表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

社畜聖女はオトナの魔法で切り抜ける〜めざせゆるふわ学園生活〜

作者: エフピロ
掲載日:2026/02/28

 目を開けると、高い天井。

 石造りの部屋。


「お目覚めか、異世界より来られし聖女様よ」


 聖女……? これは……異世界転生……!?


「ふっふっふ、どうやら私の真価を発揮する時が来たようね!」


「突然のことで困惑されるだろうが……え、真価?」


 呼び出した方が困惑してる。


 苦節七年。

 仕事して帰って寝るだけ生活。

 お局、社内の派閥争い、残業、資格勉強……。


 全部解放される、異世界。


 勝った。これは勝ち確。


 聖女だろうがなんだろうがやったるわ!



   * * *



「それで、聖女様の当神殿での当面のお役目でございますが……」


 神官が説明する。


 なんでも王や教皇を補佐して国のピンチになんとかするみたいな感じ。

 しばらくは割と自由らしい。


「魔法とか、使い放題なんですよね!?」


「ま、まあ聖女様ともなればさまざまな白魔法を習得可能とは存じます。いかがですかな、一通り学んでみては」


「それって、働きながら資格取る、的な……?」


 嫌な記憶が蘇る。

 なんで働いて残業した上で金出してスクール通って資格取らなきゃならんのか! 取ってもろくに評価もされないし!


「いえいえ、国の学園でしばらく学びに専念いただくのがよろしいかと。聖女様は国の宝、もちろん費用は不要、給金も支払われます。問題なければこちらにサインを」


 なにそれ神か。いや神官か。

 金もらって学生やってていいとか最高なんだが?


「やりますやります! やらせてくださいなんでも覚えます!」



   * * *



 というわけで、学園に編入!


 聖女ヅラして変に目をつけられてもダルいから大人しくしていよう。


「マリアと申します! よろしくお願いします」


 無難にかわいく挨拶! 中身は二十余年生きてるけど転生したいまの見た目は十五歳くらいだからな! 学園ではモブでいいのよモブで!


 教壇近くに座る金髪イケメンが小さく手を振ってくる。

 あー、そういうのいいんだけど。とりあえずニコッと返しておく。


「ふん、貴方のような方がわたくしと同じクラスですって? どういうことかしら、セバスチャン?」


 うわ、金髪縦ロールがいきなり絡んできた。

 なんか学校内なのにお付きの人いるし。

 たぶん偉いとこの子だこれ。


「お忙しいところお時間を頂いてしまい申し訳ありません。不慣れでご迷惑をおかけするかもしれませんが、何卒ご指導のほど――」


 社会人経験を活かした謙虚さわやか若輩者ムーブ!

 

「ふん、精々わたくしの邪魔にならないようにしなさい」


 ふん、ってつけないと喋れんのかあんたは。


「それくらいにするんだ、クラリス」


 割り込んでくるさっきの金髪イケメン。


「ご機嫌ようセシル王太子殿下。あら、私は最低限の礼儀を教えていただけですわ」


 王子様か。


「それがいけないといっているのだ。君も公爵令嬢として、いや、僕の婚約者としてふさわしい振る舞いをだな」


 公爵令嬢ね。

 なんかこのクラス情報量多いな?


「国を思えばこそですわ。私の国と貴方様を愛する心は不滅ですことよ?」


「わかっている……」


 押し負けんなや王子。


 私はしゅんとした感じで席についておく。

 めんどくさいのは避けるに限る。


 前途多難な感じで始まった私の幸せゆるふわ学園生活。

 まあ子供のいじめくらい社会人生活に比べりゃどーってことないって!



   * * *



 と思っていた時期が私にもありました……。

 なんなのあの縦ロール。


 入学して三ヶ月、取り巻きも使ってずーっと私にちょっかいかけてきて。


 荷物隠し。

 テスト時間の偽情報。

 集団無視。

 食事にお茶ぶっかけ。

 神殿に嘘のチクり。

 

 そりゃこの世界の礼儀作法とか貴族のパワーバランスとか知らないからなんか気に触ったのかもしれないけどさ。


 元の世界で暗黒イビリお局の下で専務派と常務派のドロドロ派閥争い(不倫問題つき)に巻き込まれていた頃に比べりゃまだ胃も痛くならないんだけど、これ以上エスカレートされると困るレベルには達していた。


