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俺と私の公爵令嬢生活  作者: 桜木弥生
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12.5話 来訪者の真意<side.アラン>

12話と13話の間の話で、アラン視点での話になります。

今回は12.5話(19時配信)と13話(20時配信)で二話同日更新になります。

~思惑編~も本日更新しました。

 公爵家長男で王宮騎士副団長であるアラン・グレイスは長い廊下を歩き応接間へ移動する。

 その左腕にはエントランスからエスコートしている赤茶色の髪の少女の手がそっと添えてあった。


 家族が、主に最愛の妹であるアンリエッタが来る前に応接間へ移動して、エスコートしている彼女『サラ・リーバス男爵令嬢』に聞きたい事があったアランは無意識に足早になっている。

 アランは後ろから追ってきた使用人達の走る足音を遠くに聞きながら歩を進め、その足音がかなり激しい物と知って自分の速度が速くなっていた事に気付き、慌てて左を歩くサラを見下ろし驚愕した。

 騎士団所属の、しかも副団長であるアランは鍛錬だけでなく書類整理や王族の謁見の立会い、果ては城の見回りとやる事が多く、移動も多かった為に早足で歩くと他の男の隊員ですら小走りでないと追いつけないくらい速く、その足に追いつく女性は今まで一人としていなかった。

 

 けれどアランの左側を歩くサラは、アランの腕に手を触れる程度の軽さで添えてぴったりと同じ速度で歩いていた。しかも息の乱れもなく足早でもドレス捌きは完璧で、令嬢らしく優雅に。

 そしてその足は無理をしているようにも見えず軽やかに廊下の絨毯を踏みしめている。


 ふと悪戯のつもりだった。

 アランはそれでも速いその足を、サラを横目で見ながらまた速度を上げた。

 けれどアランの思惑を外れたサラはその速度に合わせて歩く。

 息の乱れも、慌てた様子もなく、口元には若干の微笑みを浮かべる余裕まであるようだった。

 傍から見たら競歩の域のそれは、目前に近付いた応接間の扉で終了した。


 アランは応接間の扉を開けサラを中へ促し自分も中へ入ろうとすると、全力疾走してきたアラン付きのメイドがぜえぜえと苦し気な呼吸で応接間の扉に手を付いた。


「…す…すぐ…お…お茶っ…のっ…ご用意っ…を…っ」

「ちょっとアンリが来る前にサラ嬢に聞きたい事があるから、とりあえずアンリが来るまでは茶はいいから、誰も入らないようにしておいてくれ」


 息も絶え絶えで仕事を全うしようとするメイドを見下ろし『普通はこうだよな…』と見下ろしながら、人払いをするようメイドに伝えて応接間に入り扉を閉める。


 先に通されたサラは、物珍しそうにキョロキョロと周りを見渡していた。


「とりあえず椅子にどうぞ。お茶は後でアンリが来たら入れさせるから」


 応接間の中央に置かれているソファの入り口側をサラに勧めるとアランは奥の窓側のソファに腰を下ろして若干足を開き、両肘を両膝に乗せるように前屈みになって両手を組んだ。


「さて、ちょっとアンリが来る前に聞きたい事があるんだが」


 サラが勧められたソファに座ると、先程エントランスで見せた優し気な微笑みはなく真剣な表情で真っ直ぐにサラを見る。

 先程までと打って変わった雰囲気にサラも笑顔を解き真っ直ぐにアランを見返す。


「まず、キミの本当の目的は何だ?アンリの友人になって何がしたいんだ?」


 今までのアンリエッタの友人達は『グレイス公爵家』の家名と爵位で寄ってきた連中や、アランへのアプローチの為に仲良くなろうとする者達だけだった。

 そしてそういう連中は全てアランが秘密裏にアンリエッタから切り離してきた。

 心優しい大切な妹が、そんな馬鹿達に傷付けられるのは耐えられないが為に、アンリエッタにバレないようにこっそりとその関係を壊してきた。

 だからこそ目の前の少女が同じかどうかを。

 アンリを傷付けないかどうかを調べたかった。

 自分で友達になればいいなんて薦めながらもおかしな話だが。


「私は、アンリエッタ様と友人になりたいだけですわ」


 嘘偽りない笑顔で答えるサラ。けれどその笑顔が本物かどうかは本人しかわからない。

 そしてアランはそういう人間を多く見てきているから、その笑顔をすぐに信用する事はない。


「ではあの時、あの場所にいたのは何故だ?キミも捕まっていたわけじゃないだろう?」

「あの時は、たまたまあの場所にいて…その時にあの男の人達に見付かってしまって…」

「たまたまでいる場所ではないだろう?」

「あの…私…究極の方向音痴らしくて…」


 尋問するような口調で質問するアランに、ほんのり頬を染めて恥ずかしそうにその頬を両手で包んで下を向くサラは嘘を言っているようには見えない。そして実際、ここ5日の間にしたサラの身辺調査ではサラは方向音痴という報告は出ていた。それを見てゾッとしたのは言うまでもない。


「よくそれで逃げられたな」

「あの…恥ずかしいのでアンリエッタ様には言わないでくださいね。本当は、王都の中心の噴水を目指して走っていたつもりなんです…でも出たのはあそこで…」

「相手は5人いたんだろう?」

「えぇ。何があったのかお二人が仲間割れを始めて…他の三人が止めるのに必死になっていたので…」


 思い出しながら語るサラの瞳がふいと揺れ、アランから反れたのをアランは見逃さなかった。


「嘘だろ?」

「……アラン様には嘘は付けませんわね……確かに仲間割れは嘘です……あの…お呆れにならないでくださいね?…」


 小さく溜息を付いて嘘を肯定したサラは、懇願するように身体を前に出しアランを見詰めた。


「呆れるかどうかはわからないが、本当の事を教えて欲しい。場合によっては他言しないと誓おう」

「…………私が倒しましたの…逃げる間だけの足止めでだけでも…と……証拠はありませんが…証言はアンリエッタ様がしてくださるかと…」


 真っ赤になって俯くサラに、思いもしなかった言葉を言われたアランは唖然と目の前のか細い少女を見やる。

 一見大人しそうな少女が、男達5人を倒したという事実は俄かには信じられない事案だった。

 けれど、良く考えればサラならそれも可能かと思えた。

 先程の廊下での一件。普通の女性なら無理だろう速さで自分の隣を事も無げに、息も乱さずに歩ききったサラなら。

 そしてサラが言う『私が倒した』が本当であれば、自分の身を省みずにアンリエッタを助けた彼女は信頼して良い人物だった。そして彼女が何故初めに嘘をついて真相を言い鈍った理由も理解できた。


 コンコン。と小さなノックの音が応接間の扉からする。

 続いて扉の向こうでアンリエッタの声が聞こえた。

 追いついてきたらしい最愛の妹の声。

 それがサラへの質問という名の尋問の終了の合図になった。


「サラ嬢、改めてアンリを助けてくれてありがとう。妹を宜しく頼みます」


 アンリには後で真相を聞くとして、とりあえずは目の前の真っ赤になった少女に感謝を。

 そしてその少女に若干の興味を引かれたアランの胸中は、この後入室してきた最愛の妹の一言によってその興味を忘れる程の衝撃を与えられるのであった。

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