6話 連れ去られる女たち
「…ハァ………ハァハァ………」
魔王たちが冒険者に襲い掛かって3時間ほどが経過した。
宴は終わり、倒れこんだリーシャとユフィの荒い呼吸だけが響いている。
2人は強引に純潔を奪われ、そのあとも仲間の命を盾にさんざん凌辱され続けたが回復魔法がかけられたために大きな傷などはない。
本人たちが気付かぬうちに心の傷でさえも強引に回復させられ、女としての尊厳を奪われた羞恥や屈辱、ショックによって放心状態になることなどもない。
むしろ魔王への怒りと反発心、そして生き残っている仲間を助けようという思いが湧き上がっていた。
とはいえ疲れ果てているのは間違いなく、今はまず呼吸を整えようとしているようだが。
一方で魔王は脱いだ衣服を纏い直し、「なかなか良かったな。お前はどうだった?」と爽やかな笑顔で風太に問いかけた。どうやら一時的に衝動を発散させたことで落ち着いたらしい。
「微妙だよ!」
機嫌のいい大祐とは対照的に風太は機嫌が悪いようだ。
予想以上にごつく傷だらけの身体だったキャスケルを1回抱いて直ぐに殺した風太は魔王が楽しんでる間、羨ましそうな顔で見ているだけだった。魔王はそれに気づきながらも敢えて無視し、女を独り占めしていた。
「んで、そいつらはもう飽きたんだろ?なら俺にやらせろよ。」
そう言い倒れているリーシャに近づこうとした風太に対し魔王が制止させる。
「ダメだ。こいつらは連れて行く。」
「はぁ?」
「予想以上に良い身体をしてるからな。まだ未発達なところもあるが数年もすれば火星の貴族の女どもにも劣らないものになるだろう。」
「えーーーー!じゃあそっちの気絶してるお嬢さんを。」
「ダメだ。こっちは既に十分にいい女だからな。だから無理せず休ませてるんだろうが。」
「いきなり3人かよ!ずるくね?」
「ズルくなどない。魔王の権利だ。」
言い合う二人の言葉を聞いているバックスたち冒険者組。バックスと連れ去られる当人である女たちは何となくわかっていたことだから驚きは少なかったが、焦ったのはカイルと目覚めると同時に動きと声を封じられたロックだ。
(そんなことはさせないリーシャは絶対に――――)
(ふざけるな!ユフィは――――ちくしょう!うごけねぇ!クソ!クソ!)
カイルはリーシャと、ロックはユフィと。
ともに想い合っている大切な人を汚すばかりか連れ去るという。
なんとかして止めようと必死にもがくが魔王の魔法によりまったく動くことも声を出すこともできない。怒り、悲しみ、屈辱、焦燥、さまざまな感情が駆け巡るがどうにもならなかった。
カイルたちと同じくまったく動けない状態のバックスはリーシャたちが犯されている間も大祐を観察していた。そのためにこの展開が予測できていた。「おそらく自分たちは生き残るだろう……リーシャとユフィの選択次第ではだが」と予感していた。
(すまないお前たち……だが何を差し置いても今はこの場を生き残ることが優先だ。)
全ての感情を押し殺し、ただ必要なことだけを見据えていた。
「よし、ひとまず移動するぞ。まずは食事だな。細かいことはそれから決めるとするか」
魔王は一人呟くと片手を上げた。その手が光ると同時に3人の女たちも白い光に包まれる。また、マールが乗っていた馬車とそれを引く馬も光に包まれる。
数秒ののち、光が消えるとすべての傷が消え、人も馬も体力まで回復していた。
「風太!お前は御者をやれ。お前たちはついてこい。」
一方的に言いはなち、そのまま馬車へと歩き出した。女たちが逃げ出すという可能性をまったく考慮していないような態度だ。
実際その判断は間違いではなく、馬車に乗り込む魔王を見た3人の女たち複雑な感情を押し殺し黙って後に続く。風太も文句をぶつぶつ言いながらも後に続いて歩き出すと、その背後から声がした。
「待て!リーシャ!ユフィ!ダメだ!」
