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第ニ夜

「オリバーくん。オリバーくん起きて。」


 オリバーが声を頼りに目を開けると知らない光景が広がっていた。ここはどこでどうやってここに来たか。寝ぼけた頭で考え、オリバーは昨夜、墓荒らしに入った後修道服を着た男に教会の手入れをするように頼まれたのを思い出した。そしてここは教会のすぐ隣に併設された修道院のベッドの上だ。思い出したオリバーがぱっちりと目を開くと、長い美しい黒髪をした人物が自分を覗き込んでいた。


「うわっ!」


 オリバーは驚いてベッドから起き上がる。


「人の顔を見て飛び起きるなんて失礼だな。」


 その者は不機嫌そうにオリバーを見下ろしている。この人物は誰だ。昨日の男に似ているが、顔が中性的なのと長髪なせいで別人の女性にも見える。しかし声は男だ。


「お前は、チャーリーか?」

「まだ寝ぼけているのか。そうだよ。」

「女なわけないよな。」

「何を言う。れっきとした男だ。」


 そう言って着ていたナイトシャツの裾を捲り下半身を見せつける。下着は履いているものの、その膨らみからは男だ。


「いきなり変なものを見せてくるな!お前は裾がひらひらしたものが好きなのか?修道服やらナイトシャツやら……大体修道服なんか神聖なものを男が着るな」


「ふんっ。敬意は持っているのだから良いだろう。しかもこれは修道服は姉さんの遺品だ。姉さんを想っている弟の僕が身につけていても良いじゃないか。後、そこはこれから僕が眠るのだから早く退いてくれ!やっと姉さんを縫い付け終わってクタクタなんだ。あ!君、昼間の格好で寝ただろう。ベッドが汚れるだろう!」


「うるせえ!俺は生まれが貧乏なもんでね。この格好の方が落ち着くんだ。それより修道院なんだから他にもベッドはあるだ……」


 無理やり起こされたオリバーは他の場所で寝ろと言いたいところだったが、辺りを見回すとボロボロになったベッドしか見つからなかった。自分も昨日このベッドしか見つからなくてここで眠ったのを思い出す。オリバーは舌打ちをしベッドを空けた。


「野郎と同じベッドかよ。」

「僕だって嫌だよ。だが我慢してくれ。あと、街に出て必要なものを買ってきてくれ。」

「なんで俺が。逃げられても良いのか。」

「居候させてあげているんだからそれくらいしろ。業務の一つだ。逃げたら昨日のことを通報する。それに、行商がつい最近死んでここには何もないんだ。昼間のうちに君以外買ってこれる奴はいないだろう?僕は寝ないとやっていけないんだ。」

「金は。」

「ちゃんと渡すから待て。盗人には金のありかは教えないからな。」


 そう言ってチャーリーは部屋を出ていき、しばらくして金を持って現れた。


「お前、墓守しかしてないしこの教会だって廃れてるのになんで金があるんだよ。」

「昔商売していてね。貯金があるんだ。一銭だってやらないけれどね。」


 金を渡し終えるとチャーリーはさっさと布団の中に潜り込んでしまった。オリバーは頭を掻くと面倒臭そうに街に出た。

 

 夕方、チャーリーは目覚める時間を感じ取り目を開けると、何やら食べ物の香りが部屋の奥からしてきた。食べ物の香りなんて何年ぶりだろうと、のそりと起き上がり香りのする方へ向かう。するとかつて厨房だった場所でオリバーが釜戸に火をおこし料理をしていた。


「おー。起きたか。」

「何これ。君、料理なんてできたの。」

「まぁな。食べるか?」

「あとでいただくよ。」


 チャーリーは厨房に置かれたテーブルに腰掛けた。そして料理をするオリバーを眺める。


 オリバーは人間らしく灰色の瞳をしていて、平凡な形をしていた。鼻も口も平凡。髪色は少し赤茶けていてボサボサに伸ばしている。体格が良く背も高い。オリビアと同じ意味の名前だからと言って興味を惹かれたものの、美しい姉と似ているところなど一つもなかった。チャーリーは思わず溜め息を吐く。


「人の顔を見といて溜め息吐くなよ。」


 オリバーは自分の分の食事を並べて不満をこぼす。


「溜め息だって吐きたくなるさ。なんでこんな男臭い男をここに入れなきゃならないんだ。昨日の自分はどうかしてた。」

「そんなこと言うなら動く死体の噂を広めるぞ。」

「そういえばどうして君は墓荒らしなんかしていたんだい?持っていた銃からして猟用だ。君は猟師だろ?相当金に困っていたのかい?」


 チャーリーはオリバーの脅しをかわして、オリバーが墓を荒らした理由を問いただした。オリバーは自分の話を流されたため何か言い返そうとしたが口を閉じた。そして自分の首から赤い石のついたペンダントを取り出す。


「俺はこれを探している。俺は孤児だ。俺の生い立ちを知るためには母親がつけていた同じペンダントを探す必要がある。」

「それで墓荒らしを?もう亡くなっているのかい?」

「調べているうちに、同じペンダントをつけた女性がこの辺りで亡くなったと聞いた。でも名前まではわからなかった。だからしらみつぶしに探しているんだ。」


 オリバーは赤いペンダントを握りしめる。チャーリーはその姿を静かに眺めていた。


「北の墓地には行ったかい?」

「は?」


 チャーリーの突拍子もない発言にオリバーはつい聞き返してしまった。


「北の方に管理されていない墓があるんだよ。そこへは行ったかい?」


 オリバーが聞こえていなかったと思ったチャーリーはもう一度丁寧に説明した。しかしオリバーが聞き返した理由は聞こえなかったわけではなく、墓守らしからぬ発言だったからである。


「お前、自分が何を言っているかわかってんのか?お前も墓守だろ?墓守が墓荒らしを提案するなよ。」

「よその墓なんて知らないね。うちだけが守られれば良い。でも捕まるなよ。」


 チャーリーの飄々とした言い分にオリバーは拍子抜けして瞬きをする。そして一つ息を吐いた。


「なんかもうどうでも良くなっちまったな。昼間はここの管理もしないとだし探す時間がねぇよ。」

「意味がわからない。夜探せば良いだろう。」

「いいや。俺もそろそろこんなものに執着するのもやめようと思っていたんだ。お前に捕まったのが良いきっかけだ。」


 そう言ってオリバーは食事をガツガツと頬張り出した。それを見ていたチャーリーはまだ腑に落ちないといった表情を浮かべていた。今まで必死に手掛かりを探し、墓荒らしまでして自分というもの見つけようとしていたのに、それをそう簡単に手放せるものなのだろうか。墓に眠る姉はいつまでも生前の未練から逃れられずに彷徨っているというのに。人間がそう簡単に執着心を捨てられるはずがない。オリバーだってきっとそのうち墓荒らしを再開させるだろう。


 陽も傾いてきた。チャーリーは食事に手を付けず部屋に戻り、修道服に袖を通す。そして大鎌を持って墓場へと向かった。


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