自分の意志
リヴァイアサンは動けなかった。
目の前で繰り広げられる戦いに魅入っていたのだ。
ほんの数分前のこと。
「本当に?キーラーにならなくていいのか?」
「ああ、そうさ。俺に勝てたらの話だがな」
黒斗に能力があることがわかったが、リーダーとの鬼ごっこで今後を決めるという。
「さぁ、鬼ごっこをはじめようか」
リーダーがそう言い放った。
「黒斗…あいつ、なんて奴なの…」
念力で周りのものを操りリーダーに飛ばす。
疾風の能力でそれらを華麗にかわしていくリーダー。
追いつかれそうになればテレポートで遠くへと瞬間移動する黒斗。
しかし、黒斗の努力も虚しく…
「うあっ!」黒斗はリーダーに取り押さえられていた。
「俺の勝ちだ、約束通りキーラーになれ」
「…リヴァイアサン、とりあえず今日は休んでもらおう。
この通り、彼も相当疲れているようだ」
リーダーは疲れて動けなくなっている黒斗を起こして言った。
黒斗は気絶している。
「リーダー、部屋はどうしますか。
今のところ、空きがあるのは女子のところだけなのです。
さすがに素性のわからない男をぶちこんでおくのは危ないですよ。
彼女たちが彼に何をするかわかりませんから」
リヴァイアサンは黒斗を抱き上げながらそういった。
横抱き、俗に言う「お姫様抱っこ」だ。
「待てリヴァイアサン。突っ込みどころが多すぎるぞ」
「いえ、気にしてはいけませんよ」
「いや、気にするからな普通!」
ゆらゆらと揺れている感覚。
はっきりしない意識が憎らしい。
ぼやける視界の中、彼は思った。
(俺は…こんな組織に入るはずじゃなかったのに)
徐々に疲れからか、一度ふわふわと浮き上がってきた意識が沈んでいく。
(エルーダの町で一番名高い特殊能力組織に入るために来たのに)
視界が闇に覆われたとき、かすかに聞こえた声。
「君は、キーラーになり何を望む?」
どこか少年のように感じる声。
懐かしい、優しい、そんなことを思いながら、黒斗は眠りの海に沈んでいった。