私が貰ってもいいわよね
彼女が目指した先は、宝物庫だ。
(ブライアンはどうしてあんな思わせぶりなことを言ったのかしら?)
宝物庫の扉の前には門番がいたが、ベロニカが鍵を見せれば引き下がった。
引き下がった、というか引き下がらせた、と言うべきか。というのも、困惑する門番を無視して、強引にベロニカは中に入ってしまったのだ。
王が愛人を溺愛しているのは、誰しもが知る事実。
ここですげなく断れば、王から罰を受けるかもしれないと門番が躊躇しているうちに、ベロニカは宝物庫の中に入ってしまった。
「わあ……!!」
宝物庫に入ったベロニカは、喜びと興奮に声を上げた。
宝物庫の中には、ショーケースがいくつも並んでいる。
魔法灯をつけると、ベロニカはそれらをひとつずつ見ていった。
ショーケースには鍵が掛けられていたが、鍵束のひとつを差し込めば、あっさりと開く。
「この宝石、すっごく綺麗……」
ベロニカが手に取ったのは、もう今は採れない希少価値の高い宝石だった。
代々王族に伝わるもので、祭典の時などに使用される。
ベロニカは当然のようにそれをシャトレーヌに提げている小物入れにしまった。
(ここにあるのはいずれ私のものになるんだから、いいわよね?)
どれもこれも綺麗で美しい。
ベロニカは次々にそれを素手で触りながら、うっとりと眺めていく。
「……ねえ、お母様。私、やったわ。この国で一番高貴な淑女になるの」
自分に酔ったようにベロニカは言った。
ベロニカの母は、舞台女優だった。
ベルネット伯爵と彼女の母は、いわゆるパトロンという関係だった。
ベロニカは、誤って出来てしまった子なのだった。
ベルネット伯爵は当初、ベロニカを認知せずにいたが、それも十年経つと、事情が変わった。
というのも、ベルネット伯爵夫妻は子に恵まれなかったのだ。
苦肉の策で、ベルネット伯爵はベロニカを実子として迎えることに決めた。彼女が十五歳になる直前。ベロニカはベルネット伯爵家に迎えられ、伯爵令嬢として社交界デビューを果たした。
そこで彼女は、当時王太子だったブライアンと再会したのだ。
(……まさか、ブライアンが王子様だったとは思わなかったけど)
伯爵家に迎え入れられるまで、ベロニカは酒場で働いていた。
そこで、彼女はブライアンと出会ったのだ。
ブレスレット、髪飾り、首飾り……ベロニカは、総数、十点以上を宝物庫から持ち出した。
(そろそろ帰ろうかな?)
まだまだ見ていたいが、ここはなんだか気味が悪い。
(ひとがいないから?灯りが暗いからかしら……)
もっと明るくしたいが、魔力灯は抑えられており、ベロニカは魔法行使するだけの魔力がない。燭台でも持ち込むべきだった、と今更ながら彼女は思った。
もっとも、火器を持ち込もうとしていればまず間違いなく、門番に断られていただろう。そしてベロニカは逆上して、揉めに揉めていたに違いない。
ここにあるのはみな、歴史的価値の高い貴重品か、希少価値の高い高価な品ばかり。傷まないよう、温度管理や適度な環境を徹底しているのである。
だからこそ、この薄暗さなのだが──
肌寒さを覚えたベロニカは、踵を返した。
そのまま出口に向かおうとして、ピタリと彼女は足を止める。
奥のショーケースに収められた、ひとつの人形が気になったからだ。
(お人形……?)
王家の宝物庫に、人形。
好奇心を擽られた彼女は、そのまま歩いていく。ショーケースの中に置かれた人形は手のひらサイズの小さなものだったが、しかし宝石で作られていた。
肌は陶器のようだが、嵌められた瞳も、髪も、ドレスも、全て宝石で出来ているようだ。
「…………綺麗」
うっとり、ベロニカは見つめた。
こんなにキラキラした人形は、生まれて初めて見た。
眩い輝き。キラキラとしたそれに、彼女は目を奪われた。
気がつけばベロニカは、ショーケースを開け、その人形を取り出していた。
瞳に嵌められているのは、レッドダイヤモンドだろうか。
髪は、ブルーダイヤモンドで彩られているようだ。
暗闇にあってなお分かるほどの煌めき。……本物のダイヤモンドだ。
その輝きに魅せられたように、ベロニカは人形を撫でた。
宝物庫のものを、素手で触るなど文官が見たら間違いなく卒倒する場面だ。
ベロニカはしばらくの沈黙の後、自問するように言った。
「……この子、私が貰ってもいいわよね?」
人形が答えるように、その瞳の宝石が煌めいた。




