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1+1=?  作者: ささき
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第十回 Dangerous Anniversary

第十回創作五枚会概要

・禁則事項…手抜き禁止

・テーマ…幸福

「人が緊張するときって言うのは、何かに怯えるか、何かを忘れているときだ」――叶野三郎『出鱈目の教訓と一つの希望』


-十二月四日・月夜新聞-

株式会社フラワーリバーの社長の花川美佐枝氏(37)宅から先日、現金三百万円がポストに投函されていた事がわかった。

花川氏は「うちは確かに大きなお金に関連する会社だけど、これは知らないわ」と語っている。

月夜警察署は、この現金の持ち主が誰かを捜している。


-木村-

 ブランコを愉快に漕いでいる少女。

 砂場で一生懸命に城を作っている少年。

 公園の隅にベビーカーを置いて笑顔を貼り付けて喋っている母親たち。

 そして、ベンチに座って幼児達を睨むようにして見ている自分。

 異端、自分だけが。

 溶け込んでいないのがよくわかる。一刻も早くここから去りたいが、俺はまだ任務を終えていない。

 時計を見る。四時三十分を過ぎていた。もう、来てもいい時間だ。

「まだか、まだか」と口の中で唱える。一つ「まだか」と言う度に、右手が震える。何故震えるかはわかっている。緊張だ。この任務が成功しなかったら、自分はどうなってしまうのだろうかという怯えもある。――いや、後者の方が僅かに勝っている。

 震えには、もう慣れてしまった。何故か。昨日の朝から震えているからだ。

 入り口に目を凝らす。一人の少女が公園に入ってきた。ピンクのランドセル、黄色の帽子、トレードマークは金の髪留め。間違いない、ターゲットだった。

 こいつを殺せば、俺は許してもらえる。俺は、一昨日の悪徳金融業者のことを思い出す。

「あんたみたいな滞納者が瞳をうるうるさせて俺に懇願してくるからさ、考えたわけだよ。でまあ、簡単に言うと、そいつを殺せば今までの借金をチャラにしてやる。けど、お前みたいなもう借金で首が回らない奴らもそいつを殺そうとしている。まあ、先着一名様の特大イベントだよね」

 俺は、妻が死んでからその悲しみをパチンコに注ぎ込んだ。それで、彼女が生き返るはずもないのに。

 金が無くなれば、金融業者から借りた。そしてその金で、また悲しみを注ぎ込んだ。気づけばその悲しみは、三百万という額に膨らんでいた。そして家にはサングラスにスーツの男たちが来るようになった。