 神殿にもおかげで問題児みたいな扱いされてる。こんなに猫かぶっ……品行方正なのに失礼しちゃうわまったく。


 なので私は自衛として魔法の習得に精を出した。

 物理的にもメンタル的にも死なないために。


 やるからにはそりゃも〜徹底的に学んだ。


 授業終わったら図書館で理論。

 閉館したら寝るまで実技。

 朝起きて復習。


 こんなもん終電まで残業してから朝活で資格の勉強してた頃に比べりゃ――いや、やめよう。悲しくなってくる。


「ふむふむ……これがこうなって? ほうほう? こんな?」


 本を片手に魔法を構築。

 かざした右手から氷の矢が生まれ、すごい速さで飛んで行く!


 ビシィ! パァン!


 当たった立ち木が一瞬で凍りつき、爆発めいた勢いで粉砕された。


「魔法の天才だ……」

「聖女と聞いていたが、賢者なのか?」


 周りがざわざわしている。


 どうも聖女は本来、回復系の白魔法の使い手らしい。

 それはそれでちゃんとできる。ただ、他にも手を出してみたらふつーにできてしまったのである。


 魔力自体は高いから、威力は半端ない。

 できるようになると面白い。

 次も次もと覚え続けている。


 結果、実力行使みたいな脅しは減った。

 ……陰湿な方にシフトしてるだけだけど。ハァ。


「すごいじゃないか! マリアはいずれ国の要になるな」


 拍手しながらセシル王子が近寄ってくる。

 何かにつけて気にかけてくれる。いい人だ。


「もったいないお言葉です、王太子殿下。研鑽は聖女の勤めにございますので」


 軽く礼をする。

 ま、ほんといい人なんだけどねー。

 少し空気読んで欲しいんだよねー。


 いまも遠くから婚約者さんが殺すような目で見てるんですけど。


「アナタ! 聖職にある者がこのような魔法に手を出すなど前代未聞ですわ! 教会に連絡してこってりしぼっていただきませんと。退学もありえますわね!」


 ほらー。

 来ちゃったー。


「君はどうしていつもそうなんだ! いつまでそんなことを続けるつもりだ。いいか、改めないのならば婚約は破棄させてもらう。猶予は半年だ! 自分を見つめ直すのだな!」


 おーっと、これは王子、大きく出たー!

 悪役令嬢の断罪フラグ立ったー!

 リアルで見れるとはー!


「そして、僕はこのマリアと婚約する!」


 断罪からのー!

 ……ってお前! おい!!!

 勝手に何言ってくれてんの!!!???

 まーきーこーむーなー!!!


「ふん、何やら最近仲睦まじくされてると思ったらそういうことですか」


 扇子を広げて口元を隠す。


「わかりましたわ。私は私。曲げることはあり得ませんわ」


 お前も折れとけって!

 王家と公爵家が仲違いとか国的にやべーって!


「マリアはこのまま死地に向かわせるには惜しい女性。この数ヶ月のひたむきな彼女を見て、僕は心を打たれた。全力で彼女を守ると決めたんだ」


 しち? んー? なんのことー?


「魔王軍との最終決戦まであと半年ですものね。王太子が見初めたとあれば最前線からは外されることでしょうけれど」


 扇子を閉じて私をビシィ! っと指す。さすが、使いこなしてる。


「それではなんのための異世界からの召喚、異世界からの聖女ですか!」


 んー? んんー?

 もしかして?

 私って?


 初めから捨てゴマ的なー?


 強すぎる死亡フラグきたー!?


「王太子殿下、クラリス様、すみませんが用事がございますので失礼いたしますおほほほほ」


 私は神殿にダッシュした。



   * * *



「あー、気づいちゃったー? そっかそっかー」


 最初に応対してくれた神官がダルそうに話す。


「そっかそっかじゃなーい! そんなの契約にも役目にもなんにも……!」


「ココ」


 指で紙の端をトントン。来た時にサインした聖女の契約書だ。

 欄外のちっっっっさい文字。


『ただし魔王軍との決戦には参加する義務がある』


「こんなの無効よ! 説明責任果たしてないわ!」


「あー、いまさら何言ってもね。そりゃ王子なら変更できるだろうよ。よかったんじゃねえの王子と婚約できるならよ」


 ……。


 死にに行くのは論外。

 でも王子と結婚なんてしたら一生悲惨な権力争いに巻き込まれるのが目に見えている。

 イジメどころじゃない確実なメンタル死亡フラグ。ぜっっったいに回避しないと。


 もう権力闘争に巻き込まれるのはまっぴらなんじゃ!

