7話 壊れ始めた平和
「ん……ふぁ……あむ……んむっ……んっんっんっ…………」
「だいぶ上手になったなマール褒めてやるぞ。」
「ん……んっ……ありふぁほぉうごひゃいまふぅ……あむ…ん…」
馬車の中へと戻った魔王が座席に座るとマールがすぐに跪き奉仕を始める。彼女はこの村に至る数日の間で従順となり今では自分の意志で魔王に奉仕するようになっていた。
それは生殺与奪を握る男への恐怖からなのか、その男が意外にも優しく接してきたことによるものか?魔王にしては弱いながらも彼女にとっては強力な性魔法によってもたらされる快楽からか、あるいは壊れてしまったのか?
正解はわからないがとにかくマールは自分の意志で喜んで仕えるようになっていた。
一方で魔王の対面に座るリーシャとユフィはただ何かを耐えるかのようにギュッと手を固く握りしめて俯いていた。
大祐は彼女たちがどうしてそんな態度を取っているのかわかっているが敢えてからかうように聞いてみた。
「どうした?辛そうだな?何か困ったことがあるのなら私でよければ力になるぞ。」
笑いながらバカにしたように尋ねる魔王に対して、二人は顔を上げ無言でキッと睨みつけた。
それを見てさらに笑みを深めながら大祐は言う。
「そうかそうか妬いてるのか、マールばかり構ってるからな!でも仕方ないだろう?同じ服を着ているからわかりやすいが胸のサイズがな。お前たちの胸も触り心地は良いけどな。」
言いながらリーシャのむき出しになった胸へと手を伸ばす大祐。
マールも含めて女たちが着ているのは魔王が魔法で適当に作って与えた同じ服だ。いや、服というよりも男を誘うために作られた下着だろう。3人ともピンクで完全に透けているベビードールのようなものを着せられていた。さらにこの衣装はバストの部分に布がなく胸が完全に露出していた。
そのため明らかに大きいマールに比べリーシャとユフィは小さめ――といってもほどほどの大きさはあるのだが――であることがわかる。
そんな衣装だけを身に纏った女に対し、胸を触ろうと伸ばしてきた手をリーシャは払って叫ぶ。
「ふざけないで!あなたなんかのことで妬くわけないじゃない!そんなことより!あなたたちはどうしてこんなことができるのよ!…………何の罪もない村の人たちを………どうして!」
涙を湛えた瞳でまっすぐ睨むリーシャと、無言ながらもリーシャに同意であることがはっきりわかる目をしたユフィが大祐を見ている。
リーシャがこのように叫ぶのは彼女の人生において初めてのことだった。普段の彼女はしっかりした典型的な世話焼きタイプでいつもカイルの面倒を見てきた。時には喧嘩をすることもあったし、怒ることもあった。
だが一度としてこのように全ての感情を振り絞るように叫んだことはない。それほどに今の彼女は激昂していた。
そんな彼女たちの抗議に対して軽く肩をすくめながら大祐がおどけた様に言う。
「なんのことだ?私にはわからないな。おい、マールもう少し激しくしろ!」
「ふぁい。」
大祐の指示を受け、口を窄めて激しく頭を動かすマール。
「ふぅ~これはいい拾い物をしたな。お前は当たりだぞマール!」
言いながら魔王は手を伸ばし片手で頭を撫で、もう一方の手でマールの胸を揉みはじめた。
そんな魔王と従順になってしまっているマールを見てリーシャとユフィは怒りがさらに湧いてくる。既にこれまで感じたこともないほどに憤慨している状態でさらなる感情が押し寄せてくる。
視線で人が殺せるのならばとっくに大祐は殺されていただろう。
普段の可愛らしい様子からは想像できないほどに顔をゆがませた二人を見て大祐は言う。
「そんなにあの村の人間どもを、お前たちから見ればただの他人を助けたいのならば助けに行けばいい。私は止めないぞ。」
ニヤニヤとバカにするように嘲笑う魔王。彼女たちが行きたくても行けないのを知っていながら言っているのだ。
