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呪いのダイヤモンドをもらったら

作者: 美雪



「呪いの魔女はいるか?」

「いません」

「これを見ろ」


 突然、家に来た男性が取り出したのは大粒のダイヤモンドだった。


「呪いのダイヤモンドだ。お前のものだ」

「そんなことを言われても困ります。呪われた物を持ち込んでも」

「説明はいらない! 置いていけばいいだけだからな!」


 男性は大粒のダイヤモンドをテーブルの上に置くと家を出て行った。


「困ります……」


 このダイヤモンドはとても綺麗だけど、呪われているらしい。


 テーブルの上にあるダイヤモンドに触ったら、新しい所有者になってしまうと思った。


「私は呪いの魔女ではないですし、呪いを解く力もないのですが……」


 ここは私がお世話になっている呪いの魔女の家。


 呪いの魔女は依頼のために長期的に不在することが多いので、私を留守番役として雇ってくれている。


 呪いの魔女にもらったローブを制服として着用しているので魔女か見習いのように思われてしまうけれど、私はただの一般人。


 掃除をしたり、飾っているものを綺麗にしたり、窓を開けて換気をしたりするのが役目であって、呪い関係については全くわからない。


「仕方がないので放置です」


 このままにしておけば、さっき来た男性が所有者のままになるはず。


 呪われた物というのは、捨てるだけでは所有権が移らない。


 新しい所有者となる者が触れることで所有権が移ると呪いの魔女から教えられていた。


「しばらくは様子見で」


 呪いの魔女が帰って来た時に事情を話せばいいと思った。





 翌日。


「触ってしまいました……」


 呪いのダイヤモンドに触れないようギリギリのところを拭いていると、窓から強風が吹きこんでバタンと大きな音がした。


 それに驚いてしまい、思わずびくっとした時に呪いのダイヤモンドに触ってしまった。


「きっと所有権が私に移ってしまいましたよね……」


 大失敗。


 でも、後悔しても遅い。


 私は覚悟を決めて呪いのダイヤモンドをつまんだ。


「可哀そうに。こんなに綺麗なのに呪われているなんて」


 呪いさえなければ、とても美しいと称えられるダイヤモンドになれるのに。


「とりあえず、神殿に持っていってみましょうか」


 呪いの魔女に雇われているのに、真逆の商売をしている神殿のお世話になるのはちょっと情けない。


 だけど、このままだと悪いことが起きるのは確実なので、覚悟を決めて神殿に行くことにした。





「非常に強い呪いがかかっています」


 銀髪で青い瞳をしたとても美しい神官が担当になってくれた。


 ドキドキしてしまうけれど、呪いのダイヤモンドのために来たことを忘れないようにと自分に言い聞かせた。


「知らない男性が家に来て、テーブルの上に置いて行きました。触らないつもりでいたのですが、偶然触ってしまいました。所有権が私になってしまったと思うのです。呪いが解ければいいなと思ったのですが……お金がかかりそうでしょうか?」