 私は悠々自適に暮らしたいんじゃ!


 でも婚約をキッパリ断ると私は最前線で死ぬ。

 嫌すぎる。嫌。どっちも嫌。


 よし、決めた。


 1.契約の変更を王子にしてもらう

 2.縦ロールを更生させる

 3.婚約を元の二人に戻す


 これ。


 やったるでー! まってろ私の気ままな異世界ぬくぬくゆるふわ学園生活!



   * * *



「セシル様〜、こっちよ〜、うふふ〜」


 花畑でお嬢様走りする私。


「待て待て〜」


 王太子が追いかけてくる。


 なんかこう……こんなんでいいん?

 王子様のお相手とかマンガでしか見たことないからどうしていいかわからん。


 そもそも社会人になってから時間なんて全然なくて色恋から離れすぎててだな、だいたい学生時代の……いけないこの話は長くなる。あとあと。


 王子はあんまり物事を深く考えてなさそう。私と遊んでるけどクラリス戻ってきたらどうする気なんだろう。

 ま、私は目的達成できればそれでいいけどね。


「じゃあ〜、私を騙して結ばせたヒドい契約、変えてくださるんですか〜?」


 できる限り上目遣いを維持。生きるためならプライドなど捨てる。


「もちろんさ、マリアのためなら。明日にでも手続きをしよう」


 っしゃ!

 心の中で力強いガッツポーズ。


 さて、あとは更生と婚約を戻す方。


 要するにクラリスに改心してもらえば良いのだけれど、これの方が骨が折れそう。


 あのあとサシでクラリスと話してみたけれど、頑固っていうか病的っていうか、話にならなかった。


 じゃあもうそういう人なのかっていうと、そうでもなく。

 クラスの女子に聞き込みしてみると、一、二年前はそんなことない可愛らしいお嬢様だったらしい。

 王子と婚約したあたり、から?


 ちなみにみんな私に同情的でペラッペラ喋ってくれる。苦労してるの私だけじゃないみたいね。



 数日後。


「うーん……」


 図書館で魔法の研究をしながら考えを巡らせる。

 なんかー、頭でも打ったとか? タチの悪い転生者が入り込んだとか?


 んー、しっくりこない。


「ん」


 読んでる本の片隅に目がいく。

 ディスペル。かけられてる魔法や呪いを打ち払う魔法。

 んー、なんか魔法とかで操られてるとか? なくもないなー。


「マリア、契約変更の手続きができた。最後に君のサインを出してくれ」


 王子様がやってくる。

 おっ、仕事早いね! モテるよ君!


「ありがとうございます! 拝見しますね」


 嘘偽りのない満面の笑顔を浮かべる私。

 王子から書類の束をひったくると、目を皿にして確認する。


 赤線。

 差し替え。

 付帯条項。

 欄外。

 別紙。


 ……よし。

 サインをして王子に返す。


「ありがとうございます、セシル様。とっても助かりましたわ」


「君のためならこれくらい造作もない」


 よーし、これであとは縦ロールだけ!

 タイムリミットまで、あと三ヶ月!



* * *



 それから二ヶ月。私は説得を諦めていた。


 ほんとに何かに操られでもしてるんじゃない? ってくらい改めない。プライドの塊。


 でもよーく聞いてみて、わかったことがある。

 王子への独占欲が強く、恋敵になりそうな私が邪魔だった、みたいな理屈が根っこにありそう。

 以前から王子に近寄る女子に厳しく、それなら私に特に厳しい理由も納得がいく。


 ……確かに、最初も手を振る王子に微笑み返したら突っかかってきた気が。あいつが元凶か。近寄ってきたのあっちじゃん。自覚なさそう。


 あれ? 更生させるべきなのもしかして王子の方じゃ……これはまた今度考えよう。


 それで、クラリスはエスカレートしていって、王子にもタンカ切っちゃって、裏目に出まくってるけど引っ込みつかなくなってる、みたいな?


