氷雪地獄の使者
目の前に広がる雪原、白一色の景色の一体のロボットが姿を現す。
鉄色の人を模した姿は戦闘を前提に作られていることは明らかだ。
二本の刀を背負い腰には拳銃を携えている。
この時代、近代兵器は軒並み破棄され旧時代の武器がまた日の目を浴びている。
というのも、近代兵器にはミサイルや核といった広域殲滅型の兵器が多いため、使えば自分側の施設に被害が及ぶ可能性が高いためである。
「ったく、なんで俺がこんなことをせにゃならん…?」
そうぼやきつつコンテナの乗ったソリを引きながら歩く二体のロボット。
「そう言わないでよ。今月私たちの当番でしょー。」
ぼやいたのが織間理雄、諫めたのが刈谷梨花。
二人は同型のロボットに搭乗しコンテナを引きずっている。
理雄はひどくダルそうに、その反面梨花は一生懸命に働いている。
「だってよー、こんなん他にも出来る奴いるのにさー。」
「リオくんが他の仕事サボるからじゃん。監視役の私の身にもなってよねー。」
理雄は何かとすぐにサボりたがるが、それを梨花がうまくコントロールしているというところだろうか。
実際理雄はこの物資運搬だけは文句を言いつつ仕事は完遂するのだ。
梨花と一緒のときだけという言葉を付け加えなければならないのが玉に瑕ではあるが。
「で、今日はどこまで運ぶんだよ?」
「今日はねー、ユーラシア連邦かな。」
ここで説明しよう。ユーラシア連邦とは、国家毎に作られた施設の一つである。
他にも、理雄たちが暮らす極東連邦。
説明が長くなるので省くが、その他は昔の大陸の名前の後ろに連邦とつけただけの簡素なものだ。
かつての日本は周りが海に囲まれていたらしいが、氷河期に入ってからは海がすべて凍り付いたため陸地と大差はない。
最後に今理雄らがいるところは旧日本海に位置する氷上である。
「めんどくせー、なんでこんな極東に施設なんか作ったんだか。」
「なんでも、昔二ホンって国の人が施設の開発に大きな貢献をしたとかで、報酬として作ってもらったんだってー。」
「へー。」
「もー絶対興味ないでしょ?」
「よくわかったな、その通りだ。」
「そうやってすぐ開き直るし…」
理雄の態度には慣れてはいるがこういうときは脱力せざるを得ないようだ。
ゴゴゴゴゴ…
「ん?今なんか聞こえなかった?」
「んあ?気のせいじゃね?」
「結構すぐ近くに聞こえたはずなんだけどなぁ…」
グラグラグラ…
「おおー、地震か?最近多くね?」
「そうだねー。二、三日に一回は来るよね。なんかあるのかな?お母さんもこんなの初めてって言ってたし。」
その後も音は大きくなり、最後は立っていられないほどの揺れになった。
「…コレやばくね?」
「やばいとか言ってる場合じゃないよ!ど、どうしようどうしよう、このままじゃ私たち死んじゃうよぉ!」
「んな大げさな、たかが地震だろうに…」
≪人類に告げる。≫
と、急に頭の中に声が響いてきた。
声色は男性とも女性とも老人とも子供とも思えないなんとも奇妙な声だった。
「こんなこと今までなかったよな?」
「あ、当たり前でしょ!何この声…なんか気持ち悪い。」
≪我は君たちでいうところの旧人類に相当する。ここでは仮に『モニュメント』と名乗っておこう。≫
≪我ら『モニュメント』は人類に対し宣戦布告をする。手始めに北極辺りを消して見せよう。≫
謎の声がそういった後、北の方から強烈な光が見えた。思わず目を隠した二人の目が次に捉えたのは大きなキノコ雲だ。
≪これが我らの力だ。ちなみにコレは全戦力の1割程度である。正式な挨拶はまた次の機会としよう。では人類諸君、また会おう。≫
これが人類と『モニュメント』の最初の邂逅の日、『解放の日』である。