第1話 平々凡々の神聖女と美丈夫の聖騎士
「これ以上近づかないでください! 私を誰だと思っているのです!」
私はとても窮地に立たされています。
この人生が破滅するかどうかの瀬戸際です。
背中は壁についてしまっており、これ以上は下がれません。
そして目の前には昨日皆で噂になっていた御本人がいるのです。
聖騎士ラフェシエン・アンラディーラがです。
「とても存じておりますよ。聖女の中でも神聖女と名高いフィエーラ様」
温度のない金色の目が私を見下ろしてきます。
「そのような御方が何故、このようなところに?」
私は逃げ道はないのかと目をオロオロさせながら探します。
このままだと、私が今まで築き上げてきた聖女としての立場がなくなってしまいますわ。
絶体絶命です!
今日は神禮祭三日目。
神に豊穣の感謝を行う儀式があり、三日目は王都中で催し物やパレードが行われ最高潮に盛り上がる日なのです。
そして、聖女という職業はそれに花を供えるパレードで、神輿の上から花をばらまくというイベントに参加をしなければなりません。
しかし、しかしですね。聖女というのは神から力を授かった女性と言いつつ、その数は百人ほどいるのです。
全員がそのパレードに参加できるものではありません。
なので私は大司教と交渉し、祭り散策権を勝ち取ったのです。
祭りというものは見ているほうが楽しいに決まっているではないですか。
ただ、ここで問題になるのが、聖女という者の体質です。
「フィエーラ様。教会にお戻りください。このままだと、神の怒りを受けることになりますよ」
神の怒り。それは女神イーリアが大の男嫌いと言われていることに起因します。
異性に触れられると神から授かった力を失うのです。
「その言葉、聖騎士ラフェシエン様にそっくりそのままお返ししますわ」
そして、聖騎士と名乗るものにも神の加護が与えられているのです。が! そちらは男神イーアスから加護を承っているのです。
はい、それはそれは仲が悪い兄妹神と言われています。
嘘か本当かは知りません。しかし、ある日授かった力が、異性に触れると一瞬にして消えてしまうというのは事実なのです。
因みに今回祀り上げている神は、主神のアクティース様ですね。別の神様です。
この現状、互いに互いが触れられないという状況なのです。ですが、聖騎士がまとう鎧には魔力を阻害する魔法がかけられているので、実際は彼が私に触れても問題ないのです。
はい、昔色々あったようで、このような特別仕様の鎧が提供されることになっているのです。
なので、私が言った言葉には意味がありません。ただ、この場をどう切り抜けるかを思考する時間稼ぎなのです。
「はぁ、私はパレードには参加しないのです。聖騎士ラフェシエン様は違いますよね? 時間も迫っていることですし、貴方が早くお戻りになるべきではありませんか?」
そう、普段は着用しない礼式のきらびやかな鎧を身にまとっている聖騎士ラフェシエンを見上げます。
金髪の美丈夫と言っていい容姿は、ご令嬢方からキャーキャー言われるほど見た目がいいです。
そしてアンラディーラ公爵家の次男という血筋。
パレードに華を添えるにはいいでしょう。
それに対し、私は平々凡々の容姿。老婆のような白髪に色素が薄い灰色の瞳。
全体的に薄い印象ですね。
暗い廊下を歩いていると幽霊と間違われることがあります。
「どうしても、お戻りにならないということですか? 神聖女フィエーラ様」
「ふふふ。私は聖騎士ラフェシエン様をここから見送りますので、どうぞお戻りください」
もう、そろそろパレードの出発地点に集合しておかなければならない時間のハズです。
時間が迫ってきていますよね?
このまま、私を見逃してください。
「わかりました」
その言葉にほっとため息がでそうになったところで……
「神聖女フィエーラ様の護衛につかせていただきます」
「何故に!」
どうしてそうなったのですか?
私のことは放置でいいのです。放置です。
仕方がありません。
私は一枚の用紙を懐から取り出して掲げます。
「大司教様から一筆いただいて、ここにいるのです。職務放棄をしようとする貴方とは違います」
そう、大司教を脅して……交渉して得た祭り散策権。
「祭り散策権?」
「ええ、そうです。きちんと許可を得ているのです。そのために、旅人の衣装を用意したのです。見た目で聖騎士とわかるものを連れていくなんて断固拒否です」
この祭りは一年に一度しかないのです。
この機会を逃すと来年まで待たなければならないのです。
「しかし、聖女様方の護衛も我々の任務です」
はい、全く持ってその通りです。
聖女は国の要でもあります。
魔物がはびこるこの世界で、聖魔法を使う者は重宝されるのです。
一見、王都の中は平和そのものですが、それは聖女が常時結界を張っているからです。
王都に配属されている聖女の数が多いのは、要塞都市である王都に結界を張り続けるためなのです。
そして、魔物が放つ穢れの浄化。それには国の各所に設置してある浄化石を清めるという仕事が聖女に課せられています。
それ以外にも事細かに仕事はありますが、聖女が動くと護衛として聖騎士がつけられます。
一番いいのが、女性騎士を護衛につけられればいいのです。ですが、全ての聖女につけられるほど多くはありません。
で、ここで問題になるのが、聖女なのでした。




