

「人攫い?…もしかして、お嬢様が攫われそうになったとかいうやつらですか?」


 そうだと肯定の意味で頷くと、ロイはオカマを縛ったままで身体を起こし、めいっぱい振りかぶった右掌で頬を叩いた。


「痛っ!???」


 急な痛みに驚いて起きたオカマ。

 目を白黒させるってこういう事を言うんだろうか。

 慌てたように周りを見回している。


「なっ何よコレ!?外しなさいよ!!」


 腕が後ろ手に結ばれているのに気付いたオカマがぎゃあぎゃあ騒ぎ始めた。煩い。

 俺の心の声でも聞こえているかのようなロイは、腰に下げた剣の横に挿してある短剣を取り出してオカマの首筋に当てた。


「煩い。一人残っていれば残りの残党の場所とか人質の場所はわかるから、こいつ消しておきましょうか?」


 俺に許可を求めるように据わった目でこちらを見るロイ。

 その顔には笑みが若干浮かんでいるけど、目は全然笑っていない。

 本気の言葉だと受け取ったのかオカマはすぐに黙った。


「質問さえ答えてくれれば殺すような事はしないわ」


 まるで悪役令嬢のように高飛車な雰囲気で見下ろしながら言う。ロイは無言でこちらを見るけど、すぐにオカマに向き直った。


「…仲間の場所なら言わないわよ。殺されてもね」

「あら。仲間想いね。それならいいわ。ソイツを殺すから」


 こいつらは仲間意識が強いのは前に攫われた時に知っている。

 だからこそ『ソイツ』と良いながら顎でハゲを指すと答えざるを得ない事も知っていた。

 案の定怒りで震えだすオカマ。

 ロイは『悪役がお似合いですね』とでも言いた気に俺を見る。

 そしてもう一箇所からカタカタと震える音がした。

 視線を移すと、まだその場にいたムツキ様。

 瞳に涙を浮かべ、頬を赤く染めながらカタカタと震えている。

 純粋培養の王子様には、今の俺の悪役っぷりは怖いんだろうな。まぁ、続けるんだけど。あとでフォローでもしておけばいいか。


「まぁ、まずは…そうね…あの占い師のお婆ちゃんから攫ったお孫さんの居場所を吐きなさい」

「………無理よ…」


 まさかの拒否!

 おまえ、ハゲの命取るぞって脅したばかりで拒否!?

 でも、今『無理』って言ったか?…『ダメ』とかではなく?…


「『無理』とはどういう事です?」


 俺がその不自然な言い回しに問いかける前にロイがオカマの顎を掴んでこちらを向かせた。


「………………私だもの……」


 長い沈黙の跡、聞こえたそれは小さな小さな声だった。


 ん?今なんつった?


「…あの呪い師の孫は私だって言ってるの…」

「……冗談とかは置いておいて…」

「冗談なんかじゃないわよ…」


 え?…じゃああの婆さんも仲間だったのか?


「お婆ちゃんは私が犯人とは知らないわよ。それに仲間じゃないわ」


 やっぱり顔に出やすいのか、俺の疑問にすぐさま答えられた。


「お婆ちゃん、お孫さんの心配しているわよ?攫われたって…」

「会えるわけないじゃない!前に会ったのはまだ子供の頃で、まだこう可愛い少年の頃だったのよ!こんな…オカマになった姿で会ったら、お婆ちゃん心臓止まっちゃうわ!…私も会えるなら会いたいわよ!」


 確かに。男孫が久々に会ったらオカマとか、それは心臓止まる。


「だからあのお婆ちゃんに対してみんな親切そうだったのね。ってか、お婆ちゃんに会うときだけ化粧落とせばいいんじゃないかしら?あと服装も普通の男性服で会えばいいのよ」


 まるで思いもしなかったという表情で見上げてくるオカマ。そしてその瞳から涙が零れた。


「会う…会うわ…お婆ちゃんに会いたいっ…」


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