取り扱い注意の、劇物
ベロニカと王妃の仲が悪いことは周知の事実。城勤めの人間なら誰しもが知る事実。
しかしこうも堂々と、王族であり、敬愛されるべき立場のクレメンティーナを悪し様に言うベロニカに、彼らは驚いたのだ。
侍女が、恐る恐るといった様子でベロニカに忠言する。
「恐れながら申し上げます。王妃陛下をそのように仰るのはベロニカ様のお立場を──」
「私が悪いって言うの!?」
侍女の声をさえぎって、ベロニカが眦を釣り上げる。その声の大きさに侍女は驚いたように身をすくめたが、変わらず淡々とした声で答えた。
「そうではなく──」
「私が悪いって言いたいんでしょう。だから、クレメンティーナ様に嫌がらせをされても受け入れろって言いたいの?あなたもクレメンティーナ様の手先なの?」
「違います。ベロニカ様、私は」
「もういいわ。陛下に報告しておくから!早く行きなさいよ!!」
ベロニカは侍女の言葉を一切聞かず、最後には彼女の肩を押した。
肩を押された侍女はよろけて転びそうになったが、それを騎士が支える。
ベロニカは、そんなふたりを振り返ることなく、踵を返した。
気分は、さっき以上に最悪だった。
残された騎士と侍女は、互いに顔を見合わせる。
どちらからともなく、ため息が零れた。
「……どうしますか?」
侍女ソフィアの声に、騎士のカインは首を横に振る。
ソフィアは薄茶色の髪をシニヨンに纏めており、ベロニカの言うように真面目そうな雰囲気がある。
そしてカインは、垂れ目に大きな瞳が印象的な、好青年という言葉がピッタリの騎士だった。
髪型は、騎士らしく、襟足は刈り上げている。
カインは弱ったようにため息を吐いた。
そのままガリガリと首元をかいて、彼はソフィアを見る。
「……ひとまず、陛下に報告に行こう」
「陛下が私たちをお呼びなんて、嘘に決まっているのにね」
ぽつりとソフィアは呟いた。
城勤めの人間には有名な話だ。
【ベロニカの言葉は信用してはならない】
言っていることが二転三転するのは常だし、いつ自分に責任転嫁されるかわかったものでは無い。
それは城の中では周知の事実で、ベロニカは使用人から避けられていた。
社交界では真実を知るものがいないために、ベロニカは哀れな女として見られているが──
(とんでもないわ。あの女は、毒よ。取り扱い注意の、劇物)
傷んだ果物を一緒に入れると腐敗が広がってしまうように、あの女そのものがカビ菌のようなものだ。
そこまで考えて、ソフィアは訂正した。
(カビ菌は役に立つことも多いわ。ベロニカ様と一緒にしちゃ悪いわね)
つい先日、作ったジャムにカビが生えているのに気付いたソフィアはそんなことを思う。
城勤めをする上で、一番の障害。
最大のストレス発生源。
トラブル生成者。
それが、城勤めをしている人間の、ベロニカへの総意だった。
☆
上手く騎士と侍女を振り払うと、ベロニカはその足でまず、国王の執務室へ向かった。
見張りの騎士には、許可を得ているとその場しのぎの嘘を吐き、入室する。
ブライアンは不在だった。ちょうどいい。
彼がいたら、貰うのに手間がかかっていた。
執務室で目的のものを入手すると、ベロニカはそのまま目的地へ直行した。
彼女の目的の場所。
ブライアンが行ってはならないと彼女に戒めたのは──。
国王の私室で見つけた合鍵を使って、ベロニカは地下へと下っていく。
この先に、彼女の目的地がある。




