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俺と私の公爵令嬢生活  作者: 桜木弥生
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22話 俺と私のおしのび大作戦⑤

 ふんわりとしたドレスを脱いで、あらかじめ貰っておいたセイラが捨てようとしていたシーツを、細長く切ってサラシみたいにした物を胸に巻く。

 小ぶりではない胸でもぎゅうぎゅうに締め付ければなんとかシャツに収まりそうな形になった。

次いで持ってきた白いシャツに黒いズボンに着替える。

 普通の令嬢は、まずズボンの履き方もわからないんだろうなとアンリの記憶にはない、悠馬の記憶の履き方で着替えていく。

 まぁ、自分で着替えない令嬢とかはシャツのボタンの締め方すらわからないか。

 胸を締め付けたからシャツのボタンはなんとか閉めることが出来た。かなりギリギリな気はするけどそれは仕方が無い。


 帽子を被り、外套の中に髪を入れて着る。これで髪は見えないはずだ。

 そして最後に靴を履く。

 靴下まではもって来なかったから素足で履くことになったけど…

 ロイって水虫とか…ないよな?…


 全て着替えて衝立から出ると、すでに注文した物は食べ終わっていたサラがこちらを見ていた。


「へぇ。やっぱり丁度のサイズだったみたいね」


 感心したように頷きながら言うと椅子から立ち上がり俺の側に来ると、その細い指で襟を直された。


「こうやって襟立てれば、髪、もっと見えなくなるわよ」

「……」


 ふと昔の、前世の記憶を思い出す。

 まだ子供の頃、やんちゃだった俺の服の襟を姉貴が直してくれた記憶。

 思わず懐かしくなって、鼻の奥がツンとして声が出なくなった。

 そんな俺の気持ちを知ってかサラは優しく微笑む。まるであの頃の姉貴の笑い方で。


「お礼くらい言いなさい。馬鹿悠馬」

「痛っ!?」


 前言撤回。

 気持ち知ってねぇわ。この女。

 礼を言わなかった俺も悪いかもしれないけど、チョップしやがった!

 お陰で帽子が若干凹んだ。一度脱いで直してからかぶり直す。


「…サンキュ…まぁ行ってくるわ」

「いってらー。でもどうやって行くの?正面から出てったら不信に思われない?」

「それは大丈夫。ここは部屋借りてる人間に対しては何も言わないって有名なんだ。だから不倫の逢引とかに使ってるヤツもいるらしいし」


 貴族でも多夫多妻可能なこの世界だけど、それでも愛が足らないと不倫をする貴族は多い。

 しかも既婚者同士の場合が多いから、この店の部屋を借りてそういう行為をする輩もいると噂で聞いたこともある。

 あとはサラには言えないけど同性同士の逢引だったり。


 なので、ここで男装した令嬢が出て戻ってきても部屋番の男は何も言わないし、店員も何も言わない。


「じゃあ大丈夫か。とりあえず気をつけて行ってらっしゃい。一応今は女なんだから」


「わかった」とだけ言って、持ってきた荷物から金貨や銅貨の入った袋を取り出して腰の金貨袋を括りつける場所に結ぶ。

 歩くとチャリっと小さな音が鳴った。


◆◆◆◆◆


 部屋から出ると部屋番の男と目が合った。


「ご帰宅ですか?」


 流石に正面で見れば誰か判るだろうな。

 怪訝そうな顔一つせず、眉も動かさずに当たり前のように対応するここの店員は本当に凄いと思う。


「ちょっと出掛けてきます。すぐに戻ります。サラ・リーバス男爵令嬢はそのまま残りますのでよろしくお願いします。あと、もし『ダンデライオン』の部屋にいる私の連れが来ましたら、私は部屋で大事な話をしている為今出られないという事で伝えて下さい。用があるという場合にはサラ・リーバス男爵令嬢に言伝をお願いします」


 俺の言葉に「畏まりました。行ってらっしゃいませ」と礼をする部屋番の男に見送られ、『ローズ』の部屋を後にする。

 途中にある『ダンデライオン』の部屋から各部屋の出入り口は見えないようになっているけど、店の出入り口は『ダンデライオン』の部屋から見えるようになっている。と言っても、数メートルだからダッシュで出ればわからない程度だ。

 人気店だから出入りも激しくてずっと出入り口を見ている事もないだろう。

 まず、『ダンデライオン』の部屋の椅子の並びが、出入り口に背を向けているから座っている限りは見えないはずだし。


 その俺の予想は当たったようで菓子屋リルドから容易に出る事ができた。

 念の為、少し離れてから店を振り返ったけどロイもおっさんも着いて来ていない。


「よっし」


 小さくガッツポーズして、武器屋のある大通りの西へ向った。


◆◆◆◆◆


 大通りにも数箇所ある武器屋。

 でもやっぱり大通りに面しているだけあって高い。そして実用性がない。


 うん。宝石付いてる剣とか重くて邪魔だろ。ってか実用性皆無だろ。刃、潰してあるし。

 金持ちが家に飾る為だけの剣に興味はない。

 前世で真剣使った事はないから、刃が潰してあるのはいいんだけど、重いのは却下だ。


 サラが『運動能力が上がっている』と言っていたからちょっと試してみたけど、ヒロイン補正だったようで俺にはその補正は無かった。

 いや、完全に無かったわけじゃない。

『悠馬』の時と同じ運動能力はあったけど、サラみたいに『それ以上の力』は無かったというだけ。

 なので俺の持てるのは悠馬の頃と同じ位。

 となると、宝石やら金やらでゴテゴテになった物は重すぎて振るえない。

 個人的には木刀とかが良いんだけど大通りには売ってなかった。


 これは裏通り探すしかないか…


 幸い今は男装しているからアンリの状態よりは誘拐とかが起こる確率は低いだろう。

 まぁ、着ている外套が騎士団支給の青み掛かったグレーだから絡まれる事もないはず。結構うちの国の騎士団って強いらしいし。

 わざわざ強いやつに突っかかる馬鹿もいないだろう。


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