第六夜
「それで!お前の姉さんの情報は?教会なんだから死者の情報も残ってるだろう!」
チャーリーがベッドに入ろうとするも、オリバーはしつこくオリビアの情報を欲しがる。情報はあるにはあるが、死神が所持するエンディングノートというもののため見せられない。教会にも記録は残っているが没年がバレてしまうためチャーリーは再び嘘を吐くことにした。
「僕がここに来た時にはもう教会は廃れていてね。資料ももぬけの空だったよ。残念だったね。」
チャーリーがそう言うとオリバーは俯いてしまう。なんだかその姿が哀れというか可哀想に映り、チャーリーは溜め息を吐いた。
「わかった。姉さんの情報は教えてやる。君、字は読めるかい。」
「少しだが読めるぞ。」
「じゃあ後でまとめておくから、教会の雑草抜きでもしててくれ。」
「命令されるとやる気でねぇな。」
「通報しても良いのか。」
「わーかったよ。」
オリバーは渋々教会の方に向かって行った。チャーリーは眠りはしないが目を閉じオリビアの記憶を蘇らせていた。
オリビアは昔から優しい人間だった。チャーリーとオリビアは五つ離れた姉弟だった。気弱なチャーリーはいつも姉オリビアの影に隠れ、オリビアはその弟の頭をいつも愛おしそうに撫でていた。それが心地よく、つい自分でもできることを甘えてオリビアを頼ることがしばしばだった。
そしてオリビアは信心深かった。いつも祈りは欠かさずにしていた。修道女になるには相応しい女性であった。この世界では常に信心のある者と、神を否定する魔族で争いが行われていた。オリビアはそんな争いを鎮めたいといつも語っていた。
ある日チャーリーは原因不明の高熱にうなされた。そのせいで左目の視力と左耳の聴力が弱い。結局その時は奇跡的に生き延びたが二十代で流行病で死んでしまった。死んで死神になってもそれは変わらず、高い身体能力を身につけても左側から現れるオリバーの気配には気が付けず驚くことがある。
後遺症の残ったチャーリーを哀れに思ったのか、ある日突然オリビアは修道院に入ることを決意した。まだ若く結婚だって夢見ていたのに彼女の決意は堅かった。
修道院に入った彼女はイキイキしていた。最初はチャーリーは自分のせいで不憫な思いをしていないか心配していたが、毎日の生活が楽しいと手紙を送ってくれた。それなのに悲劇は起きた。
戦時中、魔族の領地に近かった教会は真っ先に襲われた。オリビアはその時の被害者でこの地で亡くなった。チャーリーがこの教会に訪れることができたのは戦争が少し落ち着いてからだった。あんなに優しくて可憐だった彼女は荒れ果てた教会の裏の荒れた土の下で眠っていた。こんなのオリビアには似合わない。自分が家業など継ごうとせずに兵役してここを守れていれば。しかしこんな弱い体では到底彼女を守れなかっただろう。この状況にチャーリーは涙さえ流れなかった。ただ後悔ばかりが深く根付くだけであった。
自分が死んでからのことはあまり覚えていない。気がつけば自分は死神の世界にいた。どうやら人の魂を秤るのに相応しいと見なされた者は神格が貰え死神として生きるようだ。しかしそんなの嬉しくはなかった。もう二度と生きている姉に会うことはないのだから。きっと善い行ないをしてきた姉のことだ。今頃転生して幸せに過ごしているだろう。自分は転生などできない立場故それだけを願って日々仕事に励んでいた。
そんな時だった。たまたまオリビアが眠る教会の近くに死者が出たというので魂を回収しに行くついでに、この教会を訪れた。すると驚く光景が目に入った。青く輝く満月の下でオリビアがあの頃と変わらぬ姿で、おぼつかない足取りなもののくるくると動いていたのだ。それを見た瞬間オリビアが生き返ったのだとチャーリーは思った。一目散に彼女の元に行き名前を呼んだが反応はなかった。死んでいることは間違いないようだ。しかしなぜか死体が動き回っている。チャーリーはオリビアを抱き寄せると静かに墓穴に還した。
その後も度々教会へ行くが変わらずオリビアは夜のうちに動き回っている。人間に危害を与えるわけでもなくうろうろと。それからチャーリーは夜になると死神の世界を抜け出してオリビアの世話をするようになった。退屈な死神生が退屈ではない毎日に変わったのだ。
ここでチャーリーは目を開けた。もうすぐ夕方なのだ。厨房からはオリバーの作る食事の香りがする。チャーリーは着替えて厨房へと向かった。




