第五夜
「今日は大人しいんだな。」
チャーリーが起き上がったオリビアの遺体を丁寧に整えていると、眠れないのかオリバーが様子を見にきた。
「あれは君がバンバン銃を撃つから、姉さんも驚いてしまっただけだよ。普段は墓穴から這い出してくるだけさ。」
「いやそれでも十分不思議だ。それにしても綺麗なままだな。最近亡くなったのか?」
「いや。亡くなったのは戦時中だよ。」
「は?」
しまった。思わず本当のことを言ってしまった。とチャーリーは心の中で慌てるも、すぐに取り繕う。
「冗談だよ。五年前くらいかな。」
「五年?そんな経っていたらもう骨だぞ?」
「理由があるんだ。」
理由と聞いてオリバーは聞きたそうにチャーリーを眺める。チャーリーは面倒臭いことになってしまったと思いつつも、嘘を盛りつつ話し始めた。
「僕も最初は驚いたよ。だけど魔族というか、アンデッドに詳しい友人がいてね。話を聞いたんだ。アンデッドとは生への執着が強いとなるんだ。そうすると魂も浄化されにくくて肉体を保持したまま生きている人間を襲う。人の魂を取って自分の魂を完全体にさせたいんだろう。無理な話だけどね。でも姉さんは少し違う。執着の対象が生ではない。何か生前に未練があったんだ。だから浄化されていない魂の量も少ないから人は襲わない。門番にも相談はしてあるんだが問題ないとされて僕が責任を持って見守っているんだよ。」
「そうなのか。」
嘘と本当のことを織り交ぜたのでオリバーはすっかり信じたようだ。アンデッドの仕組みは本当のことだ。今は魂の回収も強化されておりアンデッドは存在しない。しかし魔界には悪魔が作り上げた偽物の魂を持つ者が歩き回っているようだが。
「でも僕は姉さんが何を未練に思っているかわからないんだ。この教会でも清廉潔白な修道女として有名だったし。とても何かに執着するような人だとは思えない。」
「でも修道女だろ?神みたいに私欲が全くないわけじゃない。」
「姉さんはそんな人じゃない!」
「でもこうして動いているだろう!」
大切な姉を貶されたと思いチャーリーはついムキになってしまったが、オリバーの一言で冷静になる。しばらく沈黙が続き、チャーリーはオリビアの髪を梳かしながらあることを思いついた。
「そうだ!君に新しい仕事をくれてやろう!姉さんの未練を探すのを手伝ってくれ!」
いつもは伏目がちな瞳を大きく見開いてチャーリーはオリバーに頼み込んだ。しかしそれはすぐに却下される。
「条件は教会の管理だけだろ。それ以上は条件から外れる。それに自分の姉だろ?お前がよく知っているはずだ。俺には関係ない。」
「そんな。待ってくれよ!」
しかしオリバーは黙って修道院の中に入ってしまった。
修道院に入ったオリバーは違和感を感じていた。先ほどチャーリーが、オリビアが亡くなったのは五年前だと言っていたが、この教会は至る所に弾痕が残っている。この教会が機能しなくなったのは本当に戦時中なのではないだろうか。しかし戦争はもう五十年前に終わったものだ。そうなるとチャーリーはいくつになる。二十代に見えるため辻褄が合わない。そうなるとこの教会は戦争後も生き延びてつい最近廃れてしまったのだろうか。それにしてもチャーリーには謎が多すぎる。オリバーは考えることに疲れベッドに横になるとすぐに寝息を立て始めた。
「おいお前!お前の姉さんの情報を教えろ!」
墓守の仕事を終え修道院に戻ってきたチャーリーをオリバーは待ち伏せしてすぐに言い放った。チャーリーは目を丸くしてその場に立っている。
「急にどうしたんだい。昨日は嫌がっていたのに。痴呆の始まりかい?」
チャーリーが揶揄うとすぐにオリバーの拳が飛んでくる。
「そんなんじゃねえ!お前の姉さんが動かなくなれば俺もここの秘密を言いふらす必要がねえ。そうなるとここでお前と暮らさなくても良いわけだ。お前も姉さんの魂が浄化されて安心だろう。」
どうだ。と自信満々にオリバーは言い放つ。しかし昨日と打って変わってチャーリーはやる気がなさそうだ。
「僕も昨日はあんなこと言ったけど、やっぱり姉さんの未練なんて思いつかないよ。そう簡単に行くとは思わないけど。」
「お前一人ではできなかったかもしれない。でも今は俺がいる。必ず見つけ出してやるさ!」
そう言ってオリバーは修道院の中へ入って行ってしまった。それをチャーリーは不思議そうに眺める。
「姉さんの謎も解きたいが、せっかくの暇つぶしがいなくなるのは……」
ここではたと考え込む。今自分は何を言いそうになった?まさかオリバーがいなくなるのは寂しいとでも?チャーリーは少し悩んだ後そっと微笑んだ。




