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平熱日記  作者: にぼしS
1/1

ラーメン!!

「外食に行こう!」

突然父にそう言われた。

いつものことながらこの男の自己満足に付き合うのにはうんざりだ。


そう思いながら私は車の後部座席に乗り込んだ。


隣に妹、着飾りおしゃれのおしゃまさん。

今日は大きなリボンにポニーテール。

かわいい。


助手席には母こちらお化粧ばっちしこい!

運転席にはもちろん我父足毛ボーボ!


そして私!!


我ら目指すはラーメン屋!!


我が家で外食と言ったらラーメン、ラーメンしかないのである。


父が家族サービスとして気まぐれにおすすめのラーメン屋に連れていく。


父が選ぶ場所といったら例外なくお昼時には長蛇の列。


頑固な父はどんな待ち時間でも必ず待つのである。

御本人は待っても美味しいものが食べれれば良いかもしれないが、付き合わせられる家族はたまったものではない。


特に夏だと外で待つ間は地獄。

身体の弱い妹はそれが原因で具合悪くするのだ。

そうすると彼女、機嫌悪くなり家族の空気は最悪。


私は今から怒ることを予期して、

憂鬱に窓を眺めていた。


10分程してついた。


なんと並んでない!!


私達家族は着いて早速店の中に入った。


店員さんに案内されたのは畳の小上がりだった。

なんと畳の上にテーブルと椅子があるではないか!!

ラーメン屋なのにまるで料亭のような風格!


これは一味違うな。

私は期待に胸を膨らませた。


しかし、それと相反する気持ちが湧き出てきた。


外で待たなくて良いのは嬉しいが、いつも並んでばかりいるので、全く並ばないとどうも不安だ。

店内はガラガラで空いている。


この店、果たして味の方は大丈夫なのだろうか?


不安に思いながらメニュー表をめくった。


私はいつも一番に目についたものを食べると決めているので、最初に目についたつけ麺を選んだ。


期待と不安を抱いて待つこと10分、

ラーメンがきた。



……美しい。

最初に頭に浮かんだ感想はそれである。

やっぱりここは料亭であったのか、

そんな錯覚すら巻き起こってきた。


盛り付けが見事だ。

赤いおぼんの上に白いおわん。

黄身色の麺には白い生の鯛とピンクの茹で鶏、レモンが仲良く乗っかって、緑の葉っぱがちょっぴり飾られている。

色鮮やかで賑やかだ。


付け合せのお葱にミョウガ、ワサビを足したらますます騒がしい。





私は麺だけ箸で取って、

石のおわんの中のアッツアツのラーメンスープに潜らせた。


そうしてスルリと口に滑りこませる。

旨い。

こってり煮干し味、モッチモチの麺。


今度は鯛と鶏肉も一緒に頂く。

麺にはちょっぴりレモンを、鯛にはワサビ。



口いっぱいに頬張って、

幸せを噛み締めた。



「な?来て良かっただろう?」

父がニヤつきながら私の顔をジロジロ見てくる。


私は黙って片手でグッドマークをした。



結局、スープまで全部飲んでしまった。

今の私の口はとんでもなく臭いことだろう。


妹と母もスープまで飲んでいた。


夕方、父と走った。


ラーメンで蓄えたカロリーを少しでも燃やせねば。


私は必死に腕と足を動かした。


夕方に走るのは気持ちが良い。

気温も下がって、涼しいし、

なにより景色が良い。


日が落ちてからの景色は違う。

長い草の影がお化けのように不気味で、

ひとりで走るには心細い。


耳をすませば、

鳥の鳴き声にザワザワする。


見上げれば、

空の様子はいつも変わる。

今日は紫の雲がぽつりぽつり浮かんで、空の色は上はく澄んだような淡い青、下の方は黄色がかったオレンジ色だった。

それが境目でグラデーションを作っている。

まるでキャンバスの水彩絵の具が混ざり合うよう。


うっとりずっと眺めていたいが、

そうもいかない。


ぼんやりしていると父親に置いて行かれてしまう。


前方を走る父はゆらゆらケツを揺らしている。

時々カーペッと聞こえてくる。




「ちゃん(私のあだ名)、ちゃん、ちゃんちゃこり〜ん」

父は歌を歌いながら軽々と走る。

こちらは息があがりそうだと言うのに……。 


走り終わるといつも気分爽快。

父が私に手を伸ばしてきた。

私は思いっきりその手を叩いた。

お互い汗で濡れている。


「明日も走ろうな」

父が言った。


「いいよ。一緒に走ろう。」

私が言った。



父と走るのは悪くはない。

私はこの時間が好きだ。



……変なことを口ずさみながら、痰を道に撒き散らすのだけは父に勘弁願いたいが。


私は家に帰ってからシャワーを浴びて、

すぐに床に入った。


最近では前より眠れるようになった。

前は布団に入るといつも頭の中をぐるぐると思考が回った。

明日を呪い、朝目覚めないことを祈って日々目を瞑る。


それが今ではちょっとだけ楽しみに変わった。

明日何を見て、聞いて、食べようか、

考えるとワクワクする。

今日の幸福を噛み締めて明日を望もう。



そんな私は今年の春に高校を辞めた。

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