2話 人生2回目?の異世界訪問
(どんな世界だここは。)
ゲートに飛び込むと同時に強い光が差し込んだ。そうして光が収まる気配を感じてエロ太は周囲を見渡した。
自分のすぐそば正面のちょっと右に大祐が、自分に並んで右に山彦が左に竜也がいる。足元には巨大な魔法陣があり、大祐はさっそくその魔法陣を観察している。半径10メートルほどの魔法陣の縁に沿って10名の男女が等間隔に並んでいる。おそらく彼らが召喚術を行使したのだろう。
部屋全体を見渡すとかなり広いことに気付いた。体育館ほどの大きさはあるだろう。壁際にはたくさんの兵士らしき連中が武器を持ち整列している。さらに奥には僕は選ばれた血統ですと言わんばかりの豪奢な衣類をまとった貴族っぽい連中。みんな俺たちを観察している。どうやら驚いているような表情のものと観察しているようなやつの2通りの人間たちだな。
正面の奥が段差となっておりその一番高いところには玉座に腰かけた男性がいた。その隣には輝く金色の髪にすらっとした体のラインが浮き出るドレスを着た美しい王妃がいるのがわかるがそちらには目がいかない。ただ玉座に腰かける男に目を奪われる。
頭を下げたくなるような、畏怖するような不思議な感情が胸の奥から湧き上がる。
そこでふと、違和感を覚える。
(女好きの俺が女よりも男に意識を奪われている。まさか俺は男好きになってしまったのか!? いやいやそんなわけねぇ。そもそも異世界にこうしてきたのは美しい女奴隷を求めてだ!断じて男が目当てじゃない!)
もう一度玉座に目を向けるとやはりそこには金髪の40歳代くらいであろうナイスミドルがいらっしゃった。
美しいオールバックの髪に、しっかりと鍛え上げられた衰えを感じさせないボディ。彫りの深いワイルドな顔立ちと全体から発せられるオーラみたいのが見えるようでカリスマを感じさせる。
(あぁ…なんて素晴らしい方なんだ。もうホントあの方にならば俺の後ろの初めてを捧げても、俺があの方の穴を掘るのでもどちらでも…)
そこまで考えてエロ太は我に返った。
(うそ!?ウソ嘘うそウソ嘘うそウソ嘘うっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっそーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!?!?!?!?!?!?
何考えてんの俺?あり得ない。ヤバい泣きそう…)
自分が思ったことのおぞましさに涙を浮かべたエロ太は何気なく左右を見ると山彦と竜也も玉座の男に心を奪われてるのがわかった。
そこで再び違和感に襲われる。
(どういうことだ?俺だけじゃなくこいつらまで。こいつらも俺と同じく好みにうるさいようで綺麗な女なら誰でも良いってタイプだぞ。あの王妃っぽいのは明らかにストライクだろうに男の方を見てる…………………もしかして !?)
頭の中にある仮説が浮かんだエロ太は何気なく大祐を見るとその変化に驚いた。
開拓者はもともと日本人であった初代皇帝が人類初めて火星に到着し建国した国である。なので国民の大半は日本人の血が少なからず流れているし、今ここにいる4人は明らかに日系の外見だった。
黒髪黒目、168センチと微妙に170台に届かない身長。頭が大きめで足は少し短い。顔も決してイケメンではなく整った顔立ちの笹川家の中で唯一の例外、一瞬血がつながってないのではと考えそうになるがよく見ると結構似てる顔立ち。それをよく愚痴ってたリーダー笹川 大祐。
そのリーダーの瞳が今は“真紅”に染まっていた。
それは魔王の証。
魂に刻まれた魔王の力が肉体を侵食している証。
1500年もの間、世界を気ままに蹂躙した“主君”の瞳。
大祐は真紅の眼を魔法陣へと向けている。魔法陣に描かれた式の情報を解析しているようだ。
仮説なんて頭から吹き飛び、『なんで今魔王の瞳が!?』そう思ったとき
「異世界より来られた勇者のみなさま。どうぞこちらへ」と召喚士の1人が進み出て言った。
それは玉座に座る男によく似た青年、筆頭魔術師でもある第2王子シュタイナーであった。その声を聴くとすぐに疑問も掻き消える。
(この方もまた素晴らしい方だ。美しい声が心に響いてくる。)
指示に従い歩こうとする……………………………………
(……………………や、待て待ておかしいぞ。俺は女が好きなんだ!………………それにしても立派な体躯だ!魔力もあるし素晴らしいな。ぜひ俺の恋人にーーーって……………………うーん…もう何なのこの状態!?……………ひとまずあとだ。ごちゃごちゃ考えるのは後にしてリーダーの動きに合わせよう。たぶん大祐は正常っぽいし。極力床を見るようにしよう。)
シュタイナーの後ろに4人が続く。
そして玉座に続く階段の前までくるとシュタイナーは立ち止まり4人に対して跪くよう指示した。
3人が素直に跪くのにつづきエロ太も跪いた。
(あっれー何でリーダーも従ってるの?おかしくない?)