大祐が馬車に戻ってきてから今この瞬間までずっと悲鳴が上がり続けている。風太が女を探しながら暴れているのだろう。
今も「ぃやぁぁぁぁぁ!!!」「助けてーー!」「やめろーーー!」など悲鳴が上がり続けている。
この村の規模ならすぐにでも全滅させられるだろうに、未だに生存者がいるということは風太は遊んでいるようだ。もしくは好みの女がいなかった腹いせかもしれないが。
大祐にとっては心地よい、だがリーシャたちにとっては耐え難い叫びを聞きながらも彼女たちは動こうとはしない。
それは風太を止めることなどできないから、あるいは彼女たち自身の服装による羞恥からなどという理由ではない。
彼女たちが動けないのは
「あたしたちが逆らえば、カイルたちを殺すと脅したのはあなたでしょう!」
そう、それが理由。
この村に来る間、彼女たちが勝手に逃げないようするために男たちの命を脅すための道具として扱った。勿論言葉だけではなく、カイルたちが今どこで何をやっているのかの情報をいつでも得られることを示してある。
魔法によってカイル、ロック、バックスのリアルタイムの映像が空間に浮かび、その話し声まで聞かされた時、リーシャとユフィは逃げることを諦めた。
カイルたちが自分たちのことで苦悩している映像を見せられながら凌辱される、という耐え難い苦痛を受け続ける道を選んだ。
「だから助けに行かないと?すぐ近くには今この瞬間も苦しんでる人がいるというのに、遠くの男を優先するために見殺しにするのか!?ひどい女たちだ。偉そうなことを言いながらも男を選んで見捨てるか!」
バカにしたように言う男のセリフに対し、ユフィは俯きリーシャはきつく唇をかんだ。
魔王に言われなくても、自分たちがひどい人間だということはわかっている。でも自分たちが向かったところで止められるはずもないし、なによりこの男は間違いなくカイルやロックを殺すだろう。
だから今もこうして馬車の中でじっとしている。絶え間なく聞こえる悲鳴や破壊の音を聞きながら怒りと罪悪感に震えている。
(ごめんなさい!……あたしたちには助けることができない……)
「……良いぞ良いぞ、それでこそ人間だ。……フッ……クックククク……アハハハハハハハハハハハ!!!!」
やがて悲鳴が収まり風太が戻ってくるまで、魔王は嘲笑い、マールは性に溺れ、リーシャは怒りと屈辱に震え、ユフィは罪悪感に涙を流していた。
「ストレス解消にはなったけど良い女はいなかった。マジでテンション下がる……」
「元よりこんな小さな村にいるわけないだろう。」
「あ、あん!……っくぅ、あ、いや、ああぁ!」
「そんなのわからないだろ!なんていうか……こう田舎で育ったがゆえにまったくスレてない素朴な可愛らしい女の子がいるかもしれないし。」
「いるか馬鹿。」
「あ、ああぁうっ!ん、はぁう……っ!」
「次の村では見つけてみせる!」
「次は大きい街に向かうつもりだが。」
「やあんっ!も、もうやめっっっは、あ、あ、あん!」
「やだ!絶対に最高の田舎の美少女を見つけてみせる!もう大祐が女を抱いてるのを見ているだけなのは嫌だ!マジであり得ない!」
強く宣言する風太の前では大祐が先ほどまで泣いていたユフィを強引に喘がせていた。
女こそいなかったものの何日かぶりに大暴れした風太は気分よく馬車へと戻ってきた。
風太が戻ってきた気配を感じたのであろう大祐が馬車から降りてきたのは良いが、問題なのはエロい下着のようなものを身につけたユフィを抱えて犯しながら出てきたことだ。
目には涙の跡があり大祐がいじめて泣かせたのであろうが、今は顔や体全身を紅潮させて甲高い声を上げている。
腰を抱えられ宙に浮いてる不安定な状態のためか大祐の腰に足を、首に手をまわしてきつく抱き合った状態になっている。口では拒絶の言葉を吐きつつも明らかに快楽におぼれているのがわかり、誰が見てもレイプだとは思わないだろう。
