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俺と私の公爵令嬢生活  作者: 桜木弥生
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10話 俺と私のオトモダチってナンデスカ⑥

 アンリの手を引くサラ。背景は森の中。走る度に後ろに流れるアンリの赤茶色の長い髪。

 って、コレ、スチルだ…!!

 助けられるシーンのスチルだ!!

 ゲームではこの画面のスチルに『サラはアンリを助け、アンリの手を引いて逃げた』って文章しかなかったけど…助けられる内容がコレかよ!?

 主人公が空手とかプロレス技で助けるとかありえないだろ!?


 呆然としながらも引っ張られて走る。

 ヒールの靴でもなんとか走れているのは手を引いて貰っているせいだろう。


 暫く手を引かれたまま走ると見知った景色が見えてきた。

 ぜえぜえと荒い息を整え、汗を手の甲で拭いながら走る速度を緩める。


「…南…門…?…」


 南門前の馬車置き場だ。

 奥の方にはうちの紋入りの馬車も見える。


「もうここまで来れば大丈夫でしょう」


 ぜえぜえ言っている俺と違って全然息を乱していないサラは、戦っていた時とは打って変わって優しい微笑みで息を整えようとしている俺の背中を撫でてくれた。


「アンリ!!!」


 息を整えていると、馬車の方から駆け寄ってくる男性が一人。

 って、おにーさまでしたか。

 叫ぶように呼ばれた声に驚いたのか、俺の背中を撫でていたサラの手がビクっと反応した。


「アンリ、今までどこにいたんだ!?どこにも姿が無いから心配したんだぞ!?」


 かなり心配していたようで、瞳に涙を浮かべながら駆け寄ったその勢いで俺を抱きしめてくる。


 オイコラマテニーチャン。

 お前さんがなかなか来ないからこんなことになったんだろうが。


 めちゃくちゃ文句を言ってやろうと、抱きつく兄様の顎を上に押し離して口を開きかけたその時だった。

 無理やり引き剥がそうとする俺を抱きしめたまま見下ろし、俺の服や靴が土だらけで汚れている事に気付いたらしい兄様は顔が一気に青くなった。


「アンリ…何があった…」

「………人攫いに合っていただけですわ」


 尚も抱きしめてくる兄様を思いっきり引き剥がして離れると、腕を荒々しく前で組み刺々しく兄様を睨む。兄様は青い顔を余計に青…というか白に染めて震えだした。


「すまない!!お前をそんな目に合わせていたなんて!!やっぱり仕事なんて放り出して側に付いていれば良かった!!」


 職務放棄すんな。


「お仕事はしてくださいませ。お兄様が早く戻っ「痛いことはされていないか?自分で逃げてきたのか?あぁ!!アンリの白魚のような手首に痣が!?どこのどいつだ!!」

「おちつけおにーさま」


 俺の言葉に被せてきた兄様に思わず素が出てしまった。

 でも兄様は全然気付いていないようで、まだ怒り心頭中らしく止まらない。


「服もこんなになって!!顔は憶えているか!?絶対捕まえて地獄を味わわせてやる!!」

「とりあえず落ち着いてくださいませ。お兄様」

「落ち着いてられるか!!俺の可愛いアンリによくも!!」

「大丈夫ですから落ち着いて下さい。彼女に助けて頂いて、怪我もなく無事ですから」


 兄様を落ち着かせようと、ぺちんと両手で兄様の顔を挟むように軽く叩き、その両手でさっきから空気のようになっているサラの方に顔を向かせる。


「彼女に…助けて頂いて…?」


 俺の話を反芻するように呟き、サラの身体を上から下まで視線を巡らせる。その瞳には疑惑の色が浮かんでいた。


「君が…俺の可愛いアンリを助けてくれたのか?」


 まぁ、そうだわな。

 こんな華奢で可愛くてお淑やかそうな子が助けたとか聞いたらびっくりだわな。

 ってか、さらっと俺の可愛いとか言わないで。妹馬鹿とか恥かしすぎるから。

 何度もじろじろとサラを見る兄様の足を『彼女に失礼ですわよ』と言うように踏んでやる。踏まれた兄様は俺の意図に気付いたらしく視線を巡らせるのをやめた。


「えぇ。人攫いの方がちょっと目を離して下さいましたので、その隙に逃げてきたのです」


 …ん?


「そうか。自分だけでも逃げるのは大変だろうに、よく俺の可愛いアンリまで助けてくれた。礼を言う」


 …え…ちょっとまってちょっとまって…何か違う…


「怖くはございましたが…えっと…励ましてくださいましたので何とか…」


 俺をチラリと見て、俺が励ましたおかげとばかりに微笑んだ。


 そんな可愛らしい笑顔を見せられても俺は騙されませんよ!空手技とか、プロレス技とか繰り出して戦ったのは貴女でしょうが!


 思わずツッコミそうになるも、この事実を言ってしまったらサラが迷惑を被るかもしれないと思い直し、ぐっと堪えた。


「そういえば、自己紹介がまだだったね。俺はアラン・グレイス。そしてこっちは妹のアンリエッタだ。心から礼を言う。妹を助けてくれて本当にありがとう」

「グレイス…グレイス公爵家の!?そんな…私、とんだ失礼を致しました…公爵子息様と公爵礼嬢様とは露知らず…。私は、サラ・リーバスと申します。マルシアス・リーバスの娘です」

「マルシアス…あぁ、リーバス男爵家のご令嬢でしたか」


 慌てたように淑女の礼を取るサラの、マルシアス・リーバスという名前に誰か判った兄様は、微笑みながら頷いて俺の腰を軽く叩いた。

 腰を叩かれて気付く。そういえば俺もまだ自己紹介してなかったな、と。


「危ないところを助けて頂いたのに、お礼が遅くなってしまいましたわね。

 お兄様が紹介をして下さいましたが改めて。アンリエッタ・グレイスと申します。

 本当に、サラ様のお陰で助かりましたわ。ありがとうございます」


 若干土で汚れたドレスの裾を摘み、優雅に見えるように頭を下げる。

 お礼は大事だ。うん。助けてくれたのに、お礼言わないとかありえない。


 だがその先は言わないぜ?

 ゲームではこの場面で『お友達宣言』だったはずだ。

 けれど、どこかゲームと会話も違うし内容も若干違っていたから『お友達宣言』さえ俺からしなければ、絶対安泰のはずだから。

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