１８ですの♬結婚したくて泣いちゃいます

D いつものように愛したい

　二人で遅いお夕飯を食べ終えた。

　白蓮の手が荒れてはいけないので、いつも通り智樹が洗い物をしていた。

「今日は、お茶碗拭きを私にもさせてくださいませな」

「いいけれども、手を冷やさないようにね。それから、お茶碗で指を怪我しないようにして欲しいな」

　白蓮は、頬に涙を伝わらせて、眉間にしわまで寄せた。

「や、優しくしないでよ……」

「いや、俺にとっては普通だって」

　智樹は、ささっと茶碗を片付けた。

「やーだー。もうもうもうもう……！　クッションを投げますわよ」

「今度も受け止めるよ。幾度でもね」

　袖をまくったままの智樹が、キッチンにじいっと立つ。

「やけくそだって、分かってますわ。私のワガママだって分かってますったら！」

「な、だったら、ソファーに座ろう。クッションは投げるものではないよね」

　泣きじゃくってしまった白蓮の肩を抱えて、ソファーへ座らせた。

　――突然、智樹がその口をふさぐように優しくキスをした。

「ごめんね、白蓮」

　優しくて心がこもっていた。

「ごめんなさいね、智樹さん」

　反省しきりの感じだった。　

「いや、俺が悪いんだから……」

　智樹はいつでも白蓮の目を見ながら話す。

　大切なときは尚更だ。

「うううん。ジェラシーで一杯でしたの。だから、恥ずかしくて、恥ずかしくて……」

　白蓮は目を逸らしながらだ。

「それが当たり前の感情だよ。俺だってきっと同じ気持ちになると思うよ」

　二人とも気持ちにゆとりが出てくる。

「ごめんね、智樹さん」

「ごめんね、白蓮」

　二人で見詰め合っている内にぷっと吹き出してしまった。

「白蓮、可愛い！　ふふふ」

「なあに？　子供扱いして。くすくす」

「俺って甲斐性ないだろ？　経済的にさ。去年の白蓮の方が収入多いんだよ」

　食後のモカを飲みながら、胸の内を開く。

「俺はあの頃はまだ自分の絵って言うのができていなくってさ、何を撮っても駄目。白蓮に出逢ってからだよ。そう……写真集、『コム(Comme)・ダビトゥードゥ(d'habitude)』を作ったろ。グアムへロケとか行って、凄く楽しかった。あれで変われたのかなって感じなんだ」

「そう……。知らなくてごめんなさいね」

　白蓮は、ひたすら聞き入る。

「今日の仕事は前々からオファーがあったけど、セミヌードだなんて過激な仕事だったんだ。白蓮を想えばもうしないって誓える」

　柄にもなく、ウインクなんかしてみせた。

「えい、ウインク返しですわ！」

　いつもはバシッと打ち返す所だけど、白蓮からもウインクした。

「私ね、ヤキモチだったみたい」

「あはは。俺みたいなのがモテていいの？」

　照れると頭を掻く。

「智樹さんってカッコいいよ。優しいし」

　お返しの頬にキスをした。

　◇◇◇

　智樹は、明るく笑いながら、バッグを持ってきた。

「実は、この間からさ、秘密にしていたことがあるんだ」

「なあに？」

　白蓮は涙を拭いながら尋ねる。

「これ……。買ってあげられなかった」

　ピンクのハート型のケースに入れられていた。

　智樹がケースから取り出したのは、白く細い私の指先になじむプラチナ。

　まるでメビウスのリングのようだった。

　内側には不思議な力を持つサムシングブルーがついている。

「マリッジリング？」

「マリッジリング！」

　二人分を互いに持つと自然と呼吸も落ち着いてくる。

「白蓮の気持ちに可哀想なことをしていたから。せめて、これをプレゼントしてあげたくてね。仕事に力を入れていたんだよ。決して汚れたお金ではないよ」

　一呼吸して目を瞑った。

「お揃いだよ……」

　小さな声で。

「さあ、左手を出して……」

　二人で……。

　指輪を交換した……。

「私達、結婚式はできなかったけどこうして――」

「――愛し合えるねって、続けたいんだよな」

　耳たぶまで真っ赤になりながら、幾度もキスを繰り返した。

　白蓮も智樹の気持ちが唇から伝わって、切なさがきゅんと溶けて行った。

　愛するのは口先だけでも言える。

　愛するのは肉体でも語れる。

　本当に愛することについて、白蓮は考えていた。

　◇◇◇　

　智樹はカメラを構えた。

「指輪交換と初の白蓮セミヌード記念日だね。じゃあ、写真を撮るよ」

「きゃ！　まだ服着てませんわ！」

　慌てて胸に脱ぎ散らかした下着を押し当てる。

「確かにセミヌードの私を撮って欲しいとお願いしましたわ。けど、けど、けど」

「ぶつぶつ口を尖らせている白蓮も可愛いんですけど……。さっきのキス、続きは？」

「ごめんしてですわ。もうジェラシーは焼きませんからね」

　白蓮はツンツンと智樹の頬を叩いた。

　智樹が、又叩かれてしまったと笑いを堪えた。

　連写モードで二人の写真を撮る。

　沢山ベストショットがあるだろう。

「ウソ！　白蓮がもうジェラシーは焼かないって？　うううん良いんだよ。素直なままが好きなんだ」

　バックハグについで頬を摺り寄せられた。

「これからもよろしく。写真集の『コム(Comme)・ダビトゥードゥ(d'habitude)』のタイトルは、フランス語で『いつものように』って意味なんだから」

「これからも、いつものようにね」と二人。

　パシャ。

　パシャ。

　パシャ。

　ベストショットの写真が微笑む。

「私ね、ファインダーから覗かれないのも好きなの。智樹さん以外には見せないでね」

　二人で頬を擦り寄せる。

　白蓮からキスを贈り、智樹にしなだれる。

「――智樹だけに永遠の愛を贈りたい」

Ｆｉｎ．

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こんばんは。

いすみ 静江です。

拙作を完結までお読みいただきありがとうございました。

この二人は将来もべったべたなのでしょうねと思いながらにやけてました。

カクヨム版とは異なる点も多いです。

お楽しみいただけたでしょうか。

( ^^) _旦~~お茶でも飲まれてください。