「ふざけるなお前らーーーーー!みんなを返せ。」
拘束を解かれたカイルとロックがバックスに抑えられながらも、声を上げていた。
しかし女たちは苦しそうな表情をしながらも振り返らず魔王の後に続く。
魔王は文字通りの暴君であるため自分の感情や欲求を全く隠そうとしていない。取り繕うことさえしない。わずか数時間の関係とはいえ自分たちを散々抱きまくった男の性格をリーシャもユフィもマールも正確に把握していた。
魔王は男たちに興味をなくし食事に気が向いている。女たちが乗り込めばそのままここを立ち去りカイルたちの命は助かる。それを女たちは理解していた。
同時に自分たちが足を止めればカイルたちの命が再び危機に陥ることも。そして何よりも抵抗すれば自分自身がどうなるのかも彼女たちは充分に理解していた。
ホントは今すぐに逃げたい、カイルたちのもとに駆け寄りたい!そう思っていても仲間を思う故にそれは決して出来なかった。
冒険者ではないマールはカイル達に対しては特に強い感情を抱いてはいない。そんな彼女はただ紅の目をした男が恐ろしく従う以外の選択肢がなかった。
「リーシャ!リーシャ!ッどうして!? 離してくださいバックスさん!俺は二人を!」
「離せ!離せよお前!あいつらを見捨てる気かよ!」
「なんで二人が大人しくついていくかわからないのか!お前たちを助けるためだろうが!」
暴れる二人に対し、バックスも声を荒げる。
カイルとロック、二人の言いたいことは嫌というほど理解していた。それでもここは大人しくしているしかなかったのだ。いつか女たちを助けるためにも。
無理やり自分を落ち着かせ改めてカイルたちに言う。
「今ここで襲い掛かっても犬死するだけだ!そして女たちはあの男が飽きるまで弄ばれることになる。あいつらは間違いなく異界から呼ばれた勇者だ!俺たちではどうにもならん。各国に応援を要請し、俺たちも力をつけることが最善なんだ!」
「わかってる!だけど今、あいつらは――――」
必死に言い合う彼らの声を背に、涙を流しながらリーシャたちは馬車へと向かう。一刻も早くこの場を離れるために足早で。恋しい男を救うために汚されるのをわかっていながら馬車へと乗り込んだ。
それを確認した風太は「良いなぁ…俺も可愛い女が欲しいなぁ…」と低いテンションを保ったまま馬に鞭を打つ。
そして馬車は動きだし、少しずつこの場を離れていく。
「待て!ちくしょう!待てよ!返せ!ッッッッッッッックソーーーーー!」
誰とも判別のつかない叫び声だけが、この虐殺の跡に響き渡った。
あの虐殺から数時間が経った今も風太は御者をやっていた。大祐が女たちから知識を取り込み風太に受け渡したものから参照すると、次の町というか村まではあと2日ほどかかるらしい。
というのも先ほどの盗賊連中が暴れまわったおかげで付近の小さな集落は軒並み全滅しているようだ。
ご飯がまだまだ先と分かった魔王は自分の“宝具”を用いて食べ物を用意し食べ終わった後は再び女で遊ぶことにしたらしい。
(はぁ……良いなぁ……たまには最高級の女を抱きたいなぁ。)
そんなことを考える風太の背後からは今もユフィの大きな嬌声が馬車の中で響き渡っている。どうやら性魔法を使い無理矢理に感じさせているようだった。自分が気持ちよくなるよりも女を喘がせることを優先していることから大祐はあの3人をかなり気に入ったようだ。
かつて魔王になった世界において、大体が一度抱いたら飽きて処分していた。割と上質な女は飽きるまで自分本位で抱き、気に入った女は今のように性魔法で優しく抱いて強引に心も自分に向けさせようとしていた。
そしてお気に入りの中でも女としての機能以外にも優秀なものを持つ場合は、性魔法による簡易な眷属としたり自分たちのように魔王の力を直接与えられ大きな力を持つ眷属となった者もいた。
