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最初の目覚め

 元魔王様、頑張る!をまだ読んでいない人へ。

 この話は元魔王様、頑張る!28話からの分岐です。


 準決勝 第1試合 笹川大祐 VS サーマレイス=セラヴァイル


 大祐はサーマレイスの攻撃を受けて倒れ伏し、これ以上の戦いを諦めたとこからの話です。



 魂と肉体は相互に影響し合う。


 異世界で魔王の肉体を得た大祐は、その魂を魔王に汚染された。


 そうして魔王となった魂は再び火星に戻り、人の肉体に収まった。




 魂と肉体は相互に影響し合う。


 故に魔王の魂の影響を受け、大祐の性欲は日々増大していた。





 一方で魂も肉体の影響を受けていた。


 脆弱な人が魔王の魂本体を変質させることはできないが、魂の表面に人としての性質が付着した。


 魔王と比較すれば微々たるもの。


 しかし、―――あくまで肉体を介して世界に存在する魔王大祐にとって―――その表面の部分が魔王としての完全な覚醒を妨げ、人としての理性を保たせていた。


 尤もこれは大祐本人が魔王の力は必要ない!自分の力でやり遂げてみせる!という強い意志を持っていたことも大きく影響しているのだが、



 それが無くなった。


 サーマレイスに倒され、心が折られてしまった。


 諦めてしまった……






 サーマレイスにより斬られ肉体が傷つき弱まったこと。


 心を折られ意志がくじけたこと。


 この2つの要因によって、今まで微妙なバランスで保たれていた天秤が一気に魔王側に振れた。人としての部分を押しのけ魔王が表面に現れる。




 結果として魔王は目覚め始めた。


 

 

 










 変化は突然だった。



 サーマレイスは自分が倒した男を見て、心の中で称賛の言葉をかけていた。


 観客やアナウンス、勝敗の判定員も試合の終了を理解しサーマレイスの勝利宣言をしようとしている。



「準決勝第一試合、勝者サーマレイ――――」



 言葉が途中で止まる。


 歓声を上げかけていた観客もシーンとなる。


 サーマレイスも表情を真剣なものに変えてそれを見つめた。





 大祐の身体が炎に覆われていた。



(あれは不死鳥の巫女の。)



 サーマレイスは直ぐにその正体を見破ったが変化はこれだけではなかった。


 再生の炎の色が徐々に黒くなってるのもそうだが、それ以上に大祐の魔力がありえないほどに高まっている。


 先ほどの一撃でほとんどの魔力を使い切ったはずが、下級、中級、上級相当の莫大な魔力とっている。



 その強大な魔力と何より発せられる禍々しい気配を察知したサーマレイスは危険な存在と認識。

 

 即座にとどめを刺すために魔法を発動させようとしたとき!


 一際強い魔力を放ちながら大祐が起き上がった。


 その魔力に気圧されたのと、一旦様子を窺うために魔法陣はそのままで魔法を止めたサーマレイスからは表情がわからない。


 ただ自分の身体をじっくりと見ているようだ。







 大祐は、力が湧きあがるこの懐かしい身体を取り戻して思う。



 (魔王の身体になってしまったか……)



 再生の炎が“魔王の身体”を再生し終えて消える。



 (所詮、負け犬は負け犬。人としての私が何をしたところで貴族や幼馴染(あいつら)に勝てるはずもなかった……)



 真紅の瞳で身体の状態を確認する。



 (だが…それも、もうどうでも良いことだ。)



 突然の覚醒でまだ完全ではないがそれでも人間とは決定的に違うその身体。



 (もう目覚めてしまったのだから。)



 同時に破壊の欲求や殺人衝動でさえも蘇りつつあった。





 顔を上げた魔王はその真紅の眼でサーマレイスを見つめる。


 それに対しサーマレイスは即座に魔法による攻撃を加えた。


 いろいろ聞きたいことや確認したいことはあったが、それ以上に危険な存在だと本能が訴えている。


 今までとは違い一撃で殺すつもりで全力の魔法を放つ!


 放たれた魔法はスピードもパワーも今までの比ではなかった。一瞬にして大祐の元まで到達し貫く、と思われた瞬間に大祐の姿が消えた。

 直ぐにサーマレイスの後ろに現れ、彼女が驚く間もなくその腕を取る。そしてそのまま左腕を握り潰した。

 


「うぁぁああああああぁぁぁぁぁ!!!」



 普段のサーマレイスからは考えられないような絶叫が響き渡る。



「やかましいぞ。痛覚を10倍にした程度で一々喚くな。」



 魔王は鬱陶しそうな顔をして言ったあと、掴んだ腕を離しサーマレイスの顔を殴り飛ばす。本人にとっては軽く、人間にとっては絶大な威力で!


