第四夜
まだ太陽が昇らない時間。チャーリーが墓守の仕事を終え修道院に戻ろうとすると、猟銃を持ったオリバーが出ていくところを見かけた。まさか逃亡してこの墓の秘密をバラしにいくのか?とチャーリーは隠れながらもオリバーの背中を見送った。そして教会の前に立ちオリバーが帰ってくるのを待った。
死神に睡眠は必要ない。眠っていたのはオリバーに人間ではない何かだと疑われないためにも寝たふりをしていただけである。
しかし一人だった頃は、夜は墓守という仕事があるが、昼間の間は人前にも出られないため退屈で仕方がなかった。教会にある聖書や本はとっくに全て読み尽くしてしまいさらに退屈した。そんな時オリバーが現れたものだから、暇を潰すには最適だと思っていたがどうやら相性が悪いらしい。
チャーリーは元々自由な性格をしているためオリバーを揶揄うことが多々あるが、オリバーはそれが癇に触るらしくすぐに暴力を振るおうとする。そんな反応も面白いと言えば面白いが、こうも拒否されると近づき難い。
チャーリーは教会の周りに生えた雑草をいじっているうちにすっかり昼近くなり、足音と共にオリバーが帰ってきたのが見えた。どうやら逃げたわけではないようだ。
「なんだお前。起きてたのかよ。」
オリバーは何かを抱え、起きていたチャーリーを見て驚いた顔をしている。
「なんだではないよ。君はてっきり逃げ出してここを通報しに行ったんじゃないか心配していたんだ。」
「それなら探しに出れば良いだろう。こんなところで待っていないで。」
いかにもだが人前に出られないなどと口が裂けても言えないためチャーリーは押し黙った。するとオリバーが抱えていたものが目に入る。それは三匹のうさぎの亡骸だ。
「ちょっと君!なんだいそれは!」
「何ってうさぎだよ。お前の金ばかりにあやかるのも癪だし、捌いて街に売りに行こうと思ってな。」
「はー。この小さな魂を取るのにも大変な労力がかかるというのに人間は……神もなぜ人間に小さき生き物を与えたのか。」
「さっきから何を言っているんだ。血の一滴も無駄にしなし感謝するのだから神に反したことは何もしていない。俺は裏で捌いてくるから寝てろよ。」
自分が言いたいことはそうではなくてと反論しそうになったが、余計なことまで言いそうになったためチャーリーは修道院に向かっていった。
「あ。そうだ。」
何かに気がついたオリバーは急に駆けていきチャーリーの左手を掴んだ。突然のことでチャーリーは驚き体を震わせる。
「お前ちょっとこい。」
そう言われてオリバーはチャーリーの左手を引っ張っていった。
着いた場所は厨房だった。オリバーに座るように指示されチャーリーは大人しく座る。
「ねえ。一体なんなんだい。」
「お前、飯食ってねえだろ。俺が作り置きしておいても減っている様子がない。食べているところも見たことがないしな。」
オリバーの言葉にチャーリーはギクリとした。死神は食事を摂らない。摂る必要がないのだ。そもそも死神になってから味覚は失うし食べたとしてどうなるかわからない。
「た、食べてるよ。君が知らないところでね。食べているところを人に見られたくないんだ。それに毎日死体を見る仕事だろう。食欲だってなくなるさ。」
チャーリーは苦し紛れの言い訳を連ねたがオリバーは不審そうにチャーリーを眺めている。
「だからお前はそんなにガリガリなんだな。男ならもっと筋肉をつけろ。あんなでかい鎌もよく振り回せるな。」
「放っておいてくれよ!僕は死ぬ前……以前から肉が付きにくい体質なんだ!」
「あーもう黙ってそこで座って待ってろ!」
オリバーは面倒臭くなったようで後ろを向いて何かを作り出した。チャーリーはそっとその場から立ち去ろうとしたもののオリバーに見つかり、座らされてしまう。チャーリーも諦めがついたようで大人しく料理ができるのを待った。
次第に良い香りが立ち込めてくる。小窓から入る昼間の日光がオリバーの赤茶けた髪に当たりキラキラと光っていた。なんだかこの光景を見ていると落ち着くような気がする。死ぬ前もこんな風な光景を見たような。そうだ。オリビアが自分に料理を振る舞ってくれた時だ。懐かしがりながらチャーリーはオリバーの背中を見つめる。
「ほら。できたぞ。」
机に頬杖をしてぼーっとオリバーのことを眺めていたら、急に振り返り食器をチャーリーの目の前に置いた。
「食べてない時は消化に良いものが良いと思ってな。キャベツのスープだ。少しでも食え。」
ほら。と促されてチャーリーはおずおずとスプーンを取る。オリバーが見つめる中、そっと一口分すくい口に入れた。思っていた通り味覚は感じない。しかしなんだか懐かしいような温かいような気持ちになった。そしてそれが美味しいということだとわかった。
「美味しい……」
思わず口から言葉が出る。
「だろ?」
するとオリバーは初めて笑顔を見せた。初めは平凡な顔だと思っていたが、切れ長の目が笑うと瞳が隠れることを知る。眉毛も太く、眉間にくしゃっと皺が寄っている。なんだ全く平凡ではないではないか。こんなにも健康的で美しい笑顔を見せる人間は姉さん以外初めて見た。チャーリーはオリバーの笑顔を気に入った。次にこの笑顔を見れるのはいつだろうか。
「僕はオリーブの木に縁があるみたいだね。」
「なんの話だよ。」
「なんでもないよ。」
そう言うとチャーリーはスープをもう一口口にした。




