第八夜
「今日から修復の材料が集まるまで草むしりをする。昼頃には寝かせてやるからせめてそれまで働け。」
チャーリーは死神時代に着ていたシャツとパンツに、教会に置いてあった長靴を履いてオリバーと共に教会を覆う草を除去することになった。朝から元気そうなオリバーとは裏腹にチャーリーは面倒くさそうに小さな雑草からむしっていく。姉のためであるから頑張らなくてはならないが、少々面倒くさがりな性格もあり作業態度は気だるげだ。しかしあるものを見つけそちらの方へ移動した。
オリバーは教会に置いてあった小型の鎌で草を切り取っていきスコップで深くまで張った根を掘り起こした。五年そこらじゃここまで成長しないような草木が鬱蒼と生えており、大分時間がかかるなと腰に手を当てて辺りを見渡した。
まずは厄介な教会の裏手に生えている雑草を今日のうちにある程度片付けてしまおう。そうして再び鎌を握りしめて雑草に立ち向かっていった。チャーリーが持っている大鎌があれば作業が楽になるだろうか。しかしあいつを頼るのは癪に障ると、地道に草を抜いていく。
「オリバーくん!」
すると後ろからチャーリーの軽快な声が聞こえてくる。この声はどうせくだらないことを企んでいるに違いない。オリバーは無視して作業を黙々と進めていた。すると頭上から色とりどりの花々が降ってきた。
「なっ!」
オリバーは驚き振り向くと満面の笑みを浮かべたチャーリーが雑草の花をオリバーに振りかけていた。
「早速サボってんじゃねえよ!しかもここは綺麗にしたばかりなのに汚して。」
「でも綺麗でしょう?雑草でも花は美しいものだよ。姉さんには手向けられないけれどね。そうだ、今度街で花も買ってきてくれよ。ちゃんと花言葉も考えてね。」
そう言って赤い小さな花を愛おしそうに眺めるチャーリーは、朝日を浴びてキラキラと美しく見えた。
元から中性的な見た目だが、伏目がちな目は時に妖しくたまに見開いた時に見せるまん丸な瞳は無邪気で愛らしい。肌は透き通るように白く、鼻はつんと上を向いており唇は薄くほんのり色づいている。長い黒髪も艶があり日光を受けいつも以上に輝いている。いつもの修道服とは違い、細身のシャツにハイウェストのパンツのせいで細長い体がさらに際立っていて今日はなんだか目のやり場に困った。
改めてチャーリーの容姿を日の下でしっかりと見たオリバーは、その容姿の美しさについ見惚れてしまった。しかし相手は男だと気づきすぐに作業を始めようとする。
「どう?綺麗じゃなかった?」
チャーリーは作業するオリバーの顔を覗き込もうとするもオリバーはそれを押し除ける。
「うるせえ。お前も早く向こうへ行って作業しろ。」
オリバーは下を向いたまま教会の入り口の方を指差した。チャーリーはつまらなさそうに指さされた方へ向かっていった。
しかしチャーリーがいなくなった後でも、あの花に対する愛おしそうな視線が頭から離れず、ガリガリと頭を掻きむしるオリバーであった。
「オリバーくん!こっちは終わったよ!」
昼近くになりヘロヘロになったチャーリーはオリバーに倒れ込む形で寄りかかってきた。オリバーは先ほどのこともありぐいと距離を取らせる。
「なんだお前雑草抜いたことないのか?こんなんじゃまた生えてくるぞ。」
チャーリーが作業をしたところを見にくると、まだ根が残っている状態でオリバーは溜め息を吐く。
「裏手は時間がかかりそうだから今日はここの残りをやっておく。お前はもう寝ろ。」
オリバーはしゃがんでスコップで根を抜き取ろうとした時、目の前に白い細かな花が集まった植物が現れる。オリバーはそれを見てチャーリーを見上げる。
「クイーンアンズレース。雑草だけど綺麗だろう。君にあげるよ。食べるんじゃないよ、綺麗であっても雑草だからね。」
「食わねーよ!」
「そう?それじゃあおやすみ。」
チャーリーは薄い唇を少しだけ上げると修道院の中に入っていった。オリバーはチャーリーからもらったクイーンアンズレースをしばらく見つめると、舌打ちして生けるために厨房に入れ物がないか探しに行った。
「すごいじゃないか!大分綺麗になった。」
起きたチャーリーは教会の入り口の雑草がなくなっていることに気づきぴょんぴょんと飛び跳ねた。
「まだ裏手と修道院と墓場は雑草だらけだけどな。早く綺麗にしないとここから出ていけない。」
「まあまあそんな焦らないで気長にやろうよ。」
「お前はもっとしっかりやれ。」
オリバーが怒るもチャーリーは気にせず嬉しそうに教会を見渡す。それを見てなんだか気の抜けたオリバーはつい笑みをこぼした。
「でもこの作業が終わったらオリバーくんとさよならなんて寂しいな。だんだん仲良くなれてきたと思っているのに。今日あげた花だって飾ってくれただろう?僕は嬉しいんだ。ここでずっと一人だったから。」
チャーリーは視線を下に向けポツリと呟いた。しかし我に返りすぐさま「なんでもない」と誤魔化す。
「仲良くだ?そんなつもりはないね。」
しかしオリバーは面倒くさそうに返すだけだった。それでも姉の世話だけの日々に新しい色が加わり毎日が楽しいのはチャーリーの本音だった。
「君は素直じゃないね。それじゃあおやすみ。」
そう言ってチャーリーは墓場に出かけて行ってしまった。
「明日もやるからな。サボるんじゃねえぞ!」
チャーリーの後ろ姿にオリバーは忠告を投げかけた。
本当はオリバーも今の生活が苦ではない。今まで自分の親を探すことに必死であったのに、今はそんなことを忘れて生活できている。それはいつも飄々としているチャーリーのおかげでもある。彼と一緒にいると素のままの自分でいられる。未だ謎は多く残る男だが……しかしそんなこと口が裂けても本人には言えない。オリバーは今日の夕飯を作るために修道院へと帰って行った。
クイーンアンズレースの花言葉→感謝、可憐な心