 呪いを解くには対価がいる。


 私の持っているお金で足りるかわからないため、今日はあくまでも聞くだけのつもりで来た。


「どれほどお金を払ってもこの呪いは解けません」

「そんなに強力な呪いなのですか?」

「そうです」


 そんな……。


 でも、ふと気づく。


 別の神官であれば違う意見なのではないかと。


「失礼を承知の上で申し上げるのですが、別の神官の方の見立ても聞きたいのですが?」

「聞くだけ無駄です。私はかなりの実力者です。その私が言うのですから、間違いありません」

「そうですか……でも、呪われたものを持っていると不幸になるはずです。私はどうすればいいでしょうか?」

「助言がほしい場合は、懺悔室のほうへ行きなさい」

「わかりました」

「案内します」


 神官の案内で私は懺悔室に向かった。


「このドアを開けて中に入ってください。担当する者が話しかけてきたら、助言がほしいと言えばいいでしょう」

「ありがとうございます。ご親切にしていただけてよかったです」

「少しでも励ましたかったからです」

「本当にありがとうございます。お気遣いに心から感謝申し上げます」


 神官に深々と一礼すると、ドアを開けて懺悔室に入った。


 少しすると、隣のほうでドアが開いて閉まる音がした。


 仕切り板にある小窓が開く。


「迷える者は答えを求めます。どうしてここにいるのですか?」


 どう考えてもさっきの神官の声だった。


「とても困っているので助言がほしいのです」

「話してください」


 私は見知らぬ男性が来て呪いのダイヤモンドをテーブルに置いていったことを話した。


 さっきとほとんど同じ話だけど。


「貴方の家に置いて行ったのですか?」

「実を言いますと、私を雇ってくれている人の家です」


 雇い主は不在が多いため、留守番役として雇われた。


 掃除をしたり、飾ってあるものを綺麗に拭いたり、部屋の換気をしたりといったことをしている。


 泥棒が入らないように住み込みをしている。


 雇い主が帰ってくる前にこのダイヤモンドを何とかしないといけないような気がして神殿に来たことを説明した。


「もしかすると、それは贈り物だったのかもしれません」

「贈り物? そんな感じはしませんでしたけれど」


 呪いのダイヤモンドを捨てていったように見えた。


「よく思い出してください。男性はどんな風に言ったのですか? 一言一句、教えてください。それが手掛かりになるかもしれません」


 私は一生懸命思い出した。


「誰誰はいるか? これを見ろ。呪いのダイヤモンドだ。お前のものだ。説明はいらない。置いていけばいいだけだからな。こんな感じでした」

「貴方を雇っているのはダレダレという人ですか?」

「違います。雇い主の名前を知らないので、適当に言いました」

「名前を知らない人に雇われているのですか?」

「そうです。例えばですが、呪いの魔女と言うような感じです。名前ではないですよね?」

「なるほど」


 神官はしばらく黙っていた。


「助言をします。そのダイヤモンドの呪いは普通の方法では解けません。ですので、宝飾品店に持って行きなさい」

「宝飾品店にダイヤモンドを売ればいいのですか?」

「いいえ。売っても所有者は変わりません。ですので、指輪にしてほしいと依頼します」

「指輪にするのですか?」

「そうです。貴方のサイズの指輪にします。そして、指輪にしたらもう一度ここに持って来てください」

「指輪にすれば呪いが解けるのでしょうか?」

「その可能性があります。ですが、ダイヤモンドの呪いはとても強いので、普通の者では呪いを解くことはできないでしょう。神殿に来たらアダルバートを呼んでほしいと言いなさい」

「わかりました。ちなみに報酬はいくらぐらいかかりそうでしょうか?」

「呪いが解けるかどうかはわかりません。まずは指輪にして持ってきなさい」

「はい。ありがとうございました」


 小窓が閉まった。


 ドアを開けて懺悔室の外に出ると、神官が小袋を持って立っていた。


「指輪にするにはお金が必要です。これを使いなさい」

「よろしいのですか?」

「必ず助言通りにするのです」

「わかりました」


 神官は依頼する宝飾品店の名称も教えてくれたので、そこに行ってダイヤモンドを見せ、指輪にしてほしいと頼んだ。


 かなりのお金がかかると言われたけれど、神官がくれた袋に金貨が入っていたので大丈夫だった。


 あの神官がお金持ちなのか、神殿のお金なのか、それとも……。


 よくわからないけれど、助言通りにした。





 一週間後。


 宝飾品店に行って指輪を受け取った。


「ありがとうございました」

「こちらこそありがとうございました」


 呪いのダイヤモンドを預けて大丈夫なのか、もしかしたらそれで所有権がお店の人や職人に移るのではないかなどと考えたけれど、神官の助言通りにすることにした。


 神殿に行き、アダルバート様を呼んでほしいと言った。


 やがて、前に相談した神官――アダルバート様が来た。


「指輪を持ってきました」

「自分のサイズにしましたか?」

「しました」

「どの指のサイズにしましたか?」

「宝飾品店に見せたら、左の薬指のサイズがいいと言われたので、それにしました」

「良かったです。どの指のサイズにするかを伝えていなかったので、違う場所だったら困ると思っていました」

「そうですか」

「では、指輪をください」

「はい」


 アダルバート様に指輪を渡した。


「一緒に来てください」


 アダルバート様のあとについていくと、とても立派な祭壇のところへ連れていかれた。


「私と向かい合うように立ってください」

「はい」


 私はアダルバート様に言われた通りにした。


「貴方の名前は?」

「フィーネです」

「家名は?」

「必要ですか?」

「呪いを解くためです」

「ノートリアスです」


 アダルバート様は私をじっと見つめた。


「本当に?」

「本当です」


 とても恥ずかしかった。


 なぜなら、私の家名は悪名高いことで有名だから。


「私がこれからある問いかけをします。必ず、はいと答えてください。それで呪いが解けるかもしれませんので、他の言葉は言わないように」

「はい」

「では、言います。フィーネ・ノートリアスに結婚を申し込みます。私の妻になってくれますね?」


 結婚の申し込み……?


