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彼の知らない物語<ストーリー>

「や、やっと村に着いた……」

半日と掛からない近隣の村だというのに、丸一日歩いたかのような疲労がコルヴォにどっと押し寄せる。

「だっらしねぇなあ。そんなんで勇者が務まんのか?」

疲労の主原因であるフィオーレは疲れた様子も見せず、またコルヴォを労わる素振りも見せずに言った。

「……フィオはそんなんで王女が務まってるの……?」

「さぁ? 俺様は他人の評価なんざ気にしねぇからよ」

全くもって彼女らしい考えだが少しは他人の事を気に掛けてくれないだろうか。

フィオーレは王女で、つまりいずれは女王となって国を治めるかもしれない立場にあるというのに。

世も末だ、とコルヴォは盛大な溜め息をついて宿屋へと足を向けた。

「ため息つくと幸せが逃げるんだぞー?」

「……今更だよ、そんなの」

その時、フィオーレの背中にどんっと誰かがぶつかってきた。


「隊長! フィオ姫さまを確保したであります!!」

「確保でありますー」


フィオーレの背中に抱きついたのは人懐っこい笑みを浮かべる茶髪をツインテールにした双子の少女。

容貌も服装も何もかもが鏡合わせにしたかのように瓜二つだ。

「お、タトにカロじゃねぇか! 元気にしてたか?」

振り返り二人が見知った顔だと分かると、フィオーレは屈んで二人の頭をわしゃわしゃと撫で回した。

「もちろん元気であります!!」

「元気でありますー」

フィオーレから向かって左の子が主に喋り、右の子がそれを復唱している。

「そっかそっか。ってか、オマエらまーた入れ替わって遊んでんのか?」

その言葉に双子は一瞬目を見開き、そしてつまらなさそうに不貞腐れた表情をした。

「……フィオ姫さまはすぐ気付いちゃうであります」

「気付くでありますー……」

こちらが正しいのだろう、今度は右の子が主に喋り、左の子が復唱し始めた。

「甘ぇな、俺様を誰だと思ってんだ?」

「何さま、俺さま、フィオ姫さまであります!」

「フィオ姫さまでありますー!」

「そのとーり! 分かってんじゃねぇか」

随分長い付き合いのような和気藹々とした雰囲気を出す三人を、コルヴォは呆然と見つめた。

「フィオ……この子たちは……?」

「ん? かわいーだろ、俺様の後輩だ!」

「……何に対しての後輩なのかはあえてスルーしとくよ」

節約家の後輩だろうか、守銭奴の後輩だろうか、とコルヴォは考えてみたが不毛な気がして考えないでおく事にした。

「こっちのスッゲー元気なのがタトで、こっちののんびり大人しいのがカロな」

「タトであります!」

「カロでありますー」

「僕はコルヴォ。よろしくね」

「コルヴォもフィオ姫さまのコーハイであります?」

「コーハイであります?」

「あ、いや、僕は……えっと……」

勇者、と堂々と公言するのがはばかられた為に言葉を濁すコルヴォの代わりにフィオーレが言う。

「コイツはな、世界を救う勇者サマだ!」

二人はぽかんと口を開けてコルヴォを見上げ、次にフィオーレへ視線を移して、そして驚愕の声を上げた。


「勇者さまはフィオ姫さまじゃなかったでありますか!?」

「なかったでありますか!?」


思わずコルヴォはずっこけた。

この二人は今の今までフィオーレを勇者だと勘違いしていたらしい。

無理矢理旅に付いてきたり、魔物に単身向かっていって、棍棒で魔物を殴り倒したり、ある意味勇者と呼べるかもしれないが。

それよりもこんな子供の前で魔物を殴り倒したりした事がある事が問題な気がする。

フィオーレもさすがに勇者だと思われていたとは知らなかったようで、少し呆れたように二人の間違いを訂正する。

「オマエらなぁ……そんなわけねぇだろ。勇者はな、聖剣ってヤツで魔物と戦ってくんだ。だから俺様みたいに拳で魔物とは戦わねぇよ」

「訂正するとこってそこ!? というか拳って素手!? 素手で魔物と戦ったことあるの!?」

「そうでありますか!」

「そうでありますかー」

「え、納得するの!? そして疑問はないの!?」

確かに勇者は聖剣に選ばれた存在であるとは思うが、こうもあっさり納得してしまって大丈夫なのだろうか。

いや、勇者の定義以前にフィオーレが拳で魔物と戦った経験がある事にコルヴォは驚きを隠せない。

「う? フィオ姫さまはこの村をマモノから守ってくれたであります」

「守ったでありますー」

「えーと……素手で?」

「そうに決まってるであります。おそいくるマモノをバッタバッタとなぎ倒す、血わき肉おどるスペクタクルだったであります!」

「ス、スペ、スペタクル、だったでありますー」

その光景をいとも容易く鮮明に思い描く事が出来てしまって、思わず顔が引き攣る。

あまりにも無謀で無鉄砲な行動だが、フィオーレなら仕方ないと思ってしまっている自分が恐ろしい。

フィオーレが丸腰でこの旅についてきたのは、武器を忘れていたからではなく、武器が必要なかったからのようだ。

「あ、そういや勇者、疲れてたな。さっさと宿屋で休んでていいぞ。俺様は後輩ズと遊んでくるからよ」

「うん、そうする……」

これ以上この三人組と一緒にいると魔物と戦う以上に疲れそうな気がして、いや実際もう疲れ果てているが、フィオーレの言葉に甘えてコルヴォはその場から撤退した。

"後輩"とは、勇者の後輩という事だったのだろうか。

絶対にフィオーレのような生き方を真似してほしくないな、とコルヴォは心の中で願った。


■ □ ■ □ ■


「――さて、と」


そうしてコルヴォは村からいくらか離れた森の中で立ち止まった。

その目には今までにない真剣さが宿っており、静かに精神を研ぎ澄ます。

一陣の風が木々を揺らし葉がざわめいた。

刹那、コルヴォは振り向きざまに背負っていた聖剣を抜き放つ。

ガキンッ、と音も無く迫り襲い掛かってきた狼型の魔物ブラッドウルフの鋭利な爪と聖剣の刀身がぶつかる音が響いた。

ブラッドウルフはすぐに後方へ飛び退き、唸り声を上げてコルヴォを睨む。

それを合図にしたかのように四方八方から唸り声聞こえてきた。

ブラッドウルフは群れで狩りを行う魔物で、一度獲物に狙いを定めると地の果てまでも執拗に追いかける。

そして血の匂いに敏感で、おそらくこのブラッドウルフの群れは村への道中で倒した魔物の血の匂いに誘われコルヴォたちへ辿り着いたのだろう。

全部で十匹、フィオーレへと狙いを変えられる前に倒さなければならない。

「やっと出番だよ、聖剣"エクスカリバー"」

聖剣を握る手にぐっと力を込めて、目の前のブラッドウルフへと斬りかかっていった。

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