1話 勇者の召喚
「…ヴェスタ、オーラ、シーサ、ルーフェン、ザクツェン…」
玉座に座る王から離れた位置で10名の魔術師が召喚の儀式を行っていた。
「…ヴェスタ、オーラ、シーサ、ルーフェン、ザクツェン…」
本来なら10分ほどで終わる詠唱。しかし既に20分は経過している。
それはより強大な力を持つ勇者を召喚するために研究した結果、何度も繰り返し詠唱することによってより強力な力を持つものを召喚できると判明したからだ。
「…ヴェスタ、オーラ、シーサ、ルーフェン、ザクツェン…」
かつて人間は獣人、エルフ、ドワーフなどの亜人あるいは人間同士で争っていた。そこに強大な力を持つ魔族が攻めこんできたことで人は争いをやめざるを得なかった。圧倒的な力を持つ魔族の前に人や亜人は協力して戦ったが、それでも敵うことはなく緩やかに敗北していった。
そんなときにある魔術師が召喚の魔法を生み出した。それにより味方の数を増やそうとしたが呼び出されたのは数名の異世界人であった。
しかし彼らが戦局を変えた。異世界人は強大な力を持って召喚されたのだ。その力を持って魔族と戦い、ついには魔族を押し返すことに成功した。魔族は敗戦により分裂し内紛となった。これにより戦争は終わったのである。
そして異世界人は人々に乞われ、それぞれの国を作った。
しかし時は流れ、人はまた争うようになる。
古の伝説。
異世界の勇者。
それらが呼び出され戦争に利用されるのは当然の流れだった。
異世界人の魔力を受け継ぐ各国の王族はその魔力を利用し勇者を呼び出す。だが呼び出されるものすべてが自分たちに協力してくれるわけではない。そう悟るのにさほどの時間はかからず、そのために召喚には改良が加えられた。
今、召喚を行おうとしている国、『オルティガ』では召喚された異世界人の魂に隷属の鎖をつけられるようになっている。それにより勇者は王族の命令に対し疑問を抱くことなく服従するようになる。
(繰り返す詠唱により、魔力を過剰に供給することで過去の誰よりも、他の国の勇者よりも強力な異世界人を呼び出すのだ!そして世界を征服する)
そう考える王の前で魔術師が囲む魔法陣はより強く発光する。
「…ヴェスタ、オーラ、シーサ、ルーフェン、ザクツェン…」
魔術師たちは慎重に詠唱を行う。筆頭魔術師でもある第2王子は思う。
(失敗は許されない。この儀式は1度行えば100年間行使不可能になる。何としても成功させる。そしてこの国も世界も私のものに!)
そして魔法陣は青の輝きから赤い光へと色を変えた。
「…ヴェスタ、オーラ、シーサ、ルーフェン、ザクツェン、フィラス、エンデ!」
途端に目がくらむような光が溢れる。
「クッ!!」
誰かが声を漏らした。
そして光が収まったとき、人々が目を開いた先には『4人の男』がいた。