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サラリーマン

作者: 無気力少年

ちょっとお疲れ気味のサラリーマンのお話です。

サラリーマンが職場を出たのは、0時を少し過ぎた頃だった。


ガードマンに挨拶をし、古ぼけたビルを後にする


「もうこんな時間か…」思わずため息が出てしまう


終電に乗るのは諦めた


走って行けば間に合わないこともないが

14時間パソコンと格闘していた体は動いてくれそうにない


「タクシーで帰ろうか…」


財布の中には野口英世が4枚


あと一週間はこれで持たさねばならない


歩いて帰るしかない


ここから歩けば2時間はかかるだろう


別に構わない、どうせ家に帰っても誰も待ってやしないだろう


昔は残業で遅くなると嫁が必ず家で待ってくれていた


しかし今は違う、50を迎えても係長止まりの私に愛想をつかしたのだろうか


今では夕食すら作ってくれてない


19になる娘はいつも家にいない


昔は玄関で帰りをずっと待っていてくれたのに


薄暗い路地をうつむいて歩く


LEDの電灯は人を暗い気持ちにさせるのだろうか


いや、思い返せばここ最近、暗いことしか考えてない


年下の上司に説教された


一度飲みに行くのを断っただけで相手にされなくなった


そろそろ母も介護が必要になってきた


友人が皆出世していく


……………


いつからだろうか…


いつからこんなに物事を悪く考えるようになったのだろうか…


入社したばかりの頃は活気に満ち溢れていて、やること全てが楽しかった


嫁と結婚した時はこの人のためなら死んでもいいと思った


娘が生まれた時は、この世に生まれてきたことに心から感謝した


しかし年月を重ねるごとに、私の大切なものはだんだん崩れてきた


娘が中学生になった頃、反抗が始まった


夜遊びするようになり、口も聞かなくなった


夜遊びをしていて補導されたこともある


嫁はその度に娘を叱り、娘は逆上してさらに反抗した


家の中が荒れているというのに、そんなとき決まって私は家にいなかった


嫁には何度も娘にガツンと言ってくれと言われた


しかしその度にてきとうに受け流した


思えば、あの時ちゃんと対応していればこんな風にならなかったのだと思う


しかしあの時の私は必死だった


同期が皆出世していくなかで、自分だけが取り残されて行くような不安でいっぱいだった


だから死ぬ気で働いた


一週間、家に帰らないこともあった


嫁には「家族と仕事、どっちが大事なの?」と、テレビドラマでよく聞くセリフを言われた


私はなにも答えなかった


嫁は失望したようだった


家庭を犠牲にしてまで働いたのに職場での現状はなにも変わらなかった


そして完全にやる気をなくし、仕事も家庭もてきとうに片付けるようになった


最近は喜怒哀楽どころか食べ物の味まで感じなくなってる


そんなことを考えているうちに家に着いた


築20年のマンション、ここの6階だ


深夜2時、ほとんどの部屋は灯りが消えている


私の部屋の灯りも消えていた


エレベーターに乗り、6階のボタンを押す


ゆっくり上昇していくエレベーターの中は恐ろしく静かで、少々不気味だ


6階に着いた


部屋の前に立ち、鍵を開け、中に入る


玄関の電気をつけると、娘の靴がなかった、今夜も帰ってきてないようだ


靴を脱ぎ、リビングへ向かう


リビングの電気をつけ、上着を脱ぐ


昔なら嫁がハンガーにかけてくれていた


自分でハンガーにかける


台所にある冷蔵庫を開け、ビールを取り出す


立ったまま、勢いに任せてゴクゴクと飲み干す


残業で疲れた体に安っぽい発泡酒が染み込んでくる


とはいえ、美味いとは感じない


飲み干すと、急激に空腹を感じた


ガスコンロの上に鍋があり、鍋の中にはカレーがあった


今日は運がいい


たとえ残り物でも、腹が満たされるならそれでいい


どうせ味などわからない


皿にカレーをよそう


椅子に腰を降ろすと急に疲れが出てきた


ようやく腰を休めることが出来て体が安心しているようだ


いや、思えば職場では一切席を立たず、座りっぱなしだった


自分で自分が可笑しくなる


ずっと腰を休めていたではないか


疲れのためか、ため息が漏れる


目の前にパソコンがない


ずっとパソコンに向き合っていたせいか、そんな光景がとても新鮮に見えた


もうあのいやらしいブルーライトに目がやられることもない


目をつぶるとウトウトと眠ってしまった


夢を見た


むかしの光景だった


嫁と娘と三人でテーブルを囲んでいる


嫁がカレーをテーブルに運んできた


三人でカレーを食べる


娘が美味しいと言う


嫁と私は微笑んで娘を見ている


ああ


あんな時もあったんだ


うっすらと目を開けると、テーブルの前の席に嫁がすわっていた


「あなたどうしたの?泣いたりして」


目頭が熱い


私は泣いていた


「もう、グスグスうるさいから起きちゃったじゃない。」


嫁は眠そうな顔でティッシュを持ってきてくれた


「疲れてんじゃないの?仕事が忙しいのかもしんないけど、体には気をつけなさいよ。」


嫁は寝室に戻っていった


………今からでも遅くないだろうか…



























サラリーマンの皆さん、色んなことがあるとは思いますが、頑張ってください。

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