 吹っ飛ばされたサーマレイスは必死に魔法で回復させながらふらふらと立ち上がる。その顔には貴族としての誇りはなく戦意と警戒、恐怖があった。



「最初からこうすれば良かったな。」



 サーマレイスを見ながらぽつりとつぶやく。



「あれだけお前を手強く感じていたのに……今はもう敵とさえ認識できない……」



 そしてその身から莫大な魔力を放出させつつ声を大きくして叫ぶ!



「努力をして力を得るなどバカバカしいな……………ふ、ふふふはっはははははは!!我ながら愚かなことを考えていたものだ!!そうは思わんか!?サーマレイス。」



 サーマレイスは答えない。答えず必死に回復を行うが上手くいかない。ほんの少し触られただけで、大祐の魔力が色濃く残りそれが魔法による回復を阻害する。


 そして魔王は返事をしないサーマレイスに気にせず一人で言葉を続けている。



「人として努力して得られる力など、この魔王の力の欠片ほどもないではないか!?くだらない!!アハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!!」



 一人で笑い転げる魔王!


 だがその身から溢れる魔力は尋常ない。あまりに濃密な魔力はその濃度の高さゆえに黒いオーラとして可視化されるほどになっていた。







 一方これを見ていた観客席では部下たちが真っ青になって話し合っている。



「やばいってこれ!?どうすんの?」と慌てた声でエロ太が言う。



「どうするって………どうしようもないだろ………」


「だけどこのままじゃ、取り返しのつかないことになるぞ。」



 同じく慌てたAやDも震えながら言葉を発する。


 他の観客たちも急な展開に呆然となっている。その眼下では一人哄笑している魔王と、それに対し魔法を放つサーマレイスがいる。 


 だがサーマレイスの放つ魔法は1つたりとも大祐には当たらない。ただ笑っている魔王の身体から放たれる魔力によってすべての魔法が止められていた。



「まだ、起きたばかりだから1割も力を出せないと思う。だから今のうちに!完全に覚醒する前になんとかしなきゃ!」



 Dの言葉に2人は頷き、部下たちは必死に対策を検討し始めた。





 一方、フィールドではようやく大祐が落ち着きサーマレイスを見つめていた。


 サーマレイスはそんな様子も気にせずひたすらに魔法を放ちまくる。


 強烈な毒性の花粉、ダイヤさえ断ち切る葉の刃、物理的には金でさえ魔法的には一部の上級の結界さえ溶かす強力な酸性の粘液、他にも肉食植物、吸血植物、強靭な弦に金剛の樹などありとあらゆる上級植物魔法を放ちまくるがどれ一つとしてギリギリのところで大祐まで届かない。



(まさか、これほどとは予想していませんでしたね。)



 心の中でそう思いながらもひたすらに魔法を放つ。少しでもこの魔王という存在のデータを測定するために。


 そう、実際のところ今のサーマレイスは焦ってはいなかった。


 最初は直感でやばいと判断し慌てたが、魔法で精神を安定させたため今は落ち着いている。


 魔力の感覚的に危険な存在だというのは今も思っているが、会場を囲む強力な結界の効果が作用すればこのフィールドに入った時の状態に戻される。詳しいことはその時に聞けばよい。


 大祐の魔力から考えると今のサーマレイスでは敵わないのがわかる。だが実のところサーマレイスも先ほどまでの戦いでかなりの力を使っているので全力時ならばここまで一方的な展開にはならないだろう。


 他にも本家の当主たちならば十分対応できるレベルであり、特に虹髪の一族の次期当主の方が大祐よりも強い魔力を持っている。あるいは上級者たちが複数名で協力すれば問題なく対応できると考える。


 ただこれが会場の外で暴走した場合などに備えて、多くのデータを計測しようとしている。


 しかし1つだけ問題があった。


 この時サーマレイスも自覚できないわずかな焦りと恐怖が彼女の判断を鈍らせたのであろう。現在感知できる魔力が大祐の最高の状態だと思い込んでしまった。


 それも仕方がない。彼女は生まれながらの強者であり恐怖を感じることなのそれほど多くはなかったのだから。


 そして貴族の中でも上位であるサーマレイス以上に強いものはこの会場にはいないため、貴族や政府の人間は魔王の力の大きさを正確に把握することができなかった。


 これが、のちの悲劇を引き起こす原因の一つとなるのだが………


 






 サーマレイスが魔法を撃ち続ける間も大祐はただ彼女を見つめていた。


 いや、正確には考え事をしているだけでサーマレイスを見てたわけではないのだが……


 

(まだ、完全ではないか……)



 黒い魔力をまき散らしながらそう思っていた。身体から溢れる魔力は大祐が意識したものではない。何もせずとも勝手に出てきてそれが偶然サーマレイスの魔法を防いでいるだけだ。


 無意識に魔力が溢れている時点でまだまだコントロールしきれていないのがわかる。おまけに溢れる魔力にしても、完全に覚醒した場合の1割にも満たない量だ。


 身体は完全に魔王のものとなったのに何故、力は不完全なのか?


 おそらくは魂にわずかに人間の部分が残っているのだろう。結果としてそれが身体と魂の接続を妨げていると考えられる。


 この人間としての残りカスを完全に消さない限り、これ以上の力は引き出せないであろうことが感覚でわかる。


 しかしそれはあとで対応しようと考え、さっきから目障りな女で遊ぶために意識をそちらに向けた瞬間、不思議な魔力の波動を感じた。


 見上げると、この会場の開けた天井から見えるただ一つの外の建物である始原の塔が見える。その遥か頂上、雲を越え大気圏から出るギリギリの高さにある部分から不思議な魔力が放出されている。


 もちろん魔王であっても素の状態では高すぎるために見ることができないが、魔法によりそれが感じ取れる。周りの観客は、サーマレイスもだがどうやらこの波動に気付いていないようだった。


 

 そのことを疑問に思うより先にその波動が効果を発揮する!


 

「ちぃっ!!!」



 大祐は急激に力や衝動が抑えられていくのを感じていた。


 同時に人としての部分が息を吹き返している。


 完全に覚醒していれば別であったのだろうが、今の不完全な状態では抗しきれない。



「グッ……クソがーーーーー!!!なんだよせっかく―――――――」



 身体から溢れていた魔力が消える。サーマレイスの魔法も通るようになったが、大祐の再びの変調に対して動きを止めている。



「あ!?あああああああああああああああああああああああああああああああああああああーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!」














 この後のことは簡潔にまとめる。


 急激な変化の連続による激痛が走り、そのまま大祐は気絶した。


 結果としてサーマレイスの勝利となり、大祐は敗退となった。


 観客たちはあまりの展開に呆然とし何とも言えない表情をしていた。


 ただ大祐に対しては変な奴、あるいは頭のおかしい奴と思う程度の認識であり、真に危険な存在と気づいたものはいなかった。


 大祐はサーマレイスに攻撃を加えたものの彼女は即座に反撃に移ったし、その後大祐は一人で笑いまくり、そしていきなり苦しみ勝手に倒れた。


 傍から見ているものにとっては釈然としない意味不明な展開となっただけだ。


 だからこそ多くの者は恐怖を感じることはなく、中には大祐をバカにする者までいる始末だった。


 これもまた悲劇へとつながる要因となる。







 試合後の結界の再生機能により元の状態に戻った大祐はそのままサーマレイスたちと会談。この時には元の人間としての大祐に戻っていたので魔王の力を取り戻す意思はなくなっていた。


 今回の変調の原因を話し今後再び暴走する可能性があることを考え、始原の塔での設備を使い、魔王化抑制のための研究を行うことを提案し承諾される。


 




 以後大祐たちは学校へ行かず研究を行っていた。しかし魂への干渉はかなりの精密作業であり、人のみでそれをしようとするのは困難であるため研究はなかなか進まない。それに対し表立っては見えないが魔王化は着々と進行していた。それに伴い精神も変質していく。


 貴族、政府側は監視をつけながらもこの事態をそれほどの脅威とはみなしていなかった。それは貴族の中でも上位者であるサーマレイスの見立てと大会で計測されたデータから軍で十分に鎮圧できるレベルと認定されたからだ。

 さらに大会からある程度経っても大きな変化は観察されず、定期報告も問題なく行われていたためでもある。

 

 

 あとになってこの判断が間違えだったと知るがその時には遅い。


 彼らはこの覚醒する前に大祐を殺すべきだった……


 そして時は流れる。


 必死に抑え込み表には出さなかったが、半分ほど思考が魔王に染まった時に異世界への扉が開くことで時代は大きく動くこととなる。




 難産でした……というのも最初はサーマレイスをボコボコにする話を書いたんです。四肢を壊して、耳や目もひどいことになって体や顔を蹴りまくってと。


 しかし書き終わってからこれをやってしまうと政府から危険人物として暗殺対象にされて異世界編へとつながらなくね?と気づいたために一から書き直すことに……この話も改めて書き直すかもしれません(やるとしたら異世界編が終わってからになりますが)


 そんなわけで魔王が火星で大暴れするのは異世界編が終わってからになります。


 気長にお待ちいただけると幸いです。


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