連れ去られまして50メートル
傍からみたらおいしいだろうが、この現状はそんなもんじゃない。
少年は気絶しており、ロープでぐるぐる巻きにされていて、隣には絶世の美女といっても過言ではない女性が立っていた。
「リーダー、人間を捕まえました。外部の人間です」
女性が言う。
「……そうか。リヴァイアサン、ご苦労だったな」
「いえ、見回りをしていたときに見つけた産物ですので」
リヴァイアサンと呼ばれた女性は、奥から聞こえてくる若い男と思われる声と会話をしている。
彼女は少年と同じように、全身漆黒だった。
サラ、と美しいオレンジの髪がゆれる。
そこで、少年の目が覚めた。
「……いってぇ」
「「!!」」
2人は驚き、リヴァイアサンが少年に持っていた杭を突きつける。
「お前は何者だ」
「俺?俺はくr…」
「待て。お前が偽者の人間ならそう易々と名乗らないだろうし…
よし、ここにお前の名前を書け」
リヴァイアサンは杭を下ろし、近くにあったスケッチブックとペンを少年に渡した。
彼女の顔は、何故か嬉しそうだった。
「なあ、偽者の人間って…」
「いいから書け」
獲物をいたぶれる、そんな期待が篭もった目だった。
少年はスケッチブックに大きく、「黒崎 黒斗」と書いた。
「はい、これが俺の名前」
「……リーダー」
「ああ、そうだな」
リヴァイアサンは少年…黒斗から乱暴にスケッチブックを受け取ると、奥の暗闇に持っていく。
「大丈夫、コイツは平気さ」
若い男の声がそう言い放った。
「そうですか…」
彼女の顔は少しだけ、悲しそうになった。
「なぁ、偽者の人間とか、俺が平気とか何の話な訳?」
黒斗は少しだけイライラしていた。
それはそうだ。
いきなりジャーマンスープレックスをかまされ、見知らぬ場所につれてこられた挙句、ロープでぐるぐる巻きにされてさらには偽者だ、平気だという会話。
何の説明も話も無い。
「なんなら俺、お前らの前からいなくなるよ」
黒斗がそう言ったとき、奥の気配…リーダーと呼ばれた男が動いた。
「それは困る。君には是非なってもらいたいものがあるんだよ」
リーダーは軽やかな靴音を響かせて黒斗の前に立つ。
「それを承諾するのなら、何の話か教えよう。
生憎、部外者に教えられるような話じゃないのでね。いいかな?」
黒いフードの中から鋭い、紅い瞳が彼を見る。
先程のリヴァイアサンと同じ「獲物を狙う目」だった。
「嫌だ」
黒斗はそう言い切った。