「まったく不器用なカップルねー」


 図書館の椅子の背に寄りかかる。


 無自覚に愛想ふりまくタイプと独占系女子。また王子がイケメンなのがタチ悪いわ。そりゃクラリスもああなる。

 うーん、自分たちで折り合いつけるには若すぎるかー。

 ……もはや出てくる感想がおばちゃんである。


 私も結果的に立場を利用させてもらっちゃってるからクラリスには悪いんだけど。いやあれだけやられたら悪くもないか。


「あれ? これって……」


 クラリスが断罪された悪役令嬢だと思ってたけど、これクラリスが不器用なだけだとしたら私が横取り聖女?

 ……ま、まあ、それもあと少しの間だけ。


 私はこれらをぜーんぶ解決する作戦を考えた。

 名付けて――


 『操られてたことにしてしまおう大作戦!』


「ふっふっふ、全ては私のゆるふわ生活のため」


 ちょーっとだけ強引かもだけど、全部丸くおさめてやろうじゃない。


 人は言ってもなかなか変わらない。「話せばわかる」は夢の話。社会人ならわかるだろうこの意味を。

 つまり。

 魔法を使ってやろうじゃないの。

 オトナの『魔法』をね!


 ……失敗したら逃げよう。地の果てまで。


 そういうわけで、近ごろはその準備のために召喚魔法と解除系魔法を学んでいる。

 みんなこの系統は難しいっていうんだけど、作者不明な魔改造エクセルファイルの運用・改善を押し付けられるよりよっぽど簡単。

 現代社会人の謎解きスキルをなめないでいただきたい。



 しばらくして、セシル様とセバスチャンさんに「確認したいことがある」と話を通し、クラリスお嬢様を呼び出した。


「何の用ですの? アナタから呼び出してくるなど。分をわきまえなさい!」


 相変わらずきっついなあ。

 んじゃ、失礼して。


ディスペル・マジック(魔法打消)! カース・パージ(呪い解除)!」


 問答無用で魔法をかける!

 クラリスの全身が魔法に包まれる!


「な、何を……」


 次!


「グランド・アブソリューシ(大いなる許し)ョン!」


「や、やめ……! きゃあああああ!?」


 巨大な白い炎に焼かれるクラリス。


 炎に見えるが、本来肉体には影響しない魔法。悪い何かがなければ効かないはず。悲鳴はびっくりしただけ。たぶん。


「お、おい、これ大丈夫なんだろうな……」


 セシル王子が不安そうに聞く。

 知らんがな。こんな失われた古代魔法、人に使ったの史上初だろうし。


 古い文献にあった失われた聖女専用魔法を私が復活させたのであった。


「大丈夫です、信じてください」


 清らかな笑顔で微笑む私。何をとは言わないのがミソである。

 昨日試したネズミは無事だったから嘘じゃない。


 さて、悪魔召喚、と。ほい。


 やがて炎が収まり――


 そこには横たわるクラリスと、立ち尽くす悪魔悪魔したナニカが!


 あ、突然のことすぎて悪魔キョドってる。


「おお! あの悪魔がクラリス様を操っていたに違いありません! フレア! ホーリー! アイス・ストーム!」


 用意しておいたセリフと共に魔法連打。


 ずぼぼぼぼん!


