4話 ファールーンへ
細かい設定は後で変わるかもしれませんがとりあえず投稿しました。
城を抜け出した二人は城下にいた。
城門を抜けた先には貴族の屋敷が立ち並びそこを超えると再び大きな壁がある。そしてその向こうに平民たちが暮らしていた。王城を中心としたドーナツ状に貴族街、平民街が広がっている。
夜は深く、王城や貴族街の屋敷からは明かりが漏れているが平民街は真っ暗で通りには人の気配も感じない。
一方で城内や貴族街には多くの衛兵がいてその出入り口には固く閉ざされた城壁があるが空を飛び空間転移を使いこなす魔王の前には意味のないものである。
「さて、まずは最低限の知識を得るか。」
大祐は適当な家に忍び込むと、寝ている男の頭に手をかざし記憶の中にある情報を覗き見た。
数秒後には隣に寝る女の頭に手をかざす。次いでその幼い子供へと。
同じような行動を他の建物でも繰り返し、風太が待つ人気のない場所へと戻る。
得られた情報を風太の頭に直接転写する。
そうしてこの世界の平民が持っているおおよその常識は理解したのであった。
すでに貴族たちにも同様の作業を行っているために平民が知らないことも理解している。
オルティガ王国の西にはさまざまな自治区があり西の端には巨大な帝国がある。
南には多数の小国が入り乱れさらに南にエルフの大森林地帯、それを超えると大きな王国が1つ。
北には複数の国があり、さらに北へ行くと寒さに強い獣人や、洞窟や地下を拠点とするドワーフの国。
東にはこれまた複数の国があり、その先の大山脈には竜が住み、その東の大砂漠を超えてくる魔族の監視を行っている。
国は単一種族の国もあれば混合しているところもある。
行き先を決めかねている魔王が「X、お前に希望はあるか?」と問う。
「悩むな~俺はエルフ萌なんだけどこの世界のエルフは…」
それに対して困惑した顔で答えるX、こと風太。どうやら気分で呼び方を変えるらしい。
「ああ、なるほど。」と、風太の困惑の理由を理解する。
「まさかエルフが不細工の代名詞だとは!」
大きな声で風太は叫ぶ
そう二人がのぞいた常識ではこの世界でのエルフとは不細工な種族であった。実際に他人の記憶の中にいたエルフはすべて不細工だった。
「ドワーフや獣人、ドラゴンはイメージ通りなのになんでエルフは不細工なわけ?おかしくね!?エルフは美形と相場は決まっているのに!?」
風太の心からの叫びを無視し魔王は再度問う。
それに対し今度は真剣に答える風太。
「―――――特に行きたいとこないし適当に街を襲えばいいと思うのだが。この国はこれから戦争頑張ってもらうから、俺たちは何もしない方がいいんだよな?んで確か西のクレスト帝国と戦うようなこと言ってたからそっちも除外。」
「南は多数の小国、エルフ、その南は原始人のような部族の王国だな。」
「不細工エルフや原始人も除外っと。北は寒そうだから個人的にパス。」
「残るは東だな。」
大祐は腕を組み暫し考える。
そして顔を上げて告げる。
「決めたぞ。東の2つ先の国『ファールーン』で遊ぶ。飽きたらその北東にある『勇者の聖地ミリティア』ヘ行き各地から集められた聖女や巫女を食い散らかすとしよう。そして竜族の住まう大山脈『断魔の霊峰ドラグニール』を越え砂漠の彼方の魔族とやらを見物する。」
「聖地には興味あるけど砂漠越えは嫌だなぁ」
エロ太は弱めに反対を表明するけど魔王はそれを無視しファールーンまで転移で行くことを告げる。
『遠見』の魔法を使い数百キロ先の国を確認する。
そして未だブツクサ言う部下を連れて転移した。
「ここがファールーン?」
転移後すぐに風太が声を上げる。そこは街道なのだろう、家や畑などは見当たらない。
「ファールーンの街道だ。国境から少し離れた場所だ。久しぶりの異世界で時間はいくらでもあるんだ。歩いてみるのも悪くはあるまい。」
そう告げ歩き出し、慌てて風太もついていく。
雲一つない空には数多の星が輝き、夜中ではあっても視界は悪くない。
周りの自然を鑑賞しながらしばらく二人は無言で歩く。
歩いてる途中でいくらかのモンスターがいた。
この世界のモンスターと魔族は別と区分されているようだ。
街道を歩く二人を視認したモンスターは食料として襲おうとしてくるものの大祐か風太が見つめるだけで訳の分からぬ恐怖を感じ逃げ出していく。
自然の中で生きるだけあり危機を察知する能力は優れているのだろう。
結局、本格的に襲われることもなく2人は黙々と歩き続けていた。
歩き始めて2時間が経過したとき変化があった。
空は徐々に白み始めていてもうすぐ日が昇るのだろうと思われたとき、2人の耳に金属がぶつかり合う音が聞こえた。
音の発生源はおそらく数キロ以上は離れた場所だ。
人には聞こえないだろう距離の音も今の二人にはとらえられる。
風太が耳に手を当て集中して音を聞き取る。
「これは…………戦ってるな。微妙に人の声がするし。」
「そうだな。歩くのにも飽きてきたころだ。ちょうど良い、行くぞ。」
それだけを話し、すぐさま近くまで転移した。
転移先では予想通りに戦闘が行われていた。
荷物を大量に満載した馬車が3台と人が乗るのであろう馬車が2台。馬車を守って戦うものが30名ほど。馬車を襲おうとしているものが50名ほどいる。
