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8話 間違えた選択




 残った2つの集落のうち1つには魔王たちがいるため強力な結界が張られている。よってフォルフォルド=クアラムによって率いられた騎士団は中に入ることが出来ず、内部の情報を得ることができないでいた。


 その魔王たちが滞在する村ではまさに風太が暴れているところである。



「ぐぅあぁ!」



 ドスンと大きな音を立てて鍬をもった男が倒れこむ。


 彼は家族を逃がすために鍬で風太に向かった男だ。まだ20代ほどの男だろう。農作業に従事する者らしく肌は黒く焼けている、あまり美男子とは呼べないものの頼りになりそうないい男である。


 そんな彼は村人たちを笑いながら殺し、血塗れになった男に対して震えながらも立ち向かっていった。愛する妻と子供、そしてこれから生まれてくる妻のお腹の子を守るために!


 だが、ただの村人が思いだけで勝てるほど甘い相手ではない。当然のごとく風太には傷一つつけることさえできない。


(殺される!)


 簡単に殴り飛ばされて倒れ伏した男はついに家族を守るという思いより死の恐怖が上回り震えている。


 そんな彼に対して風太は問いかける。



「生きたいか?」



 唐突な質問に男の動きが止まる。



「生きたいか?」



 同じ言葉を紡ぐ魔王の眷属。


 しかし村人はどう答えればよいのかわからなかった。


 目の前の男は誰であろうと何を叫ぼうと容赦なく殺しまくった男だ。その中には彼の両親もいたし親友もいた。幼馴染もいればその子供もいた。

 みんなを躊躇なく笑いながら殺した男だ。


 生きたいと答えれば逆に殺されるかもしれない。命乞いを必死にすれば助かるかもしれない。何と答えても殺されるのかもしれない。


 恐怖で冷静に考えられない男はただ「あ、うっあぁぁ……」と掠れた声を漏らすだけだ。



「質問に答えるのならばお前は生かしてやってもいい。」



 血濡れの男は今までとは一転した真面目な表情でそう言い、無様にひっくり返っている村人を見つめる。


 わずかな間動きを止めた村人は、我に返えると慌てて何度も何度も頷いた。



「おぉおっ、お願いします!助けてください!」



 そして地に頭をつけ必死に懇願した。


 それを見た風太は満足そうに頷くと改めて問いかけた。



「よし!ならば答えろ。この村の避難所はどこにある?」


「……ッッ!そ、それは!……」


「どうした?生きたいんだろう?ならさっさと答えろ。緊急時の避難所はどこにある?」


 続けて「自分で探すのは面倒くさいからなぁー」と呟く声など村人の耳には入っていなかった。


 避難所には自分の妻や子供を含めて逃げ延びた女子供がいる。言えるわけがない!でも、ここで言わなければ自分が殺される!と今まで以上に思考がまとまらずパニックになる村人である青年の男性。


 やがて気がふれたのか下を向いたままボソボソ何かをつぶやく青年に対し風太は苛立ちを覚え大きな声を出そうとしたときに青年が顔を上げて口を開く。



「どうか、どうか見逃してください!他の事なら何でもします!俺を奴隷として売ってくださってもかまいません。お願いします!他の――――」



 ――――生き残った人は見逃してください。


 家族のために自分の身を犠牲にする覚悟を決めた青年の言葉が、最後まで紡がれることはなかった。



「ったく!自分で探すのはマジで面倒なのに。」



 首から上が無くなり血が噴き出している青年の死体を見ながら風太は呟く。その手にもつ大剣で村人の首を刎ね飛ばしたことなど欠片も気に留めていないようで、それよりも逃げた村民たちを探す方に気を向けているようだ。



「俺も感知系の魔法を覚えておきゃよかったぁー。」



 ため息をつきながら風太は生存者を探すために彼らが向かった森の方へと足を動かし始めた。






 数分後。


 風太が生き残りを見つけたらしいことを感知した魔王はリーシャを嬲るのを中断し馬車を降りた。



「お前たちも来い。」



 一方的にそう告げると魔法を発動させる。


 それによってリーシャとユフィの体力と気力が回復し、先ほどまでの情事の名残である体液や臭いが消え、引き裂かれた服(もともと肌が透けて見え、胸と下半身はむき出しになっているのだが)も元通りになった。


 唯一意図的に残された、肌に残るいくつもの赤い跡だけが先ほどまでの行為を示すものだ。


 そんな二人と違い既に従順となったマールだけはどこで用意したのか、スカートが短く胸元が大きく開いたメイド服のようなものを着ていた。


 3人は黙って馬車から降りて魔王の前に立った。


 集落へ向かうかと思われたが魔王は女たちの顔を見てるだけで動く様子がない。少しして、どうしたのかマールが尋ねようとすると口を動かした。



「マール。二人の髪を整えろ。私の女である以上身だしなみにも配慮すべきだ。」


「は、はい。すぐに直します。」



 そしてマールはリーシャの髪に手を伸ばした。


 櫛は大祐が渡しているが元々良いところのお嬢様であるマールは少々手間取っている。皮肉なことに大祐の魔法や食事によって、少し前まで所属していた『平和の剣』にいた時より艶やかになっている二人の髪を一生懸命梳かしていた。


