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あなたがくれる痛みは甘美で、悲しい

まったく馬鹿げてる。

私はそう思いながら、食堂への扉を開けた。

食堂には王族と一部の権力者たちが座っていた。


「フィラ、遅かったじゃないか」


お父様が私に気付き、座りなさいと促す。

先に席に着いているディーズの目が突き刺さる。


「お出かけの時とはドレス変えたんだね」


ネンリがドア付近の席から声をかける。

そのお出かけと言う言葉に、複雑な顔をする皇帝。

それに気付いた隣の席の皇妃が、肘で脇をつつく。


「ええ。お出かけの時に泥がついてしまったから」

「そうなんだ? そのストール、春らしくていいね」

「ありがとう」


フィラは照れたようにうつむく。

端から見れば、初々しいカップルの会話だ。

王は口をわなわな動かし、震えているが、妃が王の足を踏んづけていた。

その様子を黙々と口に運びながら、ディーズは見ている。それも冷たい目で。


フィラは気が気ではなかった。

ネンリにストールの話をされて、首もとに視線が集まるのが怖かったのだ。

ばれないようにとうつむきがちで食事をしているが、ディーズの視線が痛い。

けれども、これまでの人生で一番ディーズの視線を独り占めしていることに喜びを感じた。


「フィラ様、そのドレスお似合いですよ」


ディーズが愛想笑いを顔に貼りつけて、言った。

フィラはまた、視線が集まることに焦りを感じる。


「ありがとう」

「素っ気ないですね。俺が選んだドレスなのに」


にこにこと言った言葉に、ネンリが不思議そうな顔をした。

それに満足したのか、ディーズは嬉々として話し出す。


「フィラ様がドレス選びに悩んでいるようなので、選んで差し上げたんですよ」

「あはは、フィラってばディーズ先生に聞くくらい悩んでたの?」

「え、ええ」


まったく、心臓に悪い会話だ。

その後は大した会話もなく、食事が終わる。

それぞれ、退室していった。



「フィラ、行かないの? 部屋まで送るよ」


部屋にはフィラとネンリ、ディーズが残っていた。

最後に一人で出ようと思っていたのに、これでは本末転倒だ。


「もう、自分で行けるわ」


早く一人になりたくて、早足で踏み出す。

その時、あれという声が後ろからした。


「フィラ、それどうしたの? 蚊にしては季節が早いよね。病気?」


一歩一歩近づいてくるネンリを避けるように、早足で進む。

ネンリが首をかしげたその時、横からストールが奪われた。

思わずストールを掴もうとするが、間に合わず、それを奪ったディーズと目が合う。

そして、私の首もとが晒された。


「フィラ、それ……」


ストールがなくなったことで、ネンリは赤い斑点の正体を理解する。

フィラの顔に血が集まったような気がした。


「誰にやられたの。そんな奴、僕が」

「俺ですよ」


私の腰に手が回り、首筋に生暖かいざらついた感触がする。

思わず全身の感覚が毛羽立つように感じて、震えた。


「やぁ……っ、ディーズっ」


ネンリの前で止めて、と視線を送るがディーズはネンリを挑戦的に見ている。


「どうです、フィラの扇状的な顔は」


呼び捨てされたことに、彼の所有物になった気がして、心が震える。

ディーズは舌を首筋からたどり、耳に口付ける。


「ディーズ、……お願いだからっ」

「あなたのその潤んだ目、誘ってるようにしか見えないんですよ」


違う、と力なく首をふるが、その頭を押さえられ、ネンリに向けられた。

ネンリは真っ赤な顔をして、カタカタと震えている。

そして、ごめんっと言って、鼻をおさえて逃げるように走っていった。



嫌われた。



フィラは大切な友人を失う喪失感に、その原因であるディーズを睨み上げようとして、影を感じた。

そして口から出る罵るはずだった言葉は、ディーズに吐息ごと飲み込まれる。

至近距離のディーズの濡れた眼差しに、胸が高鳴る。


「あなたがいけないんだ。ネンリの目を覚ますためにやったのに、そんな反応するから」


力ない私を、ディーズが力強く支える。


「ネンリのため? 酷いわ、私はファーストキスだったのに」

「そうやって少女ぶるのか。何度でも、奪ってやるさ」

「ちがっ……ん」


私の唇がまた、貪られる。

好きな相手と唇を重ねているのに、心が満たされないことに、内心涙を流した。

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