山彦と竜也を横目で見るとやはり玉座の男とシュタイナーに心を奪われた様子がわかる。次いで大祐を見ると瞳の色は元に戻っているがやはり正常のようだ。
(とりあえずここは大人しくして乗り切ろう)
改めて決意すると自分の足に周りから見えないよう爪を突き立てた。
ほどなくして上の方から低い声が響く。
「よくぞ来た!異世界の勇者たちよ。余はオルティガ王国国王ガイアス3世である。現在わが国には未曾有の危機が迫っておる。西のクレスト帝国が異世界から人間を呼び出しその力を持って戦争を行っている。それに対抗するためにわが国でも同じ異世界人を召喚した。それがそなたらである。どうか我が国の平和と繁栄のために戦ってほしい。」
そう一人で一方的に言い切った。
「「は!若輩ではありますがオルティガ王国のために全力で戦う覚悟にございます」」
突然の一方的な話に対して何か疑問を感じるどころか、むしろ喜んだ様子の山彦と竜也は高揚した声で宣言した。
もし自分の足に痛みを与え続けていなければエロ太自身もまた何の疑問も覚えることなく同調していたであろうことがわかる。
(やっぱり召還されると同時にどこかいじられてるか。)
心の中で考えるエロ太の様子に気づくこともなく王は
「うむ。そなたらの忠誠に期待する。」とだけ言いあとは興味がないとばかりに王妃とともに退出した。
続いて貴族が退出する気配がする。
その気配がなくなると上品なメイド服のようなものを着た30代くらいの侍女が近づき、
「はじめまして。わたしは皆様のお世話を仰せつかっております侍女の代表、メロディア・フラメルと申します。本日はゆっくりお休みいただくよう指示を受けております。どうぞこちらへ、お部屋までご案内いたします。」
そう言いついてくるように促された。
部屋へ案内される途中ヤマとタツのコンビはいろいろ質問していたが、詳しいことは明日改めて説明されるということだった。
広く大きな廊下にはフカフカな絨毯が引かれていて、壁際には等間隔で絵画や壺などが置かれている。外を見ると日が沈んでいることがわかるが廊下の天井近くには光る石が埋め込まれていて室内は明るい。
5分ほど歩くと目的の部屋に到着した。ドアを開けるとそこには広い部屋があり長椅子やテーブル、暖炉などがあった。部屋の中に入ると左右に6つの部屋がありそこが寝室らしい。
各自に若く美しいメイドが世話係としてつくということで部屋に入ってきたが大祐が「急な召喚で、またガイアス様との対面で精神的に疲れた。明日から全力でお仕えするためにも今日は4人で早めに休ませていただきたい。」という感じの言葉を失礼にならないような表現で告げた。
メイドたちは通路の向かい側の部屋にいるので用があるときは声をかけてくださいとだけ言い退出した。
メイドたちが部屋を出るとーブルを囲むようにして配置された長椅子に腰かける。季節は春か秋なのか程よい気温で暖炉には火がついていない。テーブルに置かれていた飲み物と果物のようなものに手を付け、軽く腹ごしらえをして改めて今日の出会いについて話し始めた。
15分ほどガイアスへの称賛を風太以外の3人が述べた後、
「いやーしかし素晴らしい!ガイアス様のために戦えるなんて光栄だ。」
「確かにな。だが油断はならないぞ。俺たちと同じように異世界から召喚されたやつが他国にいるらしい。侍女の話じゃ異世界人はこの世界にくる際に強い能力を与えられるらしいから俺たちより強い力を持つものだっているかもしれない。」
「明日、時間があればどのくらいの力が付与されたか見るために兵士の訓練所みたいとこを借りて確かめてみよう。リーダーの俺から頼んでみるよ!」
「それは名案だな。よろしくな。」
山彦と竜也と大祐の3人は機嫌よさそうに話している。