 でも、これは呪いを解くための問いかけ。


 そして、はいと答えないといけない。


「はい」

「これは私の愛の証明です」


 アダルバート様は私の左手を取ると指輪をはめた。


「愛の加護をフィーネに」


 その瞬間、ダイヤモンドから光が溢れた。


 美しい輝きがキラキラと空中に輝く。


 どう見てもそれは呪いでも禍々しさではない。


 まさに愛の加護が宿り、神の祝福を受けたような感じがした。


「呪いは解けました」


 指輪を見る。


 ダイヤモンドから感じるのは溢れるほどの美しい力だった。


「確かに呪いが解けたようです」

「これでフィーネの望みは叶いました。その対価が必要です」

「そうですね。いくらでしょうか?」

「愛はお金に変えられません。祭壇の前で誓った以上、フィーネは私と結婚しなくてはいけません」

「もしかして、アダルバート様と結婚することが対価ということでしょうか?」

「そうです。そのダイヤモンドは愛が失われたことによって呪われてしまいました。だからこそ、愛の証とすることで呪いが解けたのです」

「なるほど」

「当然ですが、偽りの愛で呪いが解けるわけがありません。呪いが解けたのは、愛が本物だからです。私はフィーネを愛しています」

「名前も知らなかったのに?」

「初めて会った時、フィーネはフードで顔を隠していました」

「顔も見ていないのに、私のことを好きになったのですか?」

「初めてフィーネの顔を見たのは呪いの魔女の家でした」

「えっ!」


 神官のアダルバート様が呪いの魔女の家に来たことがあるなんて思わなかった。


「その時の私はフードを深くかぶり、顔も素性も隠していました」

「なるほど」

「用件が終わったので帰ることにしました。外に出たあと、ふと家のほうを見ると、女性が窓を開けていました。呪いの魔女の家にいるのは二人しかいません。呪いの魔女とその魔女に雇われている者だけです」

「それで私の姿を知っていたのに、名前は知らなかったのですね」

「窓を開けた女性を一目見て心を奪われてしまいました。どのようにして私の心を奪い返すか迷ったのですが、丁度良いものがありました。呪いのダイヤモンドです」

「えっ?」

「部下に命じて、呪いの魔女の家に置いてくるよう言いました。予想通り、困ってしまったフィーネが神殿に来ました」

「私を神殿に来るように仕向けたのですね」

「指輪のサイズがわからなかったので、フィーネ自身が宝飾品店に行けばいいと思いました。呪いが解ければ、愛の力を宿すダイヤモンドの指輪になります。私の愛が強力な呪いを解いてしまうほど強く本物であることも示せます」

「ようするに最初から全部計画して、その通りに進んだわけですね」

「本当はこのような方法を取りたくはありませんでした。ですが、留守番役を手放したくない呪いの魔女が邪魔をすると困るので、誓約を盾にしようと思いました」

「なるほど」

「フィーネを必ず幸せにします」

「神官は結婚できるのですか?」

「できません。ですので、神官をやめます」

「いいのですか?」

「大丈夫です。神官のふりをしていたのをやめるだけなので」

「神官のふり?」

「全てはフィーネと結婚するためです。愛する者と結ばれたい私を神は許しくれるでしょう」

「そうですか」

「では、一緒に行きましょう」

「どこに?」

「私の家に。結婚したので夫婦で住みます」

「もう結婚したのですか?」

「祭壇の前で誓ったので結婚しました」

「本当にいいのですか? 私はノートリアス家の者です。一生結婚はできないと思って、呪いの魔女の家で働いていたぐらいです」

「悪名高い魔法使いの家ですね」

「そうです。先祖が相当悪名高い魔法使いだったらしくて、家名がノートリアスになりました。家名を聞くと、誰もが私から離れていきます」

「構いません。私の家も悪名高いので」

「そうなのですか?」

「ええ。ですので、私とフィーネは似合いの夫婦になれるでしょう」

「そうですか。それなら大丈夫そうですね」

「大丈夫です。私に任せてください」

「わかりました。アダルバート様に任せます」

「ああ、フィーネ……ようやく私のものになりました!」


 次の瞬間、アダルバート様の髪の色が銀から黒に変わった。


 瞳の色は青から赤になっている。


 神秘的な雰囲気の神官だったのに、今は妖しい雰囲気をまとった美青年になっていた。


「色を変えたのですか?」

「本当はこの色です。神官に見えるよう変えていました」

「そうですか。今の色のほうが似合っている気がします。悪名高い家の方みたいなので」

「嬉しいです」


 アダルバート様は妖しい笑みを浮かべた。


「では、行きましょう。転移魔法を使うので離れないように」


 アダルバート様が私を抱きしめる。


「アダルバート様の家に行くのですよね?」

「そうです。魔王城です」

「魔王城……」


 確かに悪名高い家だと思った。



 こうして、私は魔王のアダルバート様に溺愛されることになったのだった。



 お読みいただきありがとうございました。

 ブックマークや評価などをしていただけると、この作品をどう思われたのかがわかるので参考になりますし励みになります!


 「もう恋なんてしない!と思った私は悪役令嬢」(連載中)

 「後宮は有料です!」(長期連載中)


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