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第九夜

教会と修道院に生い茂る雑草を駆除するのに約一ヶ月は時間を要した。それはほとんどをオリバーがやり、イタズラを仕掛けるチャーリーの相手をしていたからだ。残すところは墓場だが、土が柔らかい分すぐに終わるだろう。


「すごいじゃないか!オリバーくん!すっかり綺麗になったよ!」

「お前は遊んでばかりだったけどな。……へっくし!」


 オリバーはチャーリーを叱るも突然大きなくしゃみをした。


「風邪かい?馬鹿は風邪を引かないと言うが。」


 するとすかさず脛を蹴られる。今回は左足のため避けきれなかった。


「風邪じゃねえ。今日から墓場の腐った柵を変えるぞ。木材を集めたから運ぶの手伝え。」


 二人は教会の脇に移動すると木材が大量に積み重なっていた。


「どうしたんだいこんなに多く。金は渡してなかったよな。」

「猟に出た時に木こりの奴と知り合って、肉を分ける代わりに譲ってもらえたんだ。もう形は揃えて切ってある。今日はペンキを塗るぞ。」


 そう言うと、猟で得た金で買ったペンキが入ったバケツをチャーリーに手渡した。


「うわぁ。汚れそう。これ僕もやらなきゃダメかい?」

「ダメに決まってるだろ。ほら。道具を持て。」


 オリバーはチャーリーに刷毛を押し付ける。チャーリーも渋々刷毛を持って塗り始めた。 しかししばらく二人で作業をしているとだんだんと雲行きが怪しくなってきた。雲が厚くなり、今にも雨粒が落ちてきそうだ。そうこうしている間にぼたぼたと雨が降ってきた。


「まずい!まだ乾いていないっていうのにペンキが禿げちまう。おい、布かなんかもってこい!」 

「う、うんわかった。」


 オリバーはなるべく雨風が凌げるように木材を教会の影に寄せる。チャーリーは言われた通り布を持ってきて木材が雨に濡れないように覆った。


「危なかった。あんまり濡れてないと良いけど。」

「ちょっとくらい大丈夫だろ。あーさみぃ。」


 オリバーは半袖の服から出ている腕をさすり修道院に向かっていった。


「ちょっと風邪引かないでくれよ。さっきも大きなくしゃみをしていたし。」

「うるせえ。大丈夫だ。それよりお前こそ細い体して大丈夫かよ。」

「僕は風邪なんか引かないよ!」

「はっ!お前は馬鹿だからな!」

「君の方がよっぽどだ!なら心配はないね!」


 オリバーはチャーリーの言葉に対し拳を振り翳したがいつもより弱々しかった。本当に風邪を引いてしまわないか、チャーリーは少し心配そうにオリバーの背中を見つめた。

 

「オリバーくん!今日は快晴だよ!昨日の続きをしようじゃないか!」


 チャーリーはペンキ塗りを最初は嫌がっていたにも関わらず、やってみたら案外楽しかったようで陽気に修道院に入ってくる。しかしいつもなら朝食を作りに厨房で作業しているはずのオリバーの姿が見えない。チャーリーはわずかな不安を持ちつつも寝室に向かった。


 すると布団の中でガタガタと震えるオリバーが目に映った。


「オリバーくん!?どうしたのそんなに震えて。」

「なんでもねえよ。朝飯作ってくる。」


 チャーリーの心配をよそにオリバーは強がって立ち上がり、よろよろと厨房に向かっていく。しかし厨房でがたっという音がしたためチャーリーは急いで様子を見にいく。するとオリバーは厨房の机にもたれかかっていた。息が荒く顔も赤い。


「本当にオリバーくん風邪引いたんじゃないの?ちょっとおでこを貸してくれ。」


 チャーリーは体温のない手でオリバーの額を触る。冷たいチャーリーの手が触れてオリバーは一瞬ぴくりと体を震わせた。


「熱い。熱があるよオリバーくん!早くベッドに戻って!」

「大丈夫だ。そしたらお前の寝るところがなくなる。」

「一日くらい眠らなくても大丈夫さ。ほら早く。」


 チャーリーは細い体をしている割には力があり、がたいの良いオリバーを支えてベッドに運んだ。布団に潜り込んだオリバーは目を開けているのも辛そうだ。


「ちくしょう。お前の世話になんかなりたくねえのに。」

「馬鹿なことを言うな。僕みたいに目と耳をやられるぞ。僕は薬を買いに今から街に行ってくるから大人しく寝ていろ!」


 そういうとチャーリーはクローゼットに向かい、シャツとパンツの上からマントを被り顔を隠した。

 できればチャーリーは街に行きたくなかった。人の前に姿を現してはいけないという掟があるからだ。しかし人間界で生活することになった以上、もし人に遭遇した時のため人間に擬態できるように、人間が使うものは一通り揃えて生活していたし、オリバーは今の所正体を隠せている。ここら一帯は人里から離れているため死神も来ないのでまさかオリバーと暮らしているなんてバレていないだろう。


 しかし街には事情を知らない死神が魂を回収しにきているかもしれない。そいつらにどこで見られているかわからない状態で人間の目の前に現れているところを見られれば告げ口されるに違いない。そうなるとさらに罪が重なる。しかし今はオリバーの一大事だ。死神に遭遇しないことを願いチャーリーは外に出た。


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