しかし先ほどから会話に加わらないエロ太に疑問を持ったのか山彦がエロ太に話しかけた。
「おいおい、さっきから黙ってるけど大丈夫か風太。そんなんじゃガイアス様のお役にたてないぞ!」
返事を返そうとしたエロ太より先に大祐が口を開いた。
「ま、ま、ま、今日は異世界に来たばっかで疲れてるんだろ。メイドたちにも言ったけど明日から全力で働くために今日はもう寝ようぜ。俺はこの部屋にするけどお前らはどこにする?」
その言葉を受けみんなで自分の寝室を決めた後、大祐は3人に部屋で寝るように改めて促す。
しかし山彦も竜也も、もう少しガイアス様や今後について話し合おうと言い寝るのを拒む。
やんわりと休むよう促すがそれでも拒み続ける二人に対して、沸点が低くなってたのか大祐は
「あーーーーーーーーーーーーーーーもうメンドクサイ!ただでさえイラついてるのに!」
そう叫び二人の鳩尾へ同時に拳をめり込ませた。気絶した二人を同じ部屋のベッドへ放り込んだ後
「エロ太。お前は大人しく寝るの?逝くの?どっち?」
「話がしたい。」
エロ太が告げた途端、無表情で近づいてくる大祐。
あわててエロ太は言った。
「待って。違うから。リーダーがイライラしてるのは知ってるよ。俺も「ガイアス様、ガイアス様」言ってるヤマやタツを見てると気味が悪くて仕方ないもの。それで機嫌悪くなってるんだよね?ただそれ以上に困ってるのが俺もちょっとおかしくなってることなんだって!だって女好きの俺がガイアス様は素晴らし~とか思ってるんだよ?隣にいた綺麗な女よりも男をガン見しそうになってたんだよ?泣きたいのはこっちなんだって。予測では召喚陣に何か仕掛けがあったんだろうけど具体的なことがわからないからその点について説明してもらいたいんだって。だから気絶させるのは勘弁して。」
一息に言い放った言葉を聞いた大祐は苦笑しながら椅子に座ってエロ太に尋ねた。
「いつから気づいた?」
「召喚されてすぐ。だって男に夢中になるとかありえねぇし。」
「なるほど。そんなことで正常な思考を少しでも取り戻せるところがエロ太っぽいな。元に戻りたい?」
「当たり前じゃん!ガイアス様じゃなく王妃様を見つめたい。元の世界じゃ逮捕されてもおかしくないレベルで舐るように見つめたい。」
後半の気持ち悪いセリフは無視して大祐は立ち上がる。
そしてエロ太に近づくと、右腕を振り上げエロ太の腹部に突き刺した。
「な!?」
「動くな!じっとしてろ。血は出てないだろ?お前の魂にかけられている服従の鎖を外してる。」
「んなイキナリかよ!せめて説明を!……ってかちょっ!待って!イタイイタイなんかわかんないけど凄い痛い!」
「我慢しろ。…………ほら終わりだ。」
言うと同時に腕を引き抜いた。その手には確かに血や他の汚れは一切ついていない。
「はぁ、はぁ、はぁはぁ、………せめて、せめて、…………せめて事前に何やるかの説明が欲しかった。」
涙目で大祐に抗議するエロ太。
「そんなことより、どうだ?まだ男に心が奪われてるか?」
「はぁ……もう大丈夫。」
エロ太は呼吸を整えながら自分の状態を確認した。
(うん、もうあのクソ男のことなんて何とも思っていないな。むしろ王妃を襲ってやりたい。あとは綺麗な奴隷を買っていろいろやって、貴族の娘を誘拐していろいろやってーーーーーっと思考がとんだな。それよりも今は現状の確認だ。)
「結局俺たちは何されたんだ?」
エロ太は自分で知らべるのもメンドイしさっさと理解するために率直にリーダーに尋ねてみた。
ホントは現状説明も入れてもっと長くなる予定だったんですけど、分けることにしました。というわけで次回が現状確認になります。ただ基本的には『元魔王様』を優先して更新していくんでこっちの更新は遅くなります。おそらく次の更新は9月の2週以降になると思います。