そんなわけでリーシャたち3人はお気に入りなのはわかる。
「はぁ………」
風太の口からはなんとなしに溜め息が出る。お気に入りである以上、自分に回ってくることはないことが確定しているからである。
(リーシャって女はピンクの髪に幼いながら可愛い顔立ち、スタイルは普通だったな。ユフィちゃんは金髪に綺麗で大人っぽい顔立ちでこれまたスタイルは普通。けど大祐の様子から将来性があるんだろうな。貴族っぽいお嬢様はオレンジがかったロングに、けしからん胸してたなぁ…俺的にはリーシャタンが一番好みなんだが…………無理だろうなぁ………)
こんなことを考える風太は、ユフィからリーシャに変わった嬌声を聞きながら馬車を進ませる。
時間は昼、暖かな日が差す草原を狂気を孕んだ馬車は進んでいく。
いくらかの時間が経過し眼前には小さな集落が広がっていた。名前もない小さな集落である。
人口は百人ほどの小さな集落で近くにある畑では性別、年齢に関係なくおそらくはほぼ全ての村民が農作業に取り掛かっているのだろう。
雲一つない晴れた空からは暑い日差しが降り注ぎ、村人たちは暑そうに大量の汗をかきながら一生懸命に働いていた。
魔王が女たちから取り上げた知識から、この付近の領主はそれほど重い税を課してはいないため比較的にまともな生活を送れているらしいこともわかっている。
「はぁ~~~疲れた……転移なら一瞬、二人で普通に走れば1時間ほどで着く距離なのに……馬車で4日もかかるとは……」
独り言にしては大きい声で風太が呟く。
「なんか文句あるのか?」と尋ねる大祐に対して「別に~ないっすよ~。」と明らかに何かを含む口調で風太は答える。
風太が不機嫌なのは当然ながら女がらみの問題だ。
そもそも2日で来れる予定だったのに魔王が途中、川で泳ぎたい(犯したい)だの、木陰で休みたい(犯したい)だの、空中に浮かんで風景を見たい(見ながら犯したい)だの所々で言ったせいで余計な時間がかかってしまったのだ。しかも一か所ごとに3人全員を抱くためこれまた時間がかかった。
風太にも女がいれば違ったのだろうが、残念ながら風太専用の女はまだいない。
おまけに一番最初に停まった場所では魔王がお楽しみの最中やることのない風太は仮眠を取ろうとしていたのだが、冒険者が近くを通り魔王にちょっかいを出そうとしたため以降風太が見張りをすることになった(このときの冒険者は魔王が殺した)。
近づいてくる連中の中に女がいればまた違ったのだろうが残念ながら全部人間の男だったので結局数日前にキャスケルを抱いて以来一度も女にありつけなかったのだ。
「はぁ~~」
もう何度目かわからないため息をつく風太。
そんな様子を見かねたのか「そんな顔をするな。そのうち良いことあるさ。」といつになく上機嫌な魔王が言う。女を抱いてるせいかやはり残虐性が少し薄く人間としての人格が表に出ているようだった。
もっともそれも血を浴びればすぐに変化することなのだが。
「…………よしわかった。この村はお前の好きにしていいぞ!良い女がいたらお前のものにしても良い。」
「マジで!?」
主の言葉を聞き勢いよく反応する風太。
「ああ、構わんさ。私は馬車の方で調教してるからお前の好きにして来い!」
「よっしゃーーーーーー!じゃあ行ってくる!」
急激にテンションを上げた風太は村に向かって猛スピードで駆け出した。
「……単純な奴だ……こんな村に可愛い女なんているわけないのに。」
ホントに器量の良い者は盗賊か領主に連れられていくか聖地に導かれるのがほとんどなんだけどな、と呟きながら大祐はリーシャ達のいる馬車へと戻って行った。
この集落から馬車で数時間ほどの場所に領主がいる大きな街『アッスラール』がある。
アッスラール付近の集落が軒並み壊滅しているとの報が領主の元へと届くのはこの2日後であった。