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第3話 涙から生まれた者
ラクリマは知っていた。
このままでは、ツェルバは救われない。
彼は、万物の記録を司る最高神であり、
時の支配者でもあるセトのもとを訪れた。
世界の頂に座すその絶対的な存在に対し、ラクリマは静かに頭こうべを垂れた。
「最高神セトよ、願わくば……。ツェルバ神の刻ときより、エリノッティ神との時間きおくを、永遠に消し去っていただきたい」
愛している限り、彼は死を憎み、己を責め続ける。
「死がただ悲しみのみをもたらすものではなく、魂の安らぎであることを。どうか、あのお方がその真理を悟られますよう、お導きください」
長い沈黙ののち、セトは沈黙を以て、それを許した。
彼もまた、銀の月の涙を見ていたのだ。
セトが指先で空くうをなぞると、ツェルバの人生から、
エリノッティと共に過ごした「時間きおく」だけが剥がれ落ちていく。
こうしてツェルバは、
名も、愛も、神であったことさえ忘れ、
深い眠りへと落ちた。
その傍らで、ラクリマはただ、静かに祈っていた。