少なくとも風太にはSな彼氏とMな彼女くらいにしか感じられなかった。
「羨ましくなんかないからな!俺も絶対美少女を摑まえてみせるから!」
「そうか。頑張ると良い。」
風太の言葉を適当に聞き流した大祐はチラッと風太を見た後、ユフィに向かって唇を突き出した。性魔法を使われているユフィは既に先ほどまで感じていた怒りや悲しみなど忘れ、無我夢中で男の唇に吸い付く。
そしてそのまま貪るように舌を絡ませ合う二人を見て風太は
(呪われろ~呪われろ~!………はぁ……俺も性魔法練習しておけばよかった)
そう後悔しながら御者の席へと黙って向かった。
「さてそろそろ移動するか。」
しばらくして満足した大祐は気絶したユフィを馬車へ運び、マールに介抱を任せ風太の隣に来た。
「へいへい。とりあえず俺の好きなとこを回らせてもらうぞ。」
「アッスラールへ行く予定だったが……まあ良い。私はあいつらで楽しんでる。当面はお前の好きにするといい。」
「うぃ~す。アッスラールはこの近郊の大きな街だったか。その付近の集落をすべて回ったら街へ行こう。あ、念のためこの付近のぶっ壊したところには簡易なやつだけど結界を張っておいたからしばらくは気づかれないで行動できると思う。逃げられても困るからな。」
そうして魔王の一行は次の集落へと移動を開始した。
わけのわからぬままに滅ぼされた集落の事柄が領主に伝えられるのはこの2日後のこと。
魔王の一行が立ち去ってすぐにこの村を訪れた行商が村に入れないどころか、村が見当たらないという異変に気づき、アッスラールの騎士団に報告。
騎士団は調査隊を派遣すると高度な結界によって集落に入れなくなっていることを確認。直ちに騎士団所属の魔法使いを伴い再び村に行き結界を解く。結界を解き内部に侵入した騎士たちはその惨劇の名残に立ち尽くすこととなる。
地面は抉られ、建物はすべて崩壊し、木々は軒並み薙ぎ倒されている。村人たちは老若男女関係なく切り裂かれあちこちに血が飛び散っていた。
これらを目にした騎士たちはしばらく呆然となるも、正気に返ると真っ先にアッスラールへの伝令を出し残りのもので生存者の確認を行った。
無論一人の生き残りも見つけられなかったが………
結界を解除する作業を行っている頃、アッスラール付近の集落で同じように村が見つからないという現象が起きていることが判明し領主の元へと報告が行く。すべての村へ騎士を派遣することを決めようとしたときに伝令が届く。
「南西の集落は壊滅し、おそらく一人の生存者もいません。」
領主は全ての集落へ調査隊を派遣すると同時に厳戒態勢を敷く。
次の日にはほとんどの集落の壊滅を知ることとなる。
残る集落は2つ。
1つはアッスラールの南にある湖付近の集落で、ここは無事という報告が届いている。ただしこれからのことを考え村人全員を避難させたいが生活などさまざまな問題があるためそう簡単にできない。そこで騎士団の第二中隊を派遣し警戒させることにした。
もう一つは未だ結界が解けないため内部の状態がわからないという報告が来ている集落だ。場所はアッスラールの東南、無事な集落の東にある稲作地帯の村だ。
これまでの報告からおそらく最初の集落からアッスラールを中心として時計回りに動いていることが予想される。
そして、後者の集落にはどこよりも強力な結界が張ってあることから犯人は現在この集落にいると考えられ、アッスラール騎士団の中でも最高の攻撃力を誇る第一中隊『征竜隊』を派遣することにする。
到着した征竜隊に所属するこの地方最高の魔術師が結界の解除を行っているが結果は芳しくない。
竜殺しバックスの弟子にして征竜隊隊長 フォルフォルド=クアラムは内部の生存者の救出よりも犯人の捕獲または殺害を優先することに意識を切り替え、内部から犯人が現れるのを待つことにした。