第2話 終わらぬ世界
ツェルバは嘆き、悲しみ、ついに“死を与えること”を放棄した。
その時代、世界から死が消えた。
誰一人、命を終えることができなくなったのである。
病は身体を蝕み続け、腕を失っても痛みは止まらず、
血を流し尽くしても、魂は朽ち果てる家を失い、闇の底でただ震えていた。人々は生きているのではなく、終わることを許されずに在り続けていた。
人々は生を祝えなくなり、やがて終わりを祈るようになった。
死は恐怖ではなく、苦しみから解き放たれるための安らぎだったからだ。
ツェルバの涙が零れ落ちた。
凍りついたその雫は、やがて形を持ち、
ひとつの存在となって地上に現れた。
名を、ラクリマといった。
それはツェルバの悲しみが生んだ化身であり、
神が手放した役目そのものであった。
見かねたラクリマは、主に代わり、終わりを与え始めた。
彼が触れるとき、永遠に続くはずだった痛みは、
静かな雪解けのようにほどけていったという。
彼が終わりを宣告するたび、止まることのなかった苦しみは解かれ、
世界から一つずつ悲鳴が消え、静かな祈りが捧げられた。
人々は涙を流しながら、感謝した。
その祈りだけが、壊れかけた世界を辛うじて繋ぎ止めていた。
それは、神が忘れた最後の慈悲であった。
※「ラクリマ(Lacrima)」ラテン語で「涙」を意味します。