 すると、



「ぅあああああーーーーーーーーーーーー!」



 大きな悲鳴が聞こえた。


 それを聞き、辛そうに苦しそうに下を見るリーシャとユフィ。


 マールは既に魔王が何らかの処置を施したのか何ら反応は見せず、二人の髪を整える作業に集中している。

 魔王に屈すると自分たちもマールのように変わってしまうのだろうか?そんな気持ちがよぎるため二人はマールを視界に入れないようにただじっと下を見ていた。











「おーーー!やばい!マジで気持ちいいな!お前の身体はホント気持ちいいよ!一人目からあたりとはツイてるかも。」



 魔王と女たちが村人の避難所まで来ると、そこでは風太が張り切って女を犯していた。


 20代前半ほどの取り立てて特徴のない女を地面に倒しその上から覆いかぶさっていた。その周りには何人かの男の体が血溜まりに沈んでいて、少し離れたところでは老人たちと女子供が恐怖に震えていた。

 一部の子供が風太の周辺へ視線を向けてお父さんと泣き叫んでいるのを見るとおそらく倒れてる人間の中に親がいたのだろう。

 親らしい亡骸の元へ向かおうと暴れているのを他の村人が必死に抑えていた。

 


「お~大祐。ようやく俺もアタリにありつけたぞ。」



 近づく主を見ながらも腰の動きを止めない風太がそう言う。



「微妙じゃないか?」



 女の顔を見ながら魔王は言う。



「そんなことはない!いつも最高級の料理を食ってるから大祐はそう思うんだ。ずっと冬山で遭難して空腹だった俺にはすげぇご馳走だし!なかなか良いモン持ってるよこの女。」



 ムキになって言い返す風太。そんな彼を一瞥したあと、魔王は他の村人へと視線を向ける。



「この人間たちはどうして殺さない?」


「ん?まず女を味わってからって思っただけで特別な理由はないけど。」



 魔王の言葉に、やはり腰を動かし続ける風太が答える。


 下に横たわる女は先ほどまであまりの痛さに叫び続けていたが、今はもう声も出ないのか荒い息が漏れ出るだけでされるがままになっていた。



「ならさっさと済ませてアッスラールへ行くぞ。私もそろそろ動きたくなってきたからな。」



 言いながら手に魔力を集める魔王に対して風太は慌てて止めに入る。勿論口で言うだけで身体は別の動きをしたままであるが。



「待って!他にもいただく女がいるから!今日一日くらいゆっくりやらせてくれ!」


「ダメだ。小さな村で遊ぶのはもう飽きた。」



 気まぐれな魔王は自身の欲求に従い、生き残りの村民を殺そうとする。魔王の手には魔力が凝集し純白の光弾がいつの間にか存在していた。


 風太が本気でヤバイ!と思い、動くより先にリーシャとユフィが魔王の前に立つ!



「待って!そんな!そんな理由で殺すなんて!」


「酷過ぎます!彼らはあなたに何もしてないじゃないですか!」



 胸がむき出しになっていることなど忘れ、憤然として叫ぶ二人。


 だがこんな言葉で止まる魔王ではない。自分に逆らった罰としてカイルかロックのどちらかを殺そうと決意しながら光弾を振りかぶった!



「あたしがあなたに従うから!」



 魔王の腕にしがみつきリーシャが大声で言い放つ!

 その気迫に押されたわけではなく単純に何を言い出すのか興味を持ったのだろう、魔王が動きを止めリーシャを見やる。


 無言で見つめその言葉の意味を問う。



「あたしが……あなたに従います。マールさんのように自分の意思であなたに仕えます。」



 魔王の目を見てそう宣言するリーシャ。


 しかし魔王にとってはまったく意味のない宣言でしかない。リーシャは既に魔王の言いなりなのだから。時折今のように邪魔なことをしてくるがそれだって簡単に引き下がらせることが出来るのだから。


 リーシャもそれはわかっているのだろう、だから続けて言葉を放つ。



「もしカイルや他の人が助けに来てくれてもあたしは逃げません。だから!この人たちは助けてあげてください。」



 リーシャがそこまで言い切ると魔王は光弾を消した。


 今の発言は真実意外だったからだ。もっともそれはリーシャの意志の強さに驚いたわけではなく、この女は馬鹿なのかなと自分の見る目を少し疑ったという話だが。



「……魔法でおまえを縛るから決してその誓約を違える事は出来ないぞ。」


「…………」



 魔王の目を見つめたまま黙って頷くリーシャ。



「仮にこの村の人間どもを見逃したとして、次はアッスラールが標的であることに変わりはない。そしてそのときお前は私に逆らえなくなっている。―――つまり私の気分しだいではお前も人間を殺すことになるということだ。」