その様子を少し離れた場所、魔王の魔法で姿を消して観賞していた。
「小規模な商隊とそれを護衛する冒険者、金を目当てに襲い掛かる傭兵崩れの盗賊が50名ほどってところか。どうする?大祐。」
「冒険者の中に女が4人か。後衛の女2人だけ合格でいいな、前衛として戦ってる2人はごつくていらない。…………………どうやら馬車の中にも女が1人いるな。そっちは―――― 合格だ。」
何が合格かは尋ねなかった。代わりに
「前衛のあの赤い髪の女は俺が貰うぞ。」
「好きにしろ。」
「あとはどうする?」
「情報は合格した女から引き抜けばいいだろう。あとはいらん。」
言うと同時に魔法を発動させた。
バックス=オークスはAランクの冒険者である。
SSランクは『伝説の勇者』たち。
Sランクは『英雄』と呼ばれるもの。
SSランクは勇者の中でもさらに優秀な者のみが届く領域であり、Sランクは普通の勇者のランクである。
+Aは勇者の血を引く一部の天才がなり得るランク、故にその次のランクであるAはこの世界の一般の人間が届きうる最高のランクである。
勇者が冒険者になることなどほとんどなく(それでも各国が武力として頻繁に呼び出すためにいることはいる)、勇者の血を引く王族や公爵が冒険者になることもほとんどない。
よってAランクとはある意味冒険者の最高ランクと考えても良い。
バックスもまた最高の冒険者の一人と世間では受け止められていた。
彼の名前が知れ渡ったのは約20年ほど前、魔族の監視者たるドラゴン族の1匹が掟を破り禁断の儀式を執行し失敗、邪竜に堕ち各国に多大なる被害を与えた時のことである。
同族のドラゴンたちは魔族の監視という使命の元、大山脈を下りることができず討伐は国々に委ねられた。
初めは勇者が討伐に向かうが邪竜は複数の国々を移動し暴れまわっていた。
勇者とは国の象徴でもありその勇者が他国へ侵入することは国と国との関係において多大な影響を及ぼす。
事実、ある国は邪竜の討伐を口実に勇者を送りその国の一部を占領するという事件があり、ついには全面戦争となったのである。
人と人が争う最中にも邪竜は襲来する。
勇者、人、邪竜が争った結果、大地は荒れ、国は疲弊しやがては両国ともに滅ぶこととなった。
こうした時に竜を討つため立ち上がったのが冒険者たちであり、20歳の時のバックスである。
冒険者ギルドは国を越え結びついておりまた国からは独立した組織である(たまに例外があるが)。よって国という壁を越えて活動することができる。
あるパーティがそれまで傷一つ負わせられなかった邪竜を追い詰めることに成功するがあと一歩のところで1人を残し殺されてしまう。
この時残ったのがバックスである。
彼は仲間に託された魔法の武器を身に纏い自分を鍛え、ついには邪竜を討ち取ることに成功したのである。
そしてその功績によりAランク冒険者となり、勇者とその血族以外で初めて聖地ミリティアでの『祝福』を受けたのである。
その後も彼は世のため人のためと戦い次々とその名声を高めていく。
勇者の血を持たない彼の英雄譚は、同じく勇者の血を持たない大多数の平民の憧れとなり希望となる。
こうして彼は生ける伝説となったのであった。
20年が過ぎ40歳を超えた現在も『祝福』を与えられたことにより若い時分とほぼ同等の実力を誇る彼の元には多くの人が集いその冒険者としての生き方、戦い方の教えを乞う。
今も10年以上を共にした仲間たちと共に、数多くの冒険者に冒険者としての在り方を教えていた。
今回彼が受けた依頼は商隊の護衛である。
最近勢力を伸ばしてきた商会の一行が運ぶ3台の荷馬車と商人たちの護衛が目的である。
彼らが通る街道はモンスターも少なく弱いので本来は+Cランクの護衛がいれば十分であったが、近ごろ北方から傭兵崩れの盗賊団が移住し街道付近を縄張りとしていてまたその数も全部で100名ほどにもなり多くの被害が出ていた。
Bランクの冒険者パーティでさえ殺されるという事件にまでなり、困り果てたところでバックスが名乗りを上げる。
そして商隊を護衛し街を出発した。
護衛をしているのはバックスのパーティとその傘下のパーティ(中堅3つ、初心者2つ)と大人数となった。
盗賊に手を焼く商人ギルドが盗賊を倒してくれたら賞金を出すということで、もし護衛中に現れなかったら初心者は置いて盗賊の本拠を討つことで報酬は賄う予定である。
気のいい仲間や依頼主たち。天気にも恵まれ旅は順調だった。
バックスにとって嬉しいことに、今回初参加の初心者パーティの1つ『平和の剣』の4人は才能に満ち溢れた者ばかりであった。
農村出身の剣士 カイル
カイルの幼馴染で魔法使いの リーシャ
修行中のクレリック ユフィ
ユフィに一目ぼれしてついてきたレンジャー ロック
チームとしてもバランスが取れ、仲が良い彼らは、未だ10代半ばでまだまだ未熟ではあるが将来は4人とも+Bに届くであろう才能の持ち主であった。
特にカイルに至ってはバックスをもしのぐ才能を持っていたのである。
自分も年老い徐々にではあるが力を失っていく中で後継者を探していたバックスにとって、カイルは相応しい少年だったのである。
バックスは彼らに、カイルに自分の持つすべてを託そうと心に決める。
しかしその願いがかなうことはなかった。