我が家の桜子さん
友人と「ソー○マ○ターヤ○ト」の話で盛り上がり、シールドマスター、クッキングマスター(武器は鍋の蓋と菜箸のみで戦う戦士)の話を書こうとなったのに、紆余曲折を経てこれが完成。
どうしてこうなった。
我が家には家政婦さんがいる。その名も桜子さん。
見目麗しい美人さんだ。しかし輪をかけての変人さんでもある。
いかに変なのか、と問われると答えづらいが、とにかく変人だ。そしてやっぱり美人だ。
「坊ちゃま。ご飯ができましたよ」
そう言って、ドアノブを捻り扉を開け、部屋に入ってくる若くて美人な家政婦さん、桜子さんだ。
「ありがとう、桜子さん。でも僕、いつも言ってるよね?部屋に入るときはノックぐらいしてよっ!」
勉強の手をとめて、立ち上がって桜子さんと向かい合う。
「申し訳ありません、お坊ちゃま。私としたことがついうっかり。お坊ちゃまもお年頃ですものね、見られて困る時、行い、物など多々ありますよね。私めとしたことが、誠に申し訳ございません」
そう言って黒い服に白いエプロンドレスを纏った-要はメイド服姿の桜子さんが恭しく腰を折る。
しかし僕は知っている。
彼女は反省などしていない。むしろ嬉々と目を輝かせて僕の反応を窺っている。僕で遊んでいるのだ。
「ハァ・・・。別に、いいけどさ。いつものことだし。ちなみに、ないからね?僕には見られて困るものとかそんなの一切無いからね?」
「本当ですか?ベッド下にあるものや、机の引き出しの奥の隠しスペースにあるもの、天井裏にあるものも発見しましたがよろしかったでしょうか?」
「なななななんで知ってるのっ!?」
第一防衛ラインはおろか最終防衛ラインのものまで!?そんな馬鹿な・・・っ!
「ちなみに、すべて私が既に処理しておきましたので、ご安心ください」
「嘘っ!?」
限定物もあったのに・・・!
「はい、嘘です」
「なんだよ、それぇ・・・」
「冗談が過ぎました、申し訳ありません」
今でも淡々と平坦な口調で告げる桜子さん。顔も真顔で、冗談かどうかもわかりにくい。
表情からは反省しているのか、楽しんでいるのかもわからない。
それでも、最近になってようやっとわかってきた。やっぱり彼女は僕をからかって楽しんでいる。
「いや、別に怒ってないけどさ。・・・その、見た?」
彼女が僕の秘蔵コレクション達の所在を見破るのはいつものことだ、今更驚かない。
「見た、とはどれのことでしょうか?クールな女性が快楽堕ちするものでしょうか、それとも従順なメイドさんを言いなりにするやつですか、あるいはグラマラスな女性を・・・
「あああああ!全部見たってことじゃないかあぁっ!」
なんで内容全部知ってるんだよっ!
「坊ちゃまの性癖をトータルすると・・・」
「しなくていいからねっ!?」
「坊ちゃまはクールでグラマラスなメイドさんを快楽堕ちさせて言いなりに・・・」
「うぐっ・・・」
「ふむ、奇遇ですね。似たような女性が坊ちゃまの前にいらっしゃいますね。不肖この桜子、坊ちゃまならいつでも心の扉はノックなしで大歓迎でございます」
「どういう意味!?っていうかなんで服を脱ごうとしてるのかな!?」
「冗談でございます。ここから先は有料コンテンツとなっており、見たければ給料三か月分の指輪を私めに進呈していただければ・・・」
「ないからねっ!?僕まだ学生だから給料とかないからねっ!?」
「それは暗に、社会人になったときに求婚します、ということでしょうか?ぽっ」
「なんでそこで両手で頬を押さえるの!?ぽって何さ!?」
「恥ずかしながら桜子、坊ちゃまの求婚に照れてしまいまして・・・」
「わかりにくいよっ!顔色はおろか表情すら変わってないじゃん!ぽって自分で言っちゃってるし!」
「桜子は昔から、感情表現の乏しい子だと死んだ祖母からもよく言われまして・・・」
「生きてるよね!?桜子さんのお祖母ちゃん、ご存命だよね!?」
「あら吃驚。なぜ坊ちゃまが祖母のことを・・・まさか、桜子と将来のために・・・?」
「違うよっ!?身辺調査とかしてないからね!?雇用の際の書類に、家族構成あったよね!?」
「まぁ、坊ちゃまったら、そんな昔のことまで覚えてらっしゃるとは、桜子、嬉しゅうございます」
「昔ってここ二、三年だからね!?割と最近だよ!?」
「坊ちゃまとの思い出、毎日がぷれしゃすめもりぃ」
「何言ってんの!?あと桜子さん、英語下手っ!」
「桜子、昔ながらの純日本人でございまして、西洋かぶれなぞくそくらえ、でございます」
「口が汚いっ!あとメイド服着ておきながら何言ってんのさ!」
「それとこれとは話が別でございます。メイドは正義、カチューシャは正義の耳でございます」
「まったく意味がわからないっ!」
「ふぅ、やれやれ。これですから坊ちゃまは・・・」
「なんでそこで仕方ないなぁ、こいつ、みたいな口ぶりでため息ついてるのさっ!僕のセリフだからね!?」
「実は桜子、今までに坊ちゃまに隠していたことがありまして・・・」
「え?」
今までの態度とは一変し、終始僕の正面に立ち、ジッと目を見ながら話していた桜子さんが目をそらし、下を向く。
彼女にしては珍しい、というか僕の目を見て話さないなんて初めてだ。
そんな・・・まさか、僕の家政婦を辞めるとか・・・?