「ぐえあああああ!!」


 悪魔は跡形もなく消え去った。


「ご安心ください、危機は去りました」


「マリア……いや、聖女マリアよ、君はこのことを見抜いて……」


「神の祝福のあらんことを」


 テキトーなこと言って一礼してごまかす。


「う、うう……いったい何が……」


 クラリスが半身を起こす。


「さて、クラリス様に仕上げのための強力な魔法をかけます。お二人はお下がりください」


「わ、わかった」


 距離を取るセシルとセバスチャン。


「クラリス様」


 膝を折り、彼女を抱きしめる。

 カモフラージュのために回復魔法をかける。

 クラリスの身体が優しい光に包まれていく。


 遠目には聖女が膝をつき、慈愛に満ちた癒しを施しているように見えるだろう。


「な、ぶ、無礼な……」


 耳元で囁く。


「そろそろ決着させましょう――」


 私の『魔法』が始まる。


「あなたは悪魔に操られていた。それを私が解放した。だから素直でいい子のクラリス嬢に戻った。これでいいわね?」


「なにを……誰がアナタの指図など!」


「本当は王子に甘えたかったんでしょ? 今なら態度を改めても誰も変に思わない。私もあなたの恋路を邪魔しないわ。王子には貴女がお似合い。いい? これはチャンスよ」


 難航する案件に対し、落とし所を作ってコンセンサスを得る。これぞ交渉、オトナの『魔法』。


「それは……」


 今なら悪魔のせいにしてチャラにできる。拒否したら婚約破棄を覆すのも難しくなる。利害関係を理解したようだ。


 よし、クロージングだ。


「悪い話じゃないでしょ? チャンスは今だけ。この紙に名前書いたらおしまい。楽になれるわよ」


 すっ、と紙を出す。


     誓約書


 第一条 故意に他者の学園生活を妨害しない

 第二条 飲食物にいたずらをしない

 第三条 虚偽の訴えをしない

 第四条 王太子との婚約に復縁する

 第五条 聖女マリアの子分になる


 いずれかの条項に反した場合、経緯の全てを公開する。



 明文化と合意署名。

 つまり永続化と再発防止策。口約束は曖昧になる。


「こっ……この私が子分になどなれるわけないでしょう!」


 ふっ、かかった。


「ごめんなさい、そうよね、貴女の言う通りだわ。書きすぎました。そこは取り消させてください。それならいい?」


 釣り条項でさも相手の意を組んで譲歩したようにみせる技術、ドア・イン・ザ・フェイス。交渉の基本よ。

 私はさらさらっ、と線を引き修正箇所にサインをする。


「……っ」


 まだ何か言いたそうではあるが、私から受け取ったペンでサインをするクラリス。


 交渉成立。


 オトナの『魔法』、完了。

 あっちもこっちも万歳。これぞWin-Win。


 ……呼んで消し飛ばした悪魔だけ、すまぬ。


「ふ……ふん、このような事にセシル様まで巻き込むなど本来は言語道断。これはセシル様のためにアナタの顔を立てて差し上げる「貸し」ですからね!」


 はいはい、もうそういうことでいいです。


「わかったから、セシル様に甘えておいでなさい」


 遠目にこちらを見ている王子の方へ、クラリスの背中を押す。


 クラリスは、少しためらったものの、セシル様〜と言いながら王子の方にかけて行ったのだった。


 いやー、これでサイン拒否したら魔法で物理的に公爵家なくそうか? って言おうと思ってたんだけど、穏便に済んでよかった。

 めでたしめでたし。


   * * *



 まあなんやかんやクラリスは周りにもだいぶ丸くなりまして。操られていただけで彼女に罪はないということで、過去の悪事も不問として処理された。


 私は身を引き、もともと良い仲だった二人がモトサヤになるのに時間はかからなかった。


 あー、王子にも無自覚やめろって言っとかないとな。


 なんか婚約なくなって私が可哀想とか、悪魔を退治するとはさすが聖女様とかいろいろ言われてるけど、私としては大満足。


 ハッピーエンド、大団円! よくやった私!


 さーて、これでのんびり学園生活満喫できるぞー。


「じゃ、魔王討伐は来月な」


 例の神官が私の肩を叩く。


 は?


「ココ」


 といって出したのは変更済みの契約書。

 なになに?


「……ただし本変更は王太子との婚約・婚姻を前提とする。前提の不成立時は魔王討伐隊に参加することになる……だと……!」


 まさか、当該変更箇所と全然違うページの、しかも参照条項の脚注の別添参照先の更に別添に一行追加されてるとは……!


「じゃ、よろしく」


「こんなの、こんなの無効よー!!!」


 私の魂の叫びがむなしく神殿に響き渡ったのだった。



 余談――


 マリアはまだ知らなかった。


 婚約から逃げるために学び続けた自らの魔法が、もうこの世の誰よりも強力なものになっていることを。


 そして魔王を軽く捻って英雄として凱旋し、結果的に世界レベルの権力争いに巻き込まれていくことを――


 それはまた、別のお話。


 完。

はじめて投稿します!

お楽しみいただけたら嬉しく思います。

何か反応いただけたら超嬉しいです! よろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