 魔王の直接的な脅しの言葉と鋭い視線にも怯むことなく見返すリーシャ。



「…………」


「自分の命を懸けるのであれば、より多くの人間がいるアッスラールを見逃す代償としたほうが良いのではないか?」


「…………これ以上、目の前で人が殺されるのを見てるだけなんてできないわ。」


 

 唇を噛みしめながら、それでも強い敵意を込めた視線を魔王にぶつけるリーシャ。






 そんな二人のやり取りを風太は村人の女を犯しつつ眺めていた。


(な~に言ってんだかあの女は。この村に来る前にもたくさん集落をつぶしてきたってのに。………まあ、今までは馬車の中にいただけだったからな。実際に見るのとでは違うということか。)


 風太以外の人間はみんな様々な反応を見せている。


 マールは特に何の反応も見せずぼんやりとし、ユフィは突然のことにどう反応したらいいのかわからないのだろう。止めるべきか見守るべきか、または自分がリーシャの代わりになるべきか考えがまとまらず混乱してるのが少し離れて見ている風太には良くわかる。


 恐怖に震えていた村人たちの多くは正確な事態は掴めずとも命が助かるかもしれない!と安堵と期待が少し湧いているのが傍から見てもわかる。見知らぬ少女を犠牲にすることに対し心を痛めている様子はまるでない。


(まあ、命が懸かった状況で他人の事なんか気にしちゃられないか。)


 そうして改めて魔王を見た風太は、その表情を確認すると急に腰を激しく振り始めた。



「ッ!ぅきゃああッーーー!痛い!イタイイタイ!ッッぃやぁぁぁぁーーーー!!!!」



 先ほどまで荒い呼吸を繰り返すだけだったが、風太の乱暴な動きに耐え切れず再び悲鳴を上げる。しかしそれに構わず風太はさらにスピードを上げて女を攻めたてた。


 伊達に1000年以上仕えているわけではない。魔王の表情を見れば何を考えているのか大体は予測が付くのだろう。


(人間の時はともかく魔王としての大祐はあいつみたいに他人のために自分を投げ出せるやつで遊ぶのが大好きだからな。バカな女だ。でもこれで間違いなくあの女は……………あとになって後悔するだろうなぁ。)


 お楽しみの時間がもうすぐ終わることを察した風太は目の前の女に意識を切り替えた。














 

 1時間後、集落を覆っていた結界がいきなり消え去った。


 結界の外に控えていたアッスラール騎士団・征竜隊隊長フォルフォルドは斥候をつかい村の様子を確認。惨劇の跡が色濃く残るが犯人とおぼしき存在を見つけることができなかった。


 本隊が集落に入り本格的に何らかの痕跡を探し始めた時、生き残りの女子供や老人が避難所から戻ってきた。騎士団を見つけた彼らは誰もが泣きながら駆けより保護されようやく生き残れたという安堵に包まれた。


 しばしの休憩ののち村の長老が、比較的壊れていない建物の中で何が起きたのか説明した。


 それによりわかったのは次のことである。



(1) 犯人は若い男2人。そのうちの1人が村を破壊し殺しまくった。

(2) 女が3人囚われていて奴隷のように扱われていたが、そのうちの一人が何らかの交渉で犯人を止めてくれた。

(3) 村人を強姦していた男が事を終えると突然犯人たちの姿が消え解放された。

(4) 消え去る前に男は村長にこう言った。「明後日の昼、アッスラールへ進軍する。村の外にいる騎士団にそう伝えろ。」




 話を終えたフォルフォルドは村の事後処理と警戒を兼ねて十数名の騎士を残しアッスラールへと帰還した。


 そして領主や騎士団長と対策を話し合った結果、普段の3倍の人員を導入し都市を警戒するということがすぐさま決まった。


 大罪人たちが2日後に来ると宣言していたことを警戒しすぐさま都市の城壁には普段よりも多くの篝火が供えられる。騎士たちも非常体制となり誰一人油断することなく警備をしていた。


 犯人は2人の男。だが騎士団にいる中で最高の魔法使いでも解けない結界を張れる強力な魔法の使い手。


 強力な魔法は一度で何百人も吹き飛ばすことさえ可能だ。それを知ってる騎士団員たちは上層部から末端まで、2人と軽んじることなく警戒を怠らなかった。


 騎士たち一人一人の戦闘能力の高さや心構え、堅固な城塞、豊富な資金により得られる上質な装備、これらを全てかね揃えていてファールーンだけでなく周辺国の中でも上位に入るであろうアッスラールの防衛力ならばたとえ勇者が相手でも数か月は戦える。


 それだけの自信と実力があるアッスラール騎士団。


 だがそれでも彼らは滅びることになる。




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