そんなの、考えただけで・・・
「嫌だっ!」
「え?」
「桜子さんが家政婦を辞めるとか絶対嫌だからね!?」
「突然どうしたのですか、坊ちゃま」
桜子さんはキョトンとしている、もちろん無表情で。
・・・あれ、僕の早とちりだったかな?
いや、うん、そうだね・・・。僕の早とちりだ・・・。
カァと耳が熱くなって、赤くなるのを自覚する。
顔を上げた桜子さんと向かい合うことができず、今度は僕が目を逸らす羽目に。
「う・・・」
「う?」
「うわああああっ!」
「今度こそどうしたのですか、坊ちゃま。安心してください、桜子は家政婦を辞めるどころか坊ちゃまのところに永久就職する予定ですので」
「やめてぇっ!掘り返さないでっ!」
「それは失礼致しました。実は隠していたというのは嘘のことでして・・・」
「嘘?」
「はい、実は坊ちゃまの秘蔵コレクションついイラッとして、間違えました、ついうっかり処分してしまいまして・・・申しわけありません」
「イラッ!?今確実間違いなくイラッって言ったよね!?」
「いつでもえぶりでぃうぇるかむなクールなグラマラス美女メイドがいるというのに坊ちゃまは手を出すどころかこんな創作物に手を出して・・・ちきんな坊ちゃまにイラッとしまして」
「チキン!?っていうか、二次元と三次元はもちろん別だからね!?あと、なんでところどころ下手な英語と上手なのが混じるのかなぁ!?」
「メイドはおっちょこちょいの方が可愛い、というのを見ましたので完璧な桜子もちょっとお茶目な部分を・・・」
「自分で完璧とか言っちゃうあたりが残念だし、あと桜子さんはいろいろ足りないのあるからねっ!?」
「なんと・・・完璧な桜子も坊ちゃまにとっては可愛いと・・・?」
「うぐっ・・・」
「そうなのですか、坊ちゃま・・・?」
ジッと僕の目を見て話しかけてくる桜子さん。
僕は恥ずかしさで固まっていると、ずいずいと徐々に桜子さんの綺麗な顔が迫ってきている。
間近で見ると、鼻筋はスッとしており、肌にはシミもくすみもない。年齢不詳のはずだけど、十代でもまかり通る綺麗な女性だ。そしてとてもいい香りが漂ってくる。
いい香りが・・・香りが・・・臭い・・・が・・・?
「そそそ、そうだっ!ご飯ができたんだっけ!?僕、行ってくるね!?」
慌てて桜子さんと距離をとると、ジト目で睨まれる。
その冷たい目と無表情な顔はこのチキン野郎め、と物語っている。
うぅ・・・やめて・・・変なのに目覚めちゃう・・・!
「このチキン野郎め」とボソリと聞こえた。あ、言っちゃうのね・・・。
「う、ううぅっ・・・!ご、ごめんなさーい!?」
僕は思わず部屋を出て謝りながら、真っ直ぐの廊下を駆け出す。
「坊ちゃま。次の本を買いにいかれるのですね?それならば次の隠し場所、枕元はやめたほうはいいですよ?」
少し離れた場所でも、桜子さんの声は凛とよく聞こえる。
なななななんで次の予定を知ってるのさぁっ!?
「桜子、エスパーですので」
絶対に嘘だ。
「もちろん、嘘です」
知ってたけどさぁっ!
「坊ちゃま」
もう一度、桜子さんに呼ばれて足をとめる。
先程のからかうような声色とは違い、今度のは真剣だった。
「ん、何?」
「坊ちゃま。気をつけていってらっしゃいませ」
言い方はとても恭しい。
けれども、腰を折ることもなく、その姿勢はメイドが主人を送り迎えするというより、母や姉が子供を送り出すようなものだった。
現に、桜子さんは大きな胸の前で、白く小さな手を控えめに振っている。
そしていつもの無表情ではなく、満面の笑みで。
普段は鉄面皮のようなのに、こういうときばかり、ずるい。
ああぁっ、もうっ!可愛いなぁっ!
「うんっ、いってきますっ!」
僕は持てる限りの笑顔で答えると、桜子さんも「はい」と答えてくれる。
その姿もまた可愛くて。
我が家には家政婦さんがいる。その名も桜子さん。
見目麗しい美人さんだ。しかし輪をかけての変人さんでもある。
いかに変なのか、と問われると答えづらいが、とにかく変人だ。そしてやっぱり美人だ。
そして僕は、そんな桜子さんが、大好きだ。