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破天荒な序章<プロローグ>

――ありえない。


勇者として旅を続ける青年コルヴォは痛む左肩を押さえながら、目の前の現実から逃避を試みようとしていた。

"お姫様"、そう聞いた時、皆さんならばどのような人物像を思い浮かべるだろうか。

きっと、清楚で可憐で優しく柔らかな笑みをたたえた女性を思い浮かべる人が多いと思う。

太陽のような笑顔が似合う、元気の溢れるお転婆な少女も次ぐらいに多いかもしれない。

心が広く、慈愛に満ち、お淑やかで、凛々しさを兼ね備えた、そんな女性にこそ"お姫様"という言葉は似合うのだ。

コルヴォは今までそう思っていたし、今でもそう思っている。

けれど、そう思えば思うほど現実は強烈さと受け入れ難さをもってコルヴォに目の前の光景を信じさせようと突きつける。


煌びやかに着飾ったドレスは脱ぎ捨て、スリットが入り動きやすさを重視した服を纏った白磁の肌。

その手が持つのは、丸腰で付いてきた彼女が身を守れるようにと木の棒を使って即席で作った棍棒。

ポニーテールにした神秘的な白髪に映える、魔物の返り血。


目の前で嬉々として棍棒を振り回し魔物を殴り倒している見目麗しい女性が、"お姫様"と呼ばれるフィオーレ姫なのだ。

改めて受け入れた現実に、彼女に魔物と一緒に殴られた自身の左肩が痛みを増した。


どうしてこうなったのか、時は王に謁見し魔王討伐の旅へ出ようと城を後にしようとした辺りに遡る。

『おい、勇者』

王に謁見した後、城を去ろうとするコルヴォの後ろから少々乱暴な言葉が呼び止めた。

驚いて振り返れば、光を受けて煌めく白髪と太陽のように爛々と輝く黄金の瞳を兼ね備えたこの国のお姫様が仁王立ちで立っていた。

見目麗しいその容貌に思わず見惚れたコルヴォは、彼女とお近づきになれるチャンスだと思い、高鳴る胸を抑え込んでお姫様の次の言葉を待つ。

『オマエの旅に、俺様も連れて行け!』

愛らしい唇から零れ落ちた粗暴な言葉に、コルヴォの思い描いていたお姫様像は一瞬にして砕け散ったのだった。

そして、その提案を拒めずに頷いてしまい、今に至るのである。


「――うっし! こんなもんか!」


棍棒を地面に立てそれに手をつき、もう片方の手を腰に当てて明るく言う。

その足元には思わず合掌したくなってしまう哀れな魔物の死体たち。

魔物の死体は次第に黒くなっていき、最後にはサラサラと砂のようにその形は崩れ、風に流されて跡形も無く消え去った。

「おーい、勇者ー。ぼーっとしてないで、オマエも仕事しろ。なんで俺様一人で戦わなきゃなんねぇんだ」

魔物の命を儚んでいたコルヴォにフィオーレは構う事無く不満を言う。

「一緒に戦おうとしたら殴ったじゃんか!」

「あ? 勇者ならあれぐらい避けやがれ」

「無茶言うなよ!」

そもそも彼女の得物となっている棍棒の耐久性が異常なのだ。

少し太めの棒切れを何本か蔦で纏めただけの簡単で即席の棍棒だというのに、この異常なまでの耐久性と破壊力はどこからきているのかまるで検討がつかない。

即席といえども破壊力を備えたそんな棍棒を嬉々として振り回すフィオーレもフィオーレである。

棍棒で魔物を殴り倒すお姫様なんてありえない、コルヴォのお姫様像がガラガラと崩れ落ちる音がする。

「…今、失礼なこと思ってただろ」

「え!? あ、いや、えーと……そ、その武器じゃあ、これから先は心許ないかなーって思ってただけで…」

「心配すんな。いきなりポッキリ逝っても大丈夫なように、後二本持ってるからな」

そう言ってフィオーレが指差した彼女の背中を見ると、確かにそこには棍棒が二本背中に紐で括られていた。

一体何処で手に入れたのか尋ねようとフィオーレの顔に視線を戻すと、こちらの訊きたい事が分かったのか自信満々な笑顔で答える。

「さっきのモンスターからパクっといた。ぜんぜん丈夫だからもったいねぇだろ?」

「お……お姫様が、追い剥ぎ……」

「人聞き悪りぃなぁ。まだ使えるもん捨てるなんて出来るかよ。これはリサイクルだ、リサイクル。環境に優しく、しかも財布にも優しい素敵に無敵な呪文だろ?」

「環境には優しいかもしれないけど、フィオの評判には悪影響しかないよね!?」

「評判なんざ金にならん!!」

「言い切った!!」

言い切られてしまうとこれ以上コルヴォに言える事は無い。

フィオーレが即席の棍棒で殴り倒す為、未だに出番を貰えていない自身の背負っている聖剣が泣いた気がした。

「でもまあ、確かに勇者の意見も一理あるよな。金属バットか釘バットあたりがあればなぁ……」

「どっちもバットじゃん!! なんでそんなに鈍器にこだわるの!? 王女様ならさ、ほら、宮廷剣術? とかって習わなかったのかよ!?」

「愚問だな、勇者」

ちっちっち、と人差し指を振ってフィオーレは言う。

「剣術なんざ習うわけねぇだろ、金がもったいねぇ!」

別にフィオーレの住む国は貧乏な訳でも財政難な訳でもなく、至って真っ当で普通な国である。

城の内装も外装も豪華絢爛に造られていたし、服装や装飾品も煌びやかで高級感をかもし出している物がほとんどだ。

節制を迫られている訳でもない、お金にうるさくならなければならない理由もない、そのハズなのに何故フィオーレはこうもお金にうるさくなったのだろうか。

コルヴォは呆れてものも言えなず、ただ引き攣った笑みを浮かべた。


――この人、正真正銘の守銭奴だ……!!

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