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第十ニ夜

「なんだこれ!足の踏み場もない!」


 墓守の仕事を終え寝室に帰ってきたチャーリーは、床一面に広がる木材に驚き目を丸くしていた。するとそこに工具を持ったオリバーが現れる。


「今日はベッドの修復をするぞ。寝具は高くて揃えられないが形だけでも綺麗になれば良いだろう。ほら。お前の分のトンカチ。」


 チャーリーはトンカチを手に持つと、いつもは気だるげそうに作業を始めるのに何故か今日はイキイキしている。


「オリバーくんみくびるなよ!僕は靴屋の跡取り息子だったんだ!トンカチの扱いなんて朝飯前さ!」


 チャーリーは生前実家の家業を継いで……と言ってもまだ見習い段階だったが靴屋として働いていた。それを聞いたオリバーは意外そうな目をしている。


「へー。雑草は抜けないし料理もできない不器用なお前でも手に職持っていたんだな。じゃあ俺は押さえておくから釘打ち頼む。」

「任せろ!僕の職人技に惚れるなよ!」


 そう言ってチャーリーは釘目掛けてトンカチを振り下ろすも、見事に釘を押さえていた指に打ち付けてしまうのだった。

 



「なあ落ち込むなよ。久しぶりにやれば腕だって落ちるさ。」


 珍しくオリバーはチャーリーを励まし冷やした手拭いを渡す。しかしチャーリーは部屋の隅で膝を抱え込んで落ち込んだままだ。


「僕は本当に靴職人だったんだ。まだ見習いだったけど、今よりは道具を扱えていた!」


 チャーリーは思い起こせば実家を継ぐと決めた日から父に弟子入りしたものの、生まれつきの不器用さで父を困らせてばかりだったことを思い出す。そして余計に落ち込んだ。チャーリーはいつもオリビアになんでもやってもらっていたため、自分で何かを達成させた経験がない。この教会の修復もだ。ほとんどオリバーの力でなんとかなっている。姉のために頑張ると決めたのに何もできない……


「僕は何もできないやつだ……いつも君任せで申し訳ないよ……オリバーくんはなんでなんでもできるんだ……料理に大工仕事に……悔しい。」

「そんなことねえよ。俺は農家で貧乏だけど養父が厳しくて色々教え込まれただけで。じゃあ次は抑える方をやってくれ。俺一人じゃできないことだ。お前の力が必要だ。」


 オリバーが励ますとチャーリーは顔を上げる。


「まだ見つかってないだけだ。きっとお前にできることが見つかる。」

「オリバーくん……」


 チャーリーはみるみるうちに瞳に光を取り戻す。


「そ、そうだよね!この僕にできないものなんてないんだよ!トンカチの構造が悪いだけ。こんな危険なもの使いこなせる方が野蛮だ!」

「なんで急に自己肯定感高いんだよ。」


 急に元気になったチャーリーに呆れながらも、オリバーは木材を手渡す。チャーリーも自信満々に受け取るが、今回は木材のささくれたところで指を切った。


 


「まだ不貞腐れているのか。」


 青白い月明かりの下、チャーリーは修道服に着替えずに墓場に来ていたため気になったオリバーは様子を見に来た。チャーリーはオリビアの墓石に寄りかかり、彼女が起き上がるのを待っている。


「別に。もう大丈夫だよ。結局手伝いらしいことは何もできなかったけどね。」


 そう言ってチャーリーは下を向いて自分の指をいじる。


「やっぱり不貞腐れてるんじゃねーか。おい。こっちむけ。」


 オリバーは下を向いたチャーリーの顎を無理やり掴み自分の方に向かせる。オレンジ色の丸い瞳がこちらを見つめ、月明かりのせいで肌が余計に青白く映る。掴む顎も華奢で折れてしまいそうだ。オリバーはチャーリーの儚い美しさについ鼓動が早くなる。


「悪い。」


 急に恥ずかしくなったオリバーはチャーリーの顔を離す。


 最近オリバーはチャーリーのせいで自分でもわからない感情に支配される。チャーリーは人とは何かが違う。それをチャーリーは隠しているような気がする。この間も急にいなくなったと思ったらクローゼットから出てくるなど明らかにおかしい点がある。


 肉親も育ての親も亡くしたオリバーは孤独を非常に恐れている節がある。チャーリーが何かを隠すと置いて行かれた気分になって仕方ない。しかしそれを問い詰めたり、正体を探ったりしたならばチャーリーを失ってしまう気がしてならない。こんなにムカつく男、いない方がマシだと思うが、何故かそう考えると心のどこかが痛む。


 お前は一体何者なんだ?


 何度も問いかけようとしてこころの奥底にしまってきた。しかし今日は我慢がならなかった。オリバーはチャーリーの隣に座った。


「なあ。」

「何。」

「お前、変だよな。」


 しかし勇気がでず核心に迫ることはできなかった。


「変?」


 また隠そうとするか?オリバーは嫌な汗をかきながら次の答えを待った。するとチャーリーはオリバーの手をとり自分の顔を包み込むようにさせると目を細めて笑った。


「そうさ。僕は変だよ。でもそれが僕の普通だ。君は僕のことをよく知っている。こんなの姉さん以来だ!」


 オリバーが思っていたこととは全く違う答えが帰ってきてオリバーは呆然とする。しかしチャーリーはオリバーの手の中で嬉しそうに笑っている。その笑顔を見ていたらなんだか全てがどうでもよくなった。


「だから、どうしてお前はそんなに自己肯定感がそんなに高いんだよ。」

「それは姉さんの教育の賜物さ!今度からは君がその役割だな!」

「ふざけんな!いいかげん手離せっ!お前冷えんだよ。」

「照れなくても良いのに。このモチ肌をもっと堪能しても良いんだよ?」


 しかしだんだんと調子に乗ってきたためチャーリーは殴られそうになる。オリバーはすっかり正体を聞く気を失い立ち上がった。


「もういい。俺は寝る。」

「お休み〜。あ、姉さんも起きた。」


 チャーリーは足元の土が盛り上がってきてことで姉が起きたのを察知し、土を掘り起こしていく。そしてオリビアが姿を現すと膝の上に横たわらせて髪を撫でた。


「ねぇ。姉さんどうしよう。僕、オリバーくんと一緒にいると楽しいと思ってたけど、それ以上の気持ちを持ってしまったようだ。」


 チャーリーは頬を少し染め、優しく微笑むと顔を手で覆った。

 


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