蒼の瞳、朱の瞳
薄暗い部屋の中で、窓の外を見つめる長髪の青年がいた。
外を見つめる深い海のような蒼の瞳は、ひどく考え込んでいる。
「よう、何してんだ?こんなとこで。」
青年が振り替えると、そこには、背の高い若い男が部屋に入ってきていた。
「あぁ、あなたでしたか。ちょっと考え事を・・・。」
焔のような朱の瞳の男は、不思議そうな顔をして、青年が見つめていた窓の外を見た。
「考え事?今度は、なんだ?」
青年は、視線を窓の外へ戻して
「いえ、なんだか、人なのに人じゃないような人が増えて来たような気がして・・・。」
「は?」
「なんでしょうね・・・自分でも、よく分からないんです。
ただ、笑っているのに笑ってない。泣いているのに泣いてない。感情があるようで感情のないような、そんな人が増えている気がするんです。」
男は青年を見る。
「そうか?考えすぎじゃね?」
「多分、そうなんでしょうが・・・でも、何か引っ掛かるんです。こうして、考えてたのですが、結局、分かりません。」
気にするほどでもないと言うように、男は青年に笑いかけ
「考えても考えても、わかんねぇ時は、まだそれを知らなくてもいいってことじゃねぇの?」
「それもそうですね。・・・あぁ、変な事を聞くのですが、人ってなんなんでしょうね?」
「はい?」
男は唐突な質問に、拍子抜けした顔をする。
「なんだか、周りの人間が変だ、変だと思えてくると、自分自身が人ではないような気がしてくるんです。
人の姿をした異形の者のような。
自分は周りが異形に見えて、周りは自分が異形に見えているんじゃないかと。
そう考えてたら、そう言えば、人ってなんなんだろうと・・・。」
「お前さぁ・・・考え過ぎ。
人じゃないような気がする、だから、どうしたってんだ。
お前はお前。周りからどう見られようとも、自分がどう考えようとも、誰でもねぇお前なんだ。
俺には、人がなんたるかなんざ、わかんねぇ。
けどよ・・・。」
男は朱の瞳で、青年の蒼の瞳をしっかり見据えると・・・
「人って奴は、常に『ひとり』で生きてる。だけど、同時に、『ひとり』じゃ生きれねぇんだ。
だって、そうだろ?
俺がお前の全てを知ることが出来ねぇように、お前は俺の全てを知ることは出来ねぇ。
血の繋がった家族でも、生まれ変わった自分だとしてもそうだ。
お前の今まで経験や気持ち、心を全部、知っているのは、お前『ひとり』。
だけど、誰もかも、誰かの支えがなけりゃ、『ひとり』では立てねぇだろ?」
真剣に語る朱の瞳から、蒼の瞳は何かを悟ったように、光が灯った。
「あぁ・・・あなたに言われて、やっと分かりました。
僕の中で『自分』を信じるのは自分しかいないこと。そしてまた、『あなた』を信じるのも、自分しかいないんですね。」
「よくわかんねぇけど・・・俺が言いたいことは、なんとか伝わったみてぇから、いっか。」
そう言うと、朱の瞳の男は笑い出す、つられて蒼の瞳の青年も笑い始めた。
そんな、笑う二人を窓から柔らかな光が包み込んだ・・・
〜終わり〜