 俺は、人生をやり直す最期の希望へ視線を定める。ターゲットは公園の鉄棒付近を通り過ぎた。俺はベンチから立ち上がり、少女に近寄っていく。

 目測で、二十メートル。ターゲットはこちらに気づいていない。

 焦燥、緊張、震える右手。生唾を飲み込む。

 ふと、俺の向かい側から誰かが来ている。手入れのされていない髭、血走った両眼。――なんだか、俺に似ている。

 既視感。

 俺は、これを見た事がある。


 色褪せたフィルムが回っているかの如く。

 腹部が膨らんでいる女性。

 向かい側から向かってくる男。

 俺はそれを見ていて――。

 止まるフィルム。

 惨殺音、悲鳴、何かが吹き出し、倒れる音。

「……あたしの分まで、生きて」


「宮子」

 何故、今まで忘れていたんだろうか。俺は自嘲する。全く、俺はとんだ馬鹿だ。

 飛び出す。その音に気づいて、彼女が俺に気づく。この状況なら好都合だ。胸ポケットに入れておいたナイフを取り出……。

 あれ? 何も無い。

 焦る。だが、その間に男は彼女に近づいている。

 耳元で、声が聞こえる。

「守れ! あの日、墓前でお前は何て宮子に言ったんだ? お前と子供の分まで人を幸せにするって言っただろうが!」自分を叱咤する声。それは紛れもなく、俺の声だった。

 そう、だったな。幸せに、しなきゃな。

 勢いよく彼女の前に、出る。両手を横に広げ、男を睨みつける。

「来いよ!」


 刹那、跳躍音。

 視界右から、突然体格の良い男。

 飛んでくる。

 二人、ぶつかる、倒れる。


 唖然。何が、起きたんだ。

「パパー!」後ろの少女が、体格の良い男の下へ小走りで近づく。

照美てるみ、まだ危ないから来ちゃ駄目だ」そう言われ、照美ちゃんはそこに止まった。

 体格の良い男は、胸ポケットから二つ手錠を取り出した。それを器用に男の足と手に嵌める。

「もう大丈夫だぞ、照美」飛んできた男は笑顔で少女に言う。

「わー! パパー」少女がお父さんに近づいていく。お父さんは軽々と照美ちゃんを持ち上げながらこっちへ来た。

「やあ。娘を助けようとしてくれてありがとう」お父さんが握手をしてくる。

「あ、はあ……」俺はその手を握る。すごく大きくて、がっしりとしている。

「突然で悪いんだけど君、何か仕事に就いていたりするかい?」

「いえ……無職です」無職、と言う言葉が恥ずかしくて、ごしょごしょと言ってしまう。

「そうか、それはちょうどいい」彼がにこりと微笑んだ。「うちの会社に来てくれないか?」

「へ?」

「いや、君のさっきの咄嗟の行動に感動してさ。是非、うちの会社で働いてくれないか。ちなみに業種はボディーガードだ」

 脳内に三点リーダが二つ。あと、眼にドットが二つ。駄目だ、話についていけない。

「妻が社長で、俺が副社長兼実行部隊長なんだけどさ、人が少なくて困ってるんだよ」そう言って、副社長は頭を掻いた。

「だからね、照美のことパパが守ってくれてるのー」肩車されている少女が間延びした声でそう言った。

「いや、パパが照美のこと守りたいから守ってるんだよ」

「親バカパパだー」二人が笑い出す。

「で、どうする? 木村君」

「えー、でも」そこで、気づいた。

 呼ばれた、名前。

 俺は、この人を知らないのに。

 絶句。何故、知っているんだ。

「実は、俺には超能力じみたものがあってさ、人の心が読めるんだよね」

「スプーン曲げも出来るよ!」

「いや、それは手品キットだ」

「ぶー」少女は頬を膨らました。

「で、君が何故ここにいたかも俺は知っている。ちなみに、君の借金の額も知っている」彼の顔が真顔になる。「家族にばらされたくなかったら、家に来い」

「で、でも――」俺は拒む。結果的には殺していないにせよ、少女を殺そうとはしていた。

「人間、みんな悪い事してるんだよ。俺も昔、エロ本万引きしたりしたしな」あれは若気の至りだった、と彼が呟く。

「でも、俺のは万引きとかそういうレベルじゃなくて――」

「悪い事に、レベルなんてあるのか?」さっきと声量は変わっていない。なのに、その言葉が俺に重く突き刺さる。

「あ、言い忘れていたが」途端に陽気な声に戻る。彼が右手で三を作る。「初任給は三百万だ」

「うわーお!」少女が大袈裟に驚く。恐らく、冗談だろう。そんな金があるなら、もっと人を雇えているはずだ。

 瞬間、風が吹いた。

「ボディーガードねえ。いいんじゃない? 人の幸せを守れると思うし」

 懐かしい声が、後ろからした。振り返る。だが、そこには誰もいない。

「どうかしたか?」

「いえ、別に」俺は微笑む。あいつがそう言っているんなら、そうするしかない。どうやら俺はいつまで経っても、彼女のことが好きらしい。

「で、どうする?」

 俺は頭を下げる。「働かせてください、副社長!」

「おう! こっちこそ、よろしくな。木村君」じゃ、美佐枝も待ってるから家に帰るか、と副社長が照美ちゃんに言う。

 携帯を見る――六月五日。今日が俺の、再就職記念日だ。


-「From the head wind to the fair wind.」end-

原案:ささき

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