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第十三夜

「オリバーくーん!部屋の掃き掃除終わったよ!」

「じゃあ墓場の落ち葉を集めるから手伝ってくれ!」


 チャーリーは修道院の窓から無邪気に手を振ってきた。チャーリーは最近変わった。昼間は眠らなくなったし、食事も摂る様子を完全に見せなくなった。何も隠そうとしなくなった。きっと変なところが良いところと二人で認め合ったからだろう。だからそれをオリバーも不思議に感じなくなったし、問い詰めようとも思わなくなった。もうそれが二人の普通になったのだ。そしてもう一つ変わったことがある。


「オリバーくん寒いー!」


 チャーリーは当たり前のようにオリバーの片腕に絡みつく。いつからかチャーリーはスキンシップが増えた。その度にオリバーは何故か胸が高鳴る。今までなら引き剥がしていたが今は嫌な気はしない。


「ああもう近い!」

「だってオリバーくんあったかいんだもの。」


 そしてなおも腕を組む力を強める。オリバーも口では文句を言うもののそれ以上拒まなかった。


 もう季節は秋になる。墓場の裏手に生えている木々は枯れ葉になり墓場の地面を赤や茶色に染めていた。今日はその落ち葉を集める作業を終え修道院に戻ろうとした。


「明日はどこを掃除しようか。」


 チャーリーは再びオリバーの腕を掴み話しかけてくる。しかしオリバーはこの修復作業が終わりオリビアの魂が浄化されてしまえば自分がここにいる理由がなくなるため、少しでも修復作業を遅らせたかった。何故だかはわからないがもう少しこの場所にいたかったからだ。


「いや……明日くらいは休んでもいいんじゃないか。たまにはゆっくり過ごすのも。」

「うん。僕も同じ気持ち。」


 そう言ってチャーリーは頬を染め目を細めて笑う。その顔を見てオリバーもつられて頬を染める。するとチャーリーは何かに気がつき腕から離れて駆けていった。


「オリバーくん、これ草むしりの時に切らずに残しておいてくれたんだね。」


 チャーリーは教会の表に生えている一本の木を見上げながら大切そうに撫でている。


「あーなんか切っちゃ不味そうな雰囲気をしていたから取っておいたんだ。それなんの木だ?」

「これは君と姉さんの名前の由来のオリーブの木だ。平和の象徴で強くて本当に姉さんみた……」


 チャーリーが言いかけた時、オリバーはチャーリーの肩に顔を埋めた。あまりにも急な出来事でチャーリーは慌てて手をばたつかせた。


「オリバーくん!?どうしたの……」

「お前は姉さん姉さんって。名前の由来が同じだからって、たまにはお前の姉さんと俺を比較しないでくれ。今目の前にいるのは誰だ。」

「あ、え、ご、ごめんね!オリバーくんも良いところいっぱいあるよ!ほら、オリーブの木みたいに強いし、料理もできちゃうし手先も器用だ。君といると楽しいし気が楽。その赤茶色の毛も太陽に当たると綺麗だなって思ってたし、それに……」

「もういい……」


 するとオリバーは顔を赤くして肩から上げた。いつも切れ長で力のある瞳が弱々しく、眉も垂れ下がっていた。そんな顔見たことがなくチャーリーは愛しさで胸がはち切れそうになった。そして自分の胸に引き寄せようとした時、オリバーはそれをかわし修道院へと向かってしまった。遠ざかる足音を感じながらもチャーリーは立ち尽くすしかできなかった。


「どうしちゃったんだ……オリバーくん……」


 一方その頃オリバーも修道院の寝室に着くや否やベッドに倒れ込んだ。チャーリーの姉に対し嫉妬してしまうなんて。相手は身内だ。しかしあまりにもチャーリーが姉のことばかり話すものだから腹が立ってしまったのである。何故だろうか。なぜこんなにも腹が立つのかオリバーの中では答えが見つからなかった。


 


「そっちの拭き掃除終わったか?」

「うん!今終わったところ。」


 今日ついに教会と修道院と墓場の修復作業が終わった。外壁の修復は材料が集まらず断念したが、長年の埃や蜘蛛の巣が溜まり白くなっていた室内はピカピカに拭き上げられ、ボロボロに半分崩れていた家具類はオリバーの手によって綺麗に新しいものに作り替えられた。墓場も埋葬者のリストがないため墓標だけ綺麗なものを建て、雑草の一つもない美しい墓場となった。


「ありがとうオリバーくん。昔のここに戻ったみたいだ。姉さんもきっと喜ぶはず。」

「お前だって不器用なりに頑張っただろう。俺だけじゃないさ。」

「ふふ。今夜早速姉さんに見せてみるね。」

「あぁ。」


 そうしてチャーリーは夜が訪れるのを待った。


 

 夜。今日は新月で辺りは真っ暗だ。チャーリーは起き上がったオリビアを抱え、魂を回収するための大鎌を背負い教会の中に入っていった。教会に入ると一番後ろのチャーチチェアにオリビアを座らせ、チャーリーもその隣に座った。


「姉さん見てごらん。あの頃と同じ教会だ。と言っても僕は生きているうちは数回しか来た事がなかったけれどね。この椅子もボロボロだったのにオリバーくんが作り替えてくれたんだ。あそこのステンドグラスは僕が拭いたんだ。不器用でも掃除は得意だからね。ね、姉さん。」


 チャーリーは隣にいる姉の方を見る。きっと動きを止めて眠るように静かに座っているだろうと期待を込めて。しかしオリビアは尚も手足をくねらせて全く動きを止める様子はなかった。


「ね、姉さん?教会は綺麗になったんだよ?なのにどうして動き続けているの?」


 チャーリーはオリビアに話しかけるもついにオリビアは椅子からずり落ちてしまった。チャーリーは無表情でオリビアを抱き上げると、いつものように墓穴に戻した。

 



「ダメだったよ。」


 オリバーが目覚めると悲しそうな顔をしたチャーリーが目に飛び込んだ。そしてチャーリーはオリバーの腹部に顔を埋める。


「何がいけなかったんだ。オリバーくんのおかげで完璧なはずなのに。一体姉さんは何に執着している。」


 チャーリーは布団をぎゅっと握り震えた声で呟くも、頭をオリバーの大きな手が包んだ。


「お前の姉さんについてなんて、教会のことばかりじゃないだろう。弟のお前がよく知っているはずだ。まだ他にもあるってことだ。大丈夫。また探そう。」


 何故だろう。あんなにも落ち込んでいたにも関わらずオリバーの言葉で元気付けられている。チャーリーはそっと顔を上げるとオリバーに微笑みかけた。するとオリバーも目尻に皺を寄せて微笑